10話
フィロル視点は、ここで終わります!
終わって良かったです!
その後しばらくして彼女、ティーナさんが落ち着いた頃にメルが彼女の新しいギルドカードを持って帰ってきた。
それを渡したあとブラックローウルフの報酬を用意できないと言ったところ彼女が顔から色が消えていくのが分かった。
どうしたのだろうか?と考えたところ街に来たばかりでお金を持っていないのでは?と思った。おそらくこのままでは彼女は野宿することになってしまうだろう。
まだ若い、それもこのような人外の美貌をもった彼女が野宿して何も起こらないはずがない。しかも自分の外観になんの興味も持っていないらしく危機感が全くない。
ブラックローウルフを、それも三十体以上も狩ってきた彼女なら大丈夫だとは思うが、万が一ということもあるだろう。どうしようか........。
と、そこで私は思い出した。そもそも彼女が受けていた依頼はブラックローウルフの討伐なんかではなくマチル草の採取だったではないかと…...。なぜその依頼を受けてそんなことになるのかは分からないが、彼女はとんでもない量を持ってきたそうだから、おそらくその依頼の報酬で大丈夫だろうと思った。
だが、そんなことを考えている間にティーナの顔は蒼白になっていた。まずいと思った私は焦って口を開いた。
「あ、安心してください!薬草採取の方の依頼の報酬はすぐに出せますから!」
私がそういうと、彼女はあからさまにホッとした表情を浮かべた。その後、メルに報酬を取りに行かせている間、私は残りのブラックローウルフを引き取るのと確認のために彼女をギルドの広場へと案内した。
広場に着き、ブラックローウルフを出すように促すと彼女は思った通り無詠唱で魔法を使った。しかも、使っている魔法は異空間魔法だ。魔法にはランクがあり上から神滅級、神級、超級、最上級、上級、中級、下級となっている。その中で異空間魔法は中級魔法に位置し、難易度の高い魔法となっている。魔力は身分が高い者ほど多くなる。それは代々魔力の多い者を掛け合わせてきたからだ。だが、質は血など関係ない。魔力がどれほど多くても質が悪ければ高位の魔法も使えないのだ。話が逸れたが、そこで私は思った。いや、だいぶ前から薄々気がついていたのかもしれない。彼女の美貌、魔力、それは高位の貴族だからではないのかと…。
そんなことを考えていたが、突如目の前に現れたブラックローウルフの山に私は我に返った。
「まさか、本当に全部......」
気づくと、思っていたことが口から漏れていたようで、彼女は不思議そうに「あの、どうかしましたか?」と聞いてきた。
その返事を返した後も彼女としばらく話して一つわかったことがある。それは彼女は常識を知らなすぎるということだけだった。
しばらくしてメルが息を切らして私のところへやってきた。何も伝えずに場所を変えたことを素直に謝ろうかと思ったがメルが頬をふくまらせていっているのを見て、思わず微笑しまった。それを見たメルに余計怒られてしまったが、仕方ないと思いたい。
彼女は帰る時、大丈夫と思ったのかローブを被ろうとはしなかった。彼女の美しさもあるが、とても珍しいアメジスト色の目は魔力が多いことがあり、めんどくさいこともあるかもしれないのに、それをいう前に彼女は行ってしまった。
***
あれから、ニ時間後ギルドに今話題になっている蒼天の銀という国内にも三つしかない四人組、いや三人組のSランクパーティーが慌てた様子で帰ってきた。
「フィロルギルド長はいるか?」
冒険者全ての憧れとも言えるSランク冒険者である彼らを目の前にしたギルドの受付嬢は緊張しながら答えた。
「は、はい!いらっしゃいます!」
「今会うことはできるか?話したいことがあるんだ」
「分かりました!か、確認してきます!」
次から次へと今日は忙しいな、とフィロルは不思議に思うのだった。
蒼天の銀のメンバーを部屋に通し、話を聞くとフィロルは妙な違和感を覚えた。
「それで、そのブラックローウルフの群れに囲まれて、もうダメだと思った時に真っ白なローブの子に助けられたのよ!」
そう力説するのは蒼天の銀の炎の舞姫の二つ名を持つアルカナという細剣を使う女性だった。
「なぁ、フィロルギルド長。できれば俺たちその子にパーティーに入って欲しいと思っているんだが心当たりはないか?全部持ち帰っていたからここに来たと思ったんだが」
次に声をかけてきたのは、リーダーの大豪剣の二つ名を持つ大剣を振るうディルガルド。
「まぁまぁ、二人ともそんなに焦らなくても良いじゃないか。いきなり来られてもわからないと思うし」
そう言って二人を嗜めるのは、疾風の豪弓の二つ名を持つフレイン。
その三人の話に心当たりがありすぎて、ため息を吐くフィロルだった。
次はティーナ視点に戻ります!