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1話

(…………ル……どうして………)


(あと…………少しでようやく君と………)



何もない暗闇の中、どこか懐かしいような、安心するような、低く甘い声が私に届いた。

だがそれが誰の声なのか知っているはずなのに、頭に靄がかかったように思い出せない。


(ルティ!)


(え?)


その言葉と同時に突如、目の前が真っ暗で何もない景色に一筋の光が差した。寝起きの時と同じ憂鬱な気分がする。どうやらとても長い間眠っていたようだ。それから体を起こして辺りをを見回すとそこは森だった。だが、私の眠っていた場所だけ美しい花々が咲き乱れ、薄い黄色の半球状の膜で覆われている。


しかも森の動物たちと思われるリス、ウサギ、シカ、そして体長二十センチ程の羽がついた可愛らしい精霊たちが私の周りを囲んでいた。私は驚きのあまり思わず声をあげてしまった。



「ど、どどど、どういうこと!?」



また、森のど真ん中だというのに私が眠っていたのは、大きく真っ白なベッドの上だった。


そこで、どうしてこんなことになっているのか思い出そうとして私は気づいた。



「わ、私って誰?」


........ついに言ってしまった。

絶対に人生で使わないと思っていたあの言葉を......


だが実際、ここに来るまでの記憶以前に自分が何者であるかすらも思い出せない。


(さっきまで夢を見ていた気がするのだけれど……)

  

それにしても、やっぱり人を探すならまず街を探さないといけないわよね。



「でもこのままじゃ、流石に目立つし.....」



私は白い布を巻き付けただけのような服を着ていた。


着ていて全く違和感を感じないことからおそらくいつもこのような格好をしているのだろう。 

だが恐らく、というか絶対にこのままの格好で街に行ったら目立つだろう。自分のことを知っている人には見つけて欲しいが目立つのはなるべく避けたい。


私がう〜んと唸っていると、その時首にひんやりとした感触がした。



「ひゃ?!」



冷たさを感じた場所を見てみると、私の首に銀色のチェーンで先に綺麗な緑金色の宝石がついているネックレスがかかっていることに気がついた。

これは.......と考えようとしたところその隙も与えず一人の精霊が話しかけてきた。



『ティーナ様!大丈夫?!』

「え?」



初めは先程、首にかかっていたネックレスの冷たさに驚いてあげてしまった小さな悲鳴のことかと思ったが、精霊に言われ私はその時になってようやく気づいた。私は知らないうちに泣いていたのだ。


だが、自分のことなのにどうして泣いているのか分からない。


ただ今は目の前で私を見て狼狽えている小さな精霊を安心させなくてはと思い、優しく語りかけた。



「え、えぇ。大丈夫よ」


『本当?よかったぁ〜』



私も精霊も落ち着いた後、とにかく服をどうにかしなくてはと、私は周りにいる精霊達に向けて話かけた。



「あ、あの、町に行きたいんだけれどこの服装は目立つから、これを隠せるものはない?」



すると、精霊はこてんと頭を傾げて不思議そうに私を見ていた。



『ティーナ様、記憶ない?』



そんな的をついたような質問に少し驚き狼狽えたが、私はその質問に答えた。



「えぇ、あなたは、私のことを知ってるの?」


『知ってるよ。精霊はみんなティーナ様が大好きなんだよ。もちろん動物達もね』



私はこの精霊の言っている意味がよくわからず、とにかく町に行くために、服を隠せるものはないかともう一度聞いた。



『ティーナ様は忘れてるみたいだけど、ティーナ様が今着てる服はティーナ様の思い通りに形を変えられるって言ってたよ』



「そうなの?」



そうして、私は大きなフード付きのローブを思い浮かべると着ていた服が私の思い通りのものに形を変えた。

精霊にありがとうと言おうとすると、周りの精霊達が私と話していた精霊を羨ましそうに睨んでいた。



『ちょっと!カイばっかりずるいじゃない!』


『そうだよ!僕たちもティーナ様と話したい!』



私はその光景に驚いたがどの子も私と話したいだけなんだと知り、自然と頬が緩んだ。



「みんなもありがとう。起きたら一人じゃなくて心細くならなかったわ。よければお名前を教えてくれないかしら?」



そういうと精霊達はパッと満面の笑みを浮かべて名前を言い始めた。



『私、アリサです!』

『ぼ、ぼぼ、僕はリトでしゅ!』

『ちなみに僕はカイだよ』



「そう。アリサにリトにカイね。ありがとう。私は一先ず町に行くけれどあなた達はどうする?」


『ついて行きたいけど、長老が許してくれないだろうから、ごめんね』


「そう....。ねぇ、私のこと知っているんでしょ?よければ教えてくれないかしら?」



先ほどからずっと思っていたことを口にすると、精霊たちは少し困ったように顔を見合わせたあと、アリサが私の質問に答えた。



『ごめんなさい。ティーナ様。ある方からそのことについては、ティーナ様には何も教えないで欲しいと命令されているんです』


私は驚いた。それはつまり私の事と私の今の状況を知っているという事だからだ。


「ある方っていうのは......」


「ごめんなさい.....」


「そっか」


私はあからさまに落ち込んでしまったアリサや他の精霊たちを元気付けるために明るく言った。



「あの、そのティーナ様っていうのやめてくれたら嬉しいんだけれど.......」



こんなに可愛い精霊たちに様付けされるのはどこか思うところがある。



「いえいえ、ティーナ様はティーナ様です!それ以外は何もありません!」


「そ、そう......」



精霊たちが全力で拒否してくるので、無理強いも良くないかと諦めることにした。でもいつかは、ティーナと呼んで欲しい。



「私はもう、ここから離れるけど、今度遊びにきてもいい?」


『もちろんです!きっとみんな喜びます!』



私は、とりあえず精霊に呼ばれているティーナという名を名乗ることにした。


そうして私は、精霊と動物たちに別れを告げて森を出た。



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