城塞都市ブルーノ⑧
ファンデンベルグ候からの使者が来たのはちょうど日の沈む頃だった。
馬車を一緒に寄越してくれたので俺たちはロッタとマルソーも一緒に三人で乗り込みファンデンベルグ邸まで案内された。
ファンデンベルグ邸の広い庭園はステージが設けられ派手な装飾も施されていた。送別会というよりはちょっとした祭りのようである。
屋台もいくつか並んでおりおいしそうな匂いが漂ってくる。
何よりももう日が暮れるというのにいくつものランプやランタンが灯されていて夕暮れ時と変わらぬほど明るかった。
「ローテアウゼン様、ようこそいらっしゃいました。控室へご案内します、お付きの方もどうぞこちらへ」
執事に案内され廷内の控室へと通された。
控室には領主も居た。領主はすぐに立ち上がり、床に膝をついて頭を下げた。
「ローテアウゼン様、お引き留め致しまして申し訳ありませんでした。今宵は貴女様への感謝の宴を催してございます。心ばかりの料理と酒を用意しました、また領民達より感謝を述べたいと申す者が大勢ございます。少しずつでもお聞き届けください」
ロッタも頭を垂れて返答する。
「このような宴を用意して頂き恐縮にございます。未熟なこの身には過ぎたるもので感謝の言葉もございません」
領主は静かに微笑んで頷いた。
「正直なところ私の代で里帰りをなさるとは思いも寄りませんでした。貴女をこのまま送り出すなど先代からの伝聞が無ければ出来ないことです」
その表情から複雑な想いが見て取れる。
「これからは弟子のマルソーがこの身に代わり領主様のお役に立つでしょう、ただ若さゆえ至らぬ所にはどうか手を差し伸べて頂ければ幸いに思います」
「約束しましょう」
見るとマルソーは小さくなって俯いていた。
「旦那様、そろそろお時間にございます」
執事が領主にそっと告げた。
「うむ、では行こうか、ローテアウゼン様はすぐにお呼び致します故こちらで控えていてください」
領主は立ち上がり、扉に向かい颯爽と歩き出す。
俺には少し寂しげにも見えたのは気のせいなのだろうか。
扉の向こうでは領主が領民達にロッタのことを話しているのがところどころ聞こえてくる。
突然のことに驚きの声やどよめきが聞こえる。
扉の側で様子を覗っていた執事がロッタを呼んだ。
「ローテアウゼン様、こちらへ」