魔法遣いローテアウゼンの軌跡①
桜の見頃を迎えた麗らかな昼下がり、屋敷の奥座敷には領主の若頭をはじめ老中その他家臣のなかでも重鎮が集まり、奥の庭園に咲く花を皆で愛でていた。
酒を酌み交わし、笑い声がいくつも重なる中で若頭が上機嫌で呟いた。
「平和じゃのう」
それを聞いて家臣たちが笑う。
そこへ御用使いが廊下を小走りにやってきて、廊下よりにいた家臣の清正に耳打ちで御用を告げる。そして今度は御用を聞いた清正が若頭のもとへと近寄っていく。
「若!」
と呼ばれた若頭が答える。
「なんじゃ?」
「は! 西の大陸よりの……おー……魔法使い……? ……が、あー……目通りを願いたいと……申しておるようですが、いかがされますかな」
若頭はあごをさすりさすり考える。
「ふむ…………」
若頭が外を見るとびゅうっと風が吹き、桜の花びらがいくつか奥座敷の中に舞い込んだ。
「会うてみるか……」
「……は?」
清正が聞き返すと若は清正に向き直る。
「会ってみよう」
「……はあ、会われますか」
「うむ、そう言ったが」
清正は若に頭を垂れると立ち上がり手を打った。
「皆の者! これより若の客人をお通しする」
清正がそう宣言すると、花見に興じていた家臣たちは慌てて座敷の隅に並べられた膳の前に座り直す。
それからしばらく待つと御用聞きが客人を連れて奥座敷まで案内してきた。
襖が開けられると客人は奥座敷へと入ってきた。
案内されてきたのは真っ黒い外套を羽織り、紅い髪紅い瞳の若い娘だった。
娘は若頭の前まで来ると周りを見回した。そして一番身分の低いと思ったすぐ横に座っていた家臣に小声で訊ねた。
「椅子がないようじゃが……このまま座ればよいのか?」
家臣は黙って頷いた。すると娘はもう一度周りを見回して、どかっと腰を下ろし胡座を組んで座った。
その様子に皆が呆気に取られていると娘は背筋を伸ばし若頭を真っ直ぐに見つめた。娘の顔は自信に溢れ活力が漲っていた。
そのせいか無礼者と怒る者はなく、家臣達の多くは思わず笑みがこぼれていた。
若頭は咳払いをしてから、娘を見る。そしてこう切り出した。
「異国からの来訪と見受けるが、この俺に何か用がおありか?」
娘は大きく頷いた。
「我が名はローテアウゼン、ここより遠く西の大陸の西の果てニールブリンクより参った魔法使いである。儂は火水風土雷光すべての魔法に精通しておるが、東の果てにある島の国には我らとは違う系統の魔法があると聞き及んで興味があった、故にその魔法をこの儂に教えて貰おうと参った次第じゃ」




