漆黒の姉妹⑮
珍しくロッタが無口だった。隣に座って俯いている。
俺は顔を覗き込んでみるが、それに気付くと体ごとよじって向こうを向いてしまう。
あのカラスの姉妹についてはなんとも歯切れの悪い終わり方になってしまったので、ロッタなりに何か思うところがあったのだろうか。
「どうした? 大丈夫か?」
ロッタはなかなか返事をしない。
「…………なんでもない」
……声が小さい。
「ん? なんだって?」
「……なんでもない」
ロッタにしては声が小さいな、心なしか顔が火照って見える、ほんとに大丈夫か?
「ロッタよ、顔が赤くないか?」
「もう! 儂を見るな」
どうにも様子がおかしい。顔を覗き込もうとすると拒むように顔を隠してしまう。
「もう! 今日のタケゾウはおかしいのじゃ!」
俺の肩をぽかぽかと叩きながら声を張った。
「はあ? 俺がおかしいだと?」
「もういいから! 儂には構わんでくれ」
なんだか分からんがこれ以上は放っておいたほうが良さそうだ。
ロッタは俺の横で猫のように丸くなってしまった。
俺は小さくため息を吐いた。
今日は大変な一日だった。いろいろあったがカラスの姉妹は何とか退けることが出来た。クラヴィアに関しては何となく後味が悪い決着だが、まさかあの流れで斬り殺すなんて出来んしな、あとは野垂れ死ぬなり再起するなり自分で選んでもらわんとな。生きるとはそういうもんだ。
日が少し傾いてきた。もう少し走ったら野営の支度をせんとな。
横でもぞもぞとロッタが動いた。体を起こし、いつものように座ったがあえて気付かぬふりをした。
迂闊に声をかけるとまたぐずられそうで怖い。
「タケゾウよ」
などと考えていたらロッタのほうから声をかけてきた。
「お、起きたか」
「貴様は不思議な奴よのう」
「そうか?」
「儂の見たところではな、やつは貴様に懐いておったのだと思う」
「誰のことだ?」
「クラヴィアじゃ」
突然に意外な話を始められてしまった。
「そうか? 恨めしいだけだろ……その……妹の敵だし」
「そうじゃな、恨んではおるじゃろうな……じゃが恨み切れぬ辛さのようなものを儂は感じた……」
そんなもんかねえ……などと思いながらロッタを見ると……! 目が合った。こちらを真っ直ぐ見ていた。
「な……なんだよ」
「あの者、殺してやったほうが良かったのではないか? これから先の人生……というのも変じゃが、なまじ人間並みに知恵があるだけに生きていくのは辛いのではないか」
「まあ、そうだろうな……だがな、俺の剣はロッタのためにしか振るわない。だからそっから先はあいつ次第ってことで話は終わりだ」
ロッタは向こうを向いて俺の肩を叩いた。
「……何度も言わんでよいわ」
それきりロッタは喋らなかった。俺も特に喋ることもなく馬車に揺られていった。
その夜、俺はまた夢を見た。
空を見上げると無数の流星群、だがいつもと少し違って体を動かすことが出来た。
両手が確かにあって動かすことも出来るし足もある。地面にしっかりと立っている。
ふと横を見ると立派な具足を着けた青年が倒れている。よく見ると下半身がない。
しかしまだ息はあるようでうつろな目で力なく空を仰いでいる。
少し離れたところに下半身が転がっている。間違いなくこの青年のものだろう。
何があったのかは分からないが纏った具足からすればかなり身分の高い青年に違いない。
いつもの夢であるなら、俺はこの青年の目を通してこの光景を見ていたことになる。
俺はあの少女の姿を探した。辺りを見回しても見当たらない、そんなはずは……と思い振り返るとすぐ後ろに立っていた。
髪は金色に輝き、白い肌すらもうっすらと光を帯びている。あの夢と同じだ。
「おい」
声をかけてみるが少女は俺など眼中にないように頼りない足取りで青年に歩み寄った。
顔を見ようと前に回り込んでみるがやはりはっきりと見ることは出来ない。
少女は青年にすがりつき何かを叫んでいる。あの夢の通りだ。
「…………しさまよ……」
「……主様よ……」
今度はなんだ? 頭の中に聞いたことのない女の声が響く。
「主様よ……わらわを…………すれ………か……?」
「主様よ…………わらわを……浦風を……お忘れか……?」
「うわああああああぁぁあぁ!」
俺は思わず飛び起きた。
焚き火の向こう側からロッタが寝ぼけ眼でこちらを見ている。
「……どうした? 眠れんのか?」
「いや、なんでもない」
「……そうか」
ロッタは再び毛布に潜り込んでいった。
俺は大きくため息を吐いた。
そういえば最近はあの夢を見ていなかったな。
しかし、今度はなんだ?
浦風って誰だよ?




