表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第八章 英雄
268/305

悪魔を憐れむ詩⑨

 足場を失ったロッタは瓦礫と共に落下していく、下を見るとはるか下に転がり積もった瓦礫が見える。


 上を見ると水術の毒に冒されながら堕ちてくる皇帝(カイザー)……このまま落ちると下敷きになってしまう。


 転移の魔法も発動しない。


「ここまでか……ヤツと刺し違えるなら……まあよいか」


 などと考える間に、危ない時には呼べと言ったタケゾウのことが脳裏に浮かぶ。


「来いッ! タケゾウッ!!」


 外で街の民に付けられた虫退治をしているタケゾウに声など届くはずが無い……そう考えるよりも先に思わず叫んだ。


 そして叫んだ後で、来るはずがないと思った刹那……目の前の(くう)に白刃が奔り裂け目が出来た。


 裂け目からタケゾウが現われる。その姿を見たロッタの顔は安堵の笑みを浮かべ紅い瞳が涙で潤んでいた。


 タケゾウはすぐさまロッタを抱き寄せ、胸にしっかと抱えると再び剣を抜き(くう)を斬った。


 落下する勢いのまま裂け目に飛び込むと、最後に市民達を斬った広場へと転がり出た。


 タケゾウが大切に抱えたロッタの無事を確認すると恐ろしい悲鳴が響き渡り、同時に塔が倒壊していくのが見えた。


 タケゾウはロッタを優しく立たせ「やったのか?」と訊ねた。


 ロッタは塔のほうを黙って見た。そして手にしたままの弓をじっと見る。


「矢は……五本すべて命中した……おそらくは……」


 タケゾウは剣を鞘へ収めるとロッタの頭に手を置いた。


「……そうか……よくやったな」


 ロッタはタケゾウの手を払いのけ


「やめんか、撫でるでないわ」


 そう言って弓を格納する。


 そばで二人の話を聞いていた街の衛士である魔法使いのひとりがタケゾウに訊ねる。


皇帝(カイザー)を……倒したの……ですか……?」


 タケゾウはもう一度倒壊した塔を確認して「……ああ」と答えた。


 まだ信じられない魔法使いは今度はロッタに向かって訊いた。


「貴女が……伝説の大魔法遣いローテアウゼン様……本当に皇帝(カイザー)を倒されたのですか……?」


 ロッタは訊ねてきた魔法使いをじっと見つめて答える。


「儂の……身体を分解する水術毒魔法を含ませた矢で心臓を貫いた……もはや……生きてはいまい」


 呆然とその答えを聞いていた魔法使いは次第に息を荒げていく、そしてその表情は少しずつ笑顔へと変わっていく。


 そして魔法使いは振り返り、他の仲間達そして市民達に向けて叫んだ。


皇帝(カイザー)は……死んだ! あの……悪魔のような皇帝(カイザー)は死んだぞーーーーーーーーーーッ!!!」


 魔法使いの叫びを聞いても皆にわかには信じられず、静まり返るばかりだった。


 魔法使いは繰り返し叫び、ロッタを指差した。


「大魔法遣いローテアウゼン様がっ……皇帝(カイザー)を倒されたのだ!! 皇帝(カイザー)をッ倒したのだーーーーー!!!」


 一人の市民が衛士の魔法使いに尋ねた。


「もう皇帝(カイザー)に虫を付けられることはないのか……?」


 魔法使いは「そうだ」と答える。


 すると市民は腕を振り上げて叫んだ、歓喜の声を上げた。そこから伝播するように歓喜の叫びが拡がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ