軌跡~浦風と紅目①~
今日もまた城の前にある浜では教練が繰り返されている。
ここでは一日の多くを教練に割いており男衆も女衆も皆訓練には余念がなかった。
この日は男衆も交えて弓術の訓練が行われている。男衆の放つ矢は女衆の放つそれよりも遠くまで届く、それでも長弓を使いこなす女衆の放つ矢は十分な射程を持っていて最前線で敵に斬りかかる男衆からの信頼も厚かった。
若頭は教練の様子を堤の上から見学していた。すると後ろから声をかける者がいた。
「よう、見てるだけで良いのか?」
若頭が振り返ると幼馴染みであり家臣の息子でもある重久だった。
「なんだ、お前か」
「お前はないだろう……」
重久はそう言いながら若頭の横に立って女衆の教練を同じように眺める。興味は紅目ただ一人に向けられているようだ。
「本当に紅い髪をしているのだな、遠くから見てもなかなかに美しい」
「ん? ああ、そうだな我らとは目鼻立ちからして違う」
「なかなかに勝ち気な娘だと聞くが……?」
「うむ、聞いたところでは実家は領主の家系で魔法使いの里の姫様なのだそうだ」
重久は黙って頷いた。
浜では弓術の訓練が始まってした。
「紅目殿は魔法使いではないのか? なぜ弓術を教わっている?」
重久の問いに若頭は答える。
「紅目殿は空を飛ぶ魔法を使うのだがな、浦風があれをひどく気に入ってな……どうしても教えろと頼み込んだのだそうだ」
「…………で? それが何の関係がある?」
「代わりに浦風が弓術をな……曲射五連を教えるということになったそうだ」
重久は目を丸くする。
「同時に五本の矢を的に当てるってあれをか? 俺でも三本までしか出来んぞ?」
「はははは、だからこうしてみんな見に来ておるのだ」
重久は納得したか黙って頷いてしばらくは黙って教練の様子を見ていたが、突然にこう言い放った。
「異国で婿入り領主も悪くないな」
重久の言に若頭は驚いた。
「なっ? 本気か?」
「お前には浦風がいるだろう?」
そう言うと重久は堤から飛び降りて女衆の方へ向かって駆けだした。
女衆のもとへと駆けつけた重久は本当に紅目に話し掛けていく。
堤から見ているとすぐに浦風が二人の間に割って入り重久をあしらおうとしている。
紅目は浦風の後ろで顔を赤らめながら乙女のように動揺していた。




