コリーンのイセッタ婆さん②
俺たちはハムポーレの街を過ぎ北へ向かう道へと進んだ。
ハムポーレでは一泊の宿をとっただけですぐ出発した。
時折現れる魔物を何匹か倒してきたが、ここ数日はいたって平和で野盗に襲われることもなく魔獣や魔物の類も現れない、至極順調な旅だった。
長いようで短かったような気もするが間もなくコリーンに到着する。久しぶりの大きな街なのでゆっくりと宿で眠れそうだ。
コリーンはブルーノと同じように城壁の内側に入るために関所を通る必要がある。
関所の手前で馬車を停めて門番の一人に荷物の確認をしてもらう。
「荷物は食料に衣料品……ふむ、旅に必要なものばかりですね。コリーンにはどのような目的で?」
「儂の古い知人を訪ねてきたのじゃ」
「なるほど、ええとロッタさんと言いましたか? あなたは魔法使いのようですが……」
「いかにも魔法使いじゃが」
「この街にも魔法使いはたくさんいますよ、ようこそコリーンへ。どうぞお通りください」
俺は手綱を握り城壁の内側へと馬車を進めた。
街は人通りも多く賑やかだった。
ふと上を見上げると建物よりもはるか上を人が飛んでいる。いや、何か棒のようなものに腰かけている……のか?
「ロッタよ、あれはなんだ?」
「ん? おお、あれは魔法使いじゃ。ああしてホウキにまたがって飛ぶのは魔法使いには定番の移動方法じゃ」
「ほう、ロッタも飛べるのか?」
「もちろんじゃ」
なかなか気持ちよさそうなので機会があれば俺もロッタに乗せてもらって一緒に飛びたいものだな。
「で、先輩の所在はどこなんだ?」
「んむ、分からん」
「……は?」
「大丈夫じゃ。目立つ御仁じゃから街の者に尋ねればすぐに分かる」
そういうものか。
ロッタは早速、通りを歩いていた男を呼び止めて尋ねてみる。
「すまぬが人を探しておる、クラインリーゼという魔法使いがこの街におるはずなのじゃが知っていたら教えてほしい」
「クラインリーゼ?」
男は思い当たる名がないらしく考え込んだ。
「ちょっと思い当たらないがこの街には魔法使いはたくさんいるからな、あそこに見える高い建物に行ってみるといい。あそこは魔法使いの学校だ、誰か知った者がいるかも知れない」
男が指さした方を見ると塔が見える。男に礼を言い、塔に行ってみることにした。
「聞いてみるんだが」
「なんじゃ」
「学校とはなんだ」
「そうじゃな、子供らを集めて色々なことを教えるところじゃ」
「ほう、ならば魔法使いになるために必要なことを子供に教えるところか」
「そういうことじゃ」
塔のふもとに着いてみると思いのほか敷地は広く、開かれてはいるが立派な門があった。
門から入ってすぐの並木の一本に馬車を停めてから徒歩で建物に向かう。
見上げるほど大きな扉を叩くとすぐに扉は開かれた。
「はい、当校にどのような御用でしょうか」
現れた女は長身でなかなかに美人だ。
俺とロッタを見てすぐにロッタが魔法使いだと理解したようだ。
「あら? ご入学のお話しかと思いましたが、そのようなお年ではないようですね失礼いたしました」
ロッタの年齢もこの一瞬で見抜き、敬う態度も見せるとはなかなか出来るようだ。
「いや、こちらこそ突然の訪問で申し訳ない、クラインリーゼという魔法使いのことで何か知っていることがあれば教えてもらえないだろうか」
「……クラインリーゼですか」
ロッタの質問に何かを思い出すように指で顎を叩きながら上を見た。




