8話
それから、しばらくの間フィロルさんは何か察してくれたように私をそっとしておいてくれた。
そしてそれも落ち着いた頃、部屋の扉が三回ほどノックされ「失礼します」と、言ってメルさんが戻ってきた。
「ティーナさん、これを」
「ありがとうございます」
そう言われてメルさんに渡されたのは銀色の新しいギルドカードだった。前の銅のギルドカードと違うのはカードの色とランクの表記がGランクからBランクになっているところだ。
ギルドカードを作って、たった数時間で新しいものに変わってしまうというのは少し悲しいが、これから頑張ろうと意気込んだ。
「あ!忘れてましたけどその、私が倒してきたブラックローウルフ?引き取ってもらえるんですよね?!」
「はい。もちろんです。ですがブラックローウルフを引き取ったとしてもその報酬は後ほどということになります」
「えっ?!どうしてですか?!」
このままでは、今夜の宿と食事が!とティーナは顔は絶望に染まった。
そんなティーナの様子に気づいたフィロルは焦ったようにティーナに言った。
「あ、安心してください!薬草採取の方の依頼の報酬はすぐに出せますから!」
そうなのかとティーナはほっとした。
「あの、宿を早めに取りたいのでなるべく早くお願いできますか?」
「分かりました。メル、薬草採取の方の報酬を」
フィロルさんがそういうと、またメルさんは部屋を出ていった。
「ブラックローウルフの方は先程出していただいたものだけ引き取って報酬を渡します。ですが残りの約三十体は、それに値する金額を今出すことができません。ただ魔力をかなり消耗すると思うのであとでギルドの裏にある広場に置いていってください。報酬は後日渡しますので承知しておいてください」
「分かりました」
そう言って立ち上がったフィロルさんについていくと、先程フィロルさんが言っていた広場と思われる場所についた。あまり使われることがないのか、人は私たち以外いなかった。
「ではここに、ブラックローウルフを全て出していただけますか?」
そう言われ、この広さなら全く問題ないだろうと思い残りのブラックローウルフを出した。
「まさか、本当に全部.........」
隣で何やらフィロルさんが呟いているが私は気にせず話しかけた。
「あの、これでいいですか?」
私にそう言われてようやく気がついたのかフィロルさんは、ハッとして言った。
「も、もちろんですよ!何の問題もありません。ただ、本当に傷がなくて.........」
「傷が無いと何かあるんですか?」
フィロルさんの言い方が気になり、聞いてみた。まさか、引き取ってもらうことができなかったりするのだろうか.........
「まぁ、何かあるというかとてもいいことなんですよ。うん。ただ、傷が無く綺麗なまますぎてまた報酬が高くなるなと思っただけで.........」
「ギルドとしてもそれだけのお金を集めるのは大変なんですよ」と、フィロルはティーナに向かって苦笑した。
その時広場の私たちが来た入り口の方から、「あっ!ここにいらっしゃったんですね!」と、薬草採取の報酬を取りに行ったメルさんが小走りで近づいてきた。
「ギルド長、誰にも何も言わずに場所を移動されると困ります」
少し拗ねたようなメルの口調に気づいたフィロルは「ごめん、ごめん」と微笑しながら言った。それを見てメルは「反省して下さい!」と返しはぁ、と呆れたようにため息をつくと私に「すみません。うちのギルド長が.........あとこれ、ティーナさんの薬草採取の報酬です。」
「あ、はい!ありがとうございます」
フィロルとメルのやりとりを見入っていて少し反応に遅れながらも、ティーナはメルから報酬が入っていると思われる袋を受け取った。
好奇心に駆られ袋を開けてみるとそこには見たことのない銀の貨幣が二十五枚入っていた。
「あの、本当に申し訳ないんですけど私、この貨幣は見たことなくて.........」
私がそういうと二人ともとても驚いた顔をした。だが、そのあとメルさんが貨幣の価値を教えてくれることになった。
まず、小さめの銅貨(小銅貨)は一枚で屋台で肉串を一本買えるくらい。
次に、大きめの銅貨(大銅貨)は一枚で二日程の生活費と同じくらい。
次に、小さめの銀貨(小銀貨)は一枚で一週間ほどの生活費と同じくらい。
また、大きめの銀貨(大銀貨)は一枚で一ヶ月ほどの生活費と同じくらい。
そして、小さめの金貨(小金貨)は一枚で立派な家が建てられるくらい。
最後に、大きめの金貨(大金貨)は一枚で貴族でいう伯爵家ほどの立派な屋敷が建てられるくらいだという。
そこで私は驚いた。入っていたのは小銀貨でそれが二十五枚あるということは半年間の生活費を稼いだということなのだ。
そんな私の様子に気がついたのかメルさんが言った。
「それは決して間違えている訳ではありません。返されても困るので受け取ってくださいね?」
そう言ったメルさんは心なしか黒い笑みを浮かべているように見えた。
私はもうこれは何を言ってもダメなのだと本能で感じ、無くすと怖いので異空間の魔法を使い全てを異空間に入れた。
ローブを着ようとも思ったが、着ていると逆に怪しまれるということが分かり、フィロルさんとメルさんは特に何も言っていなかった?ので、別に大丈夫だろうとローブを被らずに、フィロルさんとメルさんに挨拶をしてからギルドをあとにした。
お読みいただきありがとうございます!
次回は5・6・7話の出来事をフィロル目線で書きたいと思います。
次の9話だけでフィロル目線の話は終わらせられるように頑張ります!