スツーカの朝②
朝の食事を終えた後、ユハたちはもう何日か泊まっていってくれと強く誘ってきた。ロッタはこれを承諾し、とりあえず今日のところはケルナの家に泊まることになった。
ロッタは適当に時間を潰すというので俺はフリューゲを連れて水場へ行き、水を飲ませ体を洗ってやる。ユハに分けてもらった干し草を与えているとケルナがやってきた。
「タケゾウさん、あの……」
「おお、ケルナか、昨夜は……朝もだが世話になったな、何か用か?」
「あの実は……わたしともう一度戦ってもらえませんか?」
「ほう……それは俺と仕合……手合わせしたいということか?」
「はい、お願いできませんか?」
ケルナから仕合の申し込みだった。別段なにか恨みがあるとか仕返しとかいうわけでもなさそうだ。
「あの……わたしより強い人とは戦ったことがなくて……前はわたしが勘違いしちゃって失礼なことになってしまったんですけど、今度はちゃんと全力で戦ってみたいんです」
ケルナは真っ直ぐに俺を見つめてそう言った。
そういうことなら俺も断る理由はなかった。むしろ面白そうだと思った。
「そういうことなら俺は構わないが……時間はいいのか?」
「門番の仕事は弟に少しの間代わってもらってきました」
揉め事になるような理由じゃないしロッタに許可を取る必要もないか……?
「いいぜ、馬を厩舎に戻してから……それと俺が真剣というのもまずいだろうからな、訓練用の木刀かなんかあったら貸してくれ」
ケルナは目を輝かせた。
「はいっ! ありますっ、すぐ準備します!」
ケルナは俺を街の外れにある広場に俺を案内し、街の自警団が訓練で使用する木製の剣を渡してくれた。
「両手で持てる剣はこの形しかないんですけど、いいですか?」
片刃の直刀を模して作られたであろう木製の剣、俺の剣よりも短いがほどほどに重量もあって悪くない、何度か空を斬ってみて手ごたえを確かめた。
「ああ、いいぜ。問題ない」
ケルナは安心したのか、俺に微笑みかける。
しかし……だ。どうにも周りが騒がしくなってきた。町はずれにあるこの広場にどんどん人が集まってくる。
「なんだなんだ、ケルナとあのあんちゃんがやんのか? おもしれえな」
「どっちに賭けるよ? 俺はケルナに30だ!」
「馬鹿、あのあんちゃんは一回ケルナに勝ってんだぞ」
「二度目はケルナが勝つさ、ほらあんちゃんに賭ける奴はいねえか!?」
おいおい勘弁してくれよ、なんて思っている間にも野次馬は増えていく。
「なんじゃ、面白いことをしておるのう」
ロッタもやってきた。
「まあ……成り行きだ。すまんが俺の剣を預かってもらえんか」
「よいぞ、貸すがいい」
俺は剣を腰から抜いてロッタに渡す。
「ケルナよ、野次馬がこれ以上増えんうちに始めようか」
「はいっ、じゃあこの石を投げますから、地面に落ちたら開始ですっ」
俺が頷いて応えるとケルナは石を高く放り上げた。
放物線を描いた石がぽとりと地面に転がる。
刹那、ケルナがくると俺は構えるがケルナは動かなかった。俺が先に動くと警戒したか構えたままこちらを睨んでいる。
ケルナは女にしては大きい。背丈は俺と同じくらいかと思ったがこうして対峙してみるとやや大きいくらいか。よく鍛え上げたのが分かる美しい体だ、瞬発力を犠牲にしない鋭く細い筋肉質が着衣の上からでも窺える。
ケルナは左の拳を下げ右の拳で首の急所を防御する構えでじりじりと左へ左へと回り込んでくる。
ちょっとこちらから突っついてみるか。
俺はいくぞいくぞと何度も欺瞞の攻撃動作をしてみる。ケルナは少し反応するがすぐに欺瞞は見抜かれたようだ。
俺は中段の構えを右に崩し、間合いをじりじりと詰める。ケルナも俺が仕掛けると読んだのか緊張感が高まる。
俺は一気に踏み込み、左肘を狙って薙ぎ払う。ケルナは素早く反応し上半身だけを引いてかわしすぐに左裏拳で俺の剣を押さえ返し攻撃を制し、右の正拳が俺に向かって飛んでくる。
俺は体をよじって正拳をかわす。剣を引き戻し突き出された右手首を斬り上げた。
「きゃあっ!」
ケルナは悲鳴をあげた。
「すごい……今のでわたしの右手首、無くなっちゃったんですね」
「そうだな、だがいい反応だった」
ケルナは少し嬉しそうな高揚した顔を向けた。
「次、いいですかっ」
「ああ、かかってこい」
「今度はわたしからいきますね」
野次馬たちの歓声も盛り上がってきた。




