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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第七章 魔法遣いローテアウゼンのキセキ
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魔法遣いローテアウゼンの奇蹟⑤

 浦風の下した苦渋の決断により鵜島の女衆は大島の本陣へと撤退することが出来た。


 これによりイッカクの船団は大島へと上陸を始めるが、夕暮れの中の着岸はこのあたりの海流に不慣れなイッカクの船乗りには難しく転覆する船も多くあった。


 同じように各所に配された陣地からも撤退してきた男衆も本陣へと集結していた。


 集結する者たちの前に若頭は立ち益荒男たちの顔を見渡していった。そして一人頷くと声を張った。


「皆の者、聞いてくれ。よくぞここまで戦い抜いた……大義である。しかし敵方には真鶴がおる、残念ながら我が方にあれとまともにやりあえる者はない。搦め手を使ってなんとか勝負出来る程度であろう」


 どよめきが起こったが清正が一喝する。


「事実であるぞ! 我こそは真鶴を討ち取って見せるという者はおるか!」


 静まるのを見届けると清正は若頭に頭を下げた。


七海浦(なみうら)から闇に紛れ脱出する。まずは女衆からだ、次に町民、我らはそれまで応戦し時間を稼ぐ」


 女衆も町民、位の低い者から脱出する、浦風ら奥の院の者たちで整列させているところへ若頭が現われた。


「浦風、皆を頼む」


 浦風は微笑んで答える。


「若の逃げ足の早さが試されますなあ」


「ああ、逃げるのは得意だ」


 二人は笑い、互いに頷いた。


「ロッタ殿……すまんな、こんなことに巻き込んでしまった」


 紅目(ローテアウゼン)はからからと笑った。


「向こうが勝手に攻めてきたのじゃ、仕方あるまいて。それより儂ひとりでも残って防壁魔法で援護せんでもよいのか」


「大丈夫だ、少人数で散開しての遊撃戦となる、反撃はほとんど受けないはずだ」


 紅目は少し考えてから頷く。


「若がそう言うなら従おう」


 浦風のもとへ戻ろうとする紅目を若頭は呼び止めた。


「ロッタ殿」


「なんじゃ?」


 紅目は首を傾げ振り返る。


「脱出は……空からか……?」


「うむ、飛べる者は飛んでいこうと浦風殿と話しておった」


「そうか……ならば安心だな」


 紅目が浦風のほうへ戻ろうとすると再び若頭は呼び止めた。


「ロッタ殿」


「なんじゃ」


「ロッタ殿……その……いや…………なんでもない」


 紅目は不思議そうな顔で若頭を見た。


「?……そうか……では」


 そう言って振り返った紅目を若頭はまた呼び止めた。


「ロッタ殿」


「なんじゃ? さっきから、儂も忙しいのじゃ」


 若頭は頷いた。


「分かっている、すまぬ。だが、やはり今言っておこうと思ってな」


 紅目は肩で溜息を吐いて見せると若頭の前に立った。


 若頭は大きく深呼吸ををすると意を決したように告げた。


「ロッタ殿……この戦いが終わり、どこかでまた落ち着いて暮らせるようになったら……」


 その先がなかなか言い出せず沈黙の時が流れる。紅目は催促するように「なったら?」と首を傾げた。


「どうか、この俺と祝言を挙げて欲しいのだが……どうだろうか」


「は? しゅうげん? とは、いったい何を()()()のじゃ?」


 異国の娘には通じない言い方であったことを悟り若頭は言い直す。


「それは……その……婚儀のことだ。ロッタ殿、我が妻となって欲しい……鬼族の男ではいやか……?」


 紅目は驚き見る見る顔が紅く染まっていく。


「なっ! なっ……なっ……なななっ……なんじゃ! こんな時にぃ!」


 真っ赤になった顔を手で隠しながら紅目は叫ぶ。


「こんな時だからだ……」


 初めて見る真剣な顔の若頭を正視することが出来ず目を泳がせながら紅目は狼狽えた。なんと答えてよいのか分からず何か答えようとしては口ごもる、そんなことを繰り返していた。

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