野営地②
この日はこのまま野営地で過ごし明朝から次の魔獣討伐へと移動することになる。
今回の討伐に参加する総生徒数三十七名、講師イセッタ殿と合わせて二名、そしてロッタと俺を加えた四十一名で机を囲んだ夕食の後、なぜか俺はエミリアや生徒たちに囲まれ質問責めにあっていた。
「タケゾーさんは東の国の剣士なのですか?」
「……ああ、ヒノモトからやってきた」
「そのヒノモトでは最強の剣士だったのですか?」
「最強かどうかは分からぬが仕合で負けたことはない」
「必殺技はあるんですか?」
「いや、特に決まった技があるわけではない、一太刀浴びせることが出来れば勝負はつくんでな」
俺が何か答えるたびに歓声、どよめきが起こる。こそばゆいというか、逆に馬鹿にされているような気もしてきていい加減に逃げ出したくなってくる。
「じゃあちょっとだけ剣技、見せてもらってもいいですか?」
聞いてきたのはエミリアだった。
生徒たちは一斉に身を乗り出してきた。
あまり気は進まないがここらで軽く一区切りといきたかったので少しだけ見せることにした。
「いいぜ、ちょっと場所を空けてくれ」
俺は立ち上がり空けてもらった場所に立った。
「まずは抜刀な」
鯉口を切り構えてから、息を整え抜刀する。俺の抜刀した一瞬後でエミリアが声を上げた。
「うわっ、びっくりした。いつの間にか構えてる! 全然見えなかった!」
生徒たちも歓声を上げる。
タケゾウの抜刀は速い、剣術に覚えのない者であれば突然目の前に剣が現れたようにしか見えないだろう。
「そしてこれが中段の構え……中段から袈裟斬り、返して逆袈裟……」
俺はいくつかの型を連続で見せた。俺が何かやるたびに歓声が上がる。一通りやって見せたところで剣を鞘に納める。
「まあこんなところだ」
この機会に引き上げようとする俺を一人の男子生徒の質問が呼び止めた。
「あのタケゾーさん、もうひとつ質問いいですか?」
無下にも出来ず俺は答えることにした。
「ああ、なんだ?」
「あの、間合いって何でしょうか?」
「……間合い?」
一言で答えるには難しい質問だった。この若き魔法使いが何を知りたくてこの質問を俺に投げたのか理解しがたく口ごもっているとエミリアが補足をしてくれた。
「私たち魔法使いは一人前になると命を狙われる機会が増えるんです、それで剣や槍使いに狙われることもあるんですが学校では決して間合いには入るな、と教わるんですがその間合いっていうのが私たちにはピンとこなくて……」
なるほどな、そういうことか。
「剣の届く範囲ということなら槍でもそうだが、腕の長さを足した距離ということになるが実際に打ち込む時には一歩踏み出しながら打ち込む、つまりあと一歩踏み込めば剣が、あるいは槍が届く距離が間合いということになるな。だが……」
この話題には皆食いつきが良かった。皆が知りたい知識なのだろう。
「実際のところ間合いというのは俺たち剣士が戦う時にはお互いが探り合う戦いにおいて最も大事な要素だ」
皆目を丸くして俺の話に食い入って聞いている。
「特に槍使いは間合いを短く見せる欺瞞をよく使う、槍の長さを見えにくく構えるとかわざと短く握ってここぞという時には握りをずらすとかな、とにかく色んな技を使う。もちろん剣士も出来る範囲で同じようなことはやるし巧妙な者はもっと変わった方法も駆使するぞ」
皆感心したように頷いていた。
「剣士や槍使いについて知りたいなら実際に手にしてみてはどうだ? 俺が魔法使いになることは出来んが君らが剣術をかじることは出来るだろう?」
皆がぽかんと俺を見る中、エミリアは一人くすくすと笑った。
「タケゾーさんは私たちに剣術を習えというの?」
「ああ、細かなことはあれこれ聞くよりやってみるほうが早い」
「うふふ、じゃあ帰ったら教えてくださいね」
そう言ってエミリアはまた笑った。




