5話
「んなっ!」
(お、おい!見たか今の!無詠唱だったぞ!)
(ああ、信じらんねぇ.........声を聞く限りじゃ、まだ十代後半くらいなのに......)
なんだか、周りにいる冒険者達がこちらを見てこそこそ話しているが今はどうでもいい。
「大きくて出すのは一頭にしておいたんですけど、同じのがまだ三十二頭いるんですけどどこに出せばいいですか?」
「「「「「「はぁぁぁぁぁああ?!?!」」」」」」
今まで小声で話していた冒険者達が全員の心が一つになった瞬間だった。
「え?!な、なんですか?!私、何か悪いことしちゃいましたか?!」
私は驚いて何かしてしまったかと焦っているが、周りは自覚していないのかとそれにまた驚くのだった。
「だっ、だってティーナさん......。これ一体でレベルCランクの魔物ですよ?!それに三十三頭ってことは、群れてたってことですよね?!これは普通群れたりしない魔物なんです!きっと最近の魔物の異常発生などで異変があったんでしょうね。ですが!それを!怪我なしで帰ってきてあまり強くない魔物だったからってどういうことですか!というか薬草採取の依頼受けてどうしてそんなことになるんですか!こんなのが森の入り口にいるわけないじゃないですか!」
メルの勢いに押されティーナだけでなく周りの騒いでいた冒険者達までもが黙り込んでしまった。
「え、えっと、ごめんなさい?」
「わかってませんよね?!それにあなた森の入り口からどのくらい奥まで入ったんですか?!」
「ええっと確か.........魔法で急いでたから、普通に歩いて四時間くらいのところ......ですかね?」
ティーナは、ローブで隠している顔を誰にも見られないようにこてん、と傾げた。
「はあ?!バカなんですか?!というかなんで生きてるんですか?!というかそのあなたが倒した群れ恐らく数も数ですからSランク相当の群れですよ?!」
それを聞いて驚いたのはティーナの方だった。
なんで生きてるんですか、と聞かれたのは流石に驚いた。それにSランクって、基準はわからないけどやはりおかしい。
「あの、メルさん。あの狼の魔物、そんなに強い魔物だったんですか?何かに似てる魔物と勘違いしてるんじゃ.........」
自分がそんなすごい魔物を瞬殺できる訳がない。きっとメルが勘違いしているんだとティーナは思った。
「んな訳無いに決まってるじゃないですか!よく見てください!あなたが持ってきたこの魔物!真っ黒な毛並みに頭の中心に生えた黒いツノ!それに体長は約四メートル!どう見ても私が知るブラックローウルフですよ!」
「ぶ、ブラックロー?」
「そうですよ!」
そこまで言うと、メルは既に息も絶え絶えになって、肩で呼吸をしていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃありませんよ!というか、誰のせいですか!誰の!」
「えっと.........私......ですか?」
確かにメルさんが言っている魔物と私が倒した魔物の特徴は一致しているがやはり信じられなかった。だが、これ以上メルさんを困らせるわけにもいかないので、ここは引き下がることにした。
「絶対わかってないですよね......まぁ、もういいです。とにかく!私についてきてください!残りの魔物のこと、それとこんなことをしでかしたあなたをGランクのまま放置することは出来ません!」
「は、はぁ.........」
私は曖昧に頷いて、機嫌の悪いメルさんの後を追いかけて行った。
そして、今のやりとりを見ていた冒険者達のおかげでティーナの噂は街全体に広がるのだった。
***
メルに連れられてきた部屋でしばらく待っていると、部屋に見た目三十歳程の耳の長いエルフの男性が入ってきた。
「やあ、初めまして。君がティーナさんかな?」
「えっと.......」
「あぁ、ごめんごめん!メルから規格外の常識のない人が来たっていうからどんな人か気になってね!」
そう言い彼は、ははっ、と笑ってみせたが私は彼に規格外の常識のない人と説明したらしいメルさんに酷い!という念を込めてローブの中から睨みつけた。メルさんは私の視線に気づいたようで、事実です。というとふいっと私から顔を背けた。エルフの男性はそんな私たちを見て困ったような顔をした後、あ、そういえば、と言って自己紹介を始めた。
「私は見ての通りエルフで、名前はフィロル。一応ここのギルドのギルド長をやっている者だよ」
らしくないけどね、と、彼は人受けの良さそうな笑顔を浮かべて言った。
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