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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第一章 城塞都市ブルーノ
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城塞都市ブルーノ⑥

 息を切らしながらロッタは大きな(ひつ)を背負って現れた。


「ま……待たせたのう」


 肩で息をしながらどこか嬉しそうな顔でタケゾウを見ている。薬売りか何かの行商人のようだ。


「なんじゃ? どうかしたのか?」


「いや、何でもない」


「よし、では行くとするか」


「行くのはいいが、その……誰かに挨拶をするとか、ないのか? このまま出ていくと夜逃げみたいだぞ」


「領主には挨拶をしていかねばなるまい、ちょうどマルソーに面会の予約を取りにいかせたでな」


 そういえばそうだったな。


「じゃあ行くか」


「んむ!」


 家を出て通りを領主の住まう城へと歩きだした。


「ロッタ、その櫃を下ろせ、俺が持ってやろう」


「そうか? では頼むとするかの」


 俺が(ひつ)を背負うとロッタは少し照れ臭そうに俺を見た。


 領主ファンデンベルグ候の屋敷の前に着くとロッタは門番に声をかけた。門番は深くお辞儀をした後、すぐに門を開いて招き入れた。


 ロッタに続いて入ると門番は俺にも深くお辞儀をしてくれた。この街でロッタが厚遇されているのだと察することができる。


 玄関の巨大な扉を開けてもらうといよいよ屋敷の中に入る。玄関の中は謁見の待合室となっているらしく、何人かが簡素なソファーに腰掛けているのが見える。


「師匠!」


 マルソーもその中にいた。ロッタを見つけて駆け寄ってきたが同伴する俺の姿を認めると睨んできた。


「ちょっと貴方、まだ……ってゆーかこんな所にまで師匠と一緒にやってくるなんて何て厚かましいのかしら」


 むう、厚かましいとまで言われるようないわれは無いのだが、かといって怒るようなことでもなし……


「マルソーよ、この男は儂の護衛として同行してもらったのじゃ。失礼は詫びねばならんぞ」


 マルソーは愕然としている。


「いやいや、そこまでは……分かって貰えれば構わんよ」


「いいえ、師匠が詫びよと言うのです。甘える訳には参りません。事情を知らぬ事とはいえ大変失礼なこと申し訳ありませんでした」


「そういう素直な所はいいと思うぞ、別に怒ってるわけでもないし構わん」


 マルソーは俺を見るとぷいっとそっぽを向いた。


「師匠、領主様は師匠の到着次第すぐにお会いになられるそうです」


「そうか、ご苦労だったな。マルソーよ後から話がある、このままここで待っておってくれ」


 良からぬ事を察したのか、マルソーの顔は一瞬で暗くなる。


「分かりました」


「紅の大魔導士ローテアウゼン様、謁見の間へどうぞ」


 謁見の間へと通された俺たちは二十人は座れそうな長いテーブルの末席へと案内された。


 席について間もなく領主が現れた。


 想像していたよりも領主は若く、見たところせいぜい30歳前後といったところだろうか。


「おはようございますローテアウゼン様、ご無沙汰しており申し訳ありません」


「おはようございますフィンセント・ファンデンベルグ候、こちらこそ長らく挨拶も出来ず恐縮の極み」


 ロッタは深く頭を垂れた。


「ローテアウゼン様、何やら急ぎの用があるとのこと使者の方から聞きましたが本日はどのような御用でしょうか」


「恐れながら、この身は里帰り致すこととなりまして、急なこととは承知なれど本日これよりこの街を離れることに致しました」


 しばらく待っても領主は返答をしなかった。見れば驚きのあまりに目を見開いたまま、ぽかんとあっけにとられていた。


「し、失礼しました。今、里帰りとおっしゃいましたか?」


「はい、里帰りにございます」


「なんと、里帰りとは……まさか私の代でこの時が来ようとは……」


 領主はこめかみを押さえながら頭を振った。


「ローテアウゼン様、私の父上、いや祖父、曾祖父からも幼き頃より聞かされてきた家訓に貴方のことも伝えられてきております。それは大魔道士が街を去る時はどんなことをしてでも引き留めよ、しかしその理由が里帰りであったなら決して引き留めてはならない、です」


 曾祖父から伝えられただと? ロッタはいったいこの街に何年住んでいるというのだ? 見た目には十七、八の娘だというのにいったい?


「我が領土の安定と繁栄はあなた様あってのものです。農業、漁業、その他多くの経済や戦でもあなた様の知恵、魔法などにより支えられてきました。先代からの伝聞通り引き留めることは致しません、しかし一つだけお願いを聞いてはもらえぬだろうか」


「どのようなことでしょうか」


「このままあなた様を誰にも知られず送り出すわけには参りません、これよりすぐに感謝の宴の支度をしますゆえ、どうか出発を一日だけ伸ばしては貰えまいか」


 ロッタは深々と頭を垂れる。


「申し訳ありませぬ、これはもう決めたことゆえ、どうか」


「なんと、一日だけでも伸ばすことは出来ぬとおっしゃいますか」


「恐れながら、この身は……」


 いかんな。これはいかん。


「ロッタよ」


 俺はロッタの返答を遮った。ロッタは少し怒り気味の視線を俺に向けた。


「よそ者の俺が言うことではないかもしれんが、そうむげに断ってはこの男に恥をかかせてしまうがそれでよいのか?」


 ロッタの表情が変わった、目を丸くして領主のほうを見た。


「一日くらい伸ばしてはどうだ? ゆっくりと別れをせねばならん相手もいるだろう」


 ロッタは考え込むように俯いた。


「フィンセント・ファンデンベルグ候、では明日の早朝に出発ということで」


「そうですか! わがままをお聞きいただきありがとうございます!」


 領主はすぐに側近を呼んだ。


「宴の用意だ! 公務は後回しで構わん、最優先で支度するのだ!」

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