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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第二章 漆黒の姉妹(レイヴェンシュワルツシュバイセン)
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漆黒の姉妹⑨

 なんだなんだ? 対決ってなんだ?

「なによあなた、挑戦するつもりなの? いいわ、わたし受けて立つわ」

 店主が俺に耳打ちする。

「兄ちゃん、合図があったら皿のパンを思い切ってかきこめ。姉ちゃんより先に食い切ったら勝ちだ」

 要は早食い競争か、俺の頭ほどもあるデカいパンだ。奴を見ると妙にやる気を出してやがる。仕方ない、ここはやってやろうじゃないか。

「ようし、用意はいいか?」

 店主が大声で用意を促す。

「いいぞ」

「いつでもいいわ」

「それじゃあ位置に着いてぇ……始めっ!」

 俺はパンを掴んでかぶりついた。固くてパサパサのパンだ、思うように頬張れない。奴は……なんとボリボリと小さく噛みちぎりながら飲み込んでいってる。

 そうか、やたらと大きく口に含むよりは飲み込める程度ずつ噛みちぎったほうが早いか。

「おおっと、兄ちゃんが作戦変更か? ちょっと負けてるぞ、がんばれよ」

 くそっ、口が渇く、水が欲しい。奴は淡々と食ってやがる。俺は無理やりにも飲み込んでそして無理矢理頬張るを繰り返した。

 勝負は接戦だったが俺が最後の一口を頬張ろうとしたとき店主の声が聞こえた。

「姉ちゃんが完食だ! 姉ちゃんの勝利!」

 最初に躊躇しなければ勝てていたはずだが今さら悔いたところで勝負は覆ることはないだろう、やれやれだ。

 俺は店主から渡された水を飲みながら残りのパンを飲み込んだ。

「ふぁららふぉふぉぶ……ぶ……ぼふぉ」

 あ? なんだ?

「姉ちゃん、口の中のもの飲み込んでから喋んなよ」

 店主はやつにも水を渡した。

 奴は水を受け取り口の中の物を流し込むように飲み込むと再び口を開いた。

「わたしの勝ちではあったけれど、本当は圧倒的な差で勝ってあなたを見下してやるつもりだったのに、わたし、おかげでわたしのプライドはズタズタだわ」

「そうかよ、そいつは悪かったな」

「もう一度勝負するならその時は……」

 やつが言いかけたのを店主の声がさえぎった。

「ああ、すまねえが今のパンで全部売り切れだ。今から明日の仕込みをやらねえと明日売るものもありゃしねえ……で、お代はどちらに請求したらよろしいんで?」

 やつは黙って俺を見た。

 店主は俺と奴の顔を何度も交互に見ている。

「ええと、お代は……?」

「お前、なんで俺を見てんだよ? ……まさかお前?」

「お金なんて持ってるわけがないじゃない、わたしを誰だと思っているのかしら」

「……なっ! お前……!」

「ちょちょちょちょっ! 勘弁してくださいよ、お代を頂かなきゃうちも商売なんだから!」

 ロッタが後ろから俺を小突いた。

「タケゾウ、払うてやらんか」

「本気か?」

「仕方なかろう、幸いにして金なら余るほどあるのじゃ」

 ロッタがそう言うのなら俺も溜飲を下げるしかない。

「店主よ、俺が払おう。いくら払えばいいんだ?」

 店主の不安気だった顔が明るくなった。

「へい、銀貨三枚と三十クラウンになります、兄ちゃんのパンは俺のおごりだ」

「……なっ! 銀貨三枚と三十クラウン? こいつ一人でそんなに食ったのか?」

「そらもう、うちの一日分の仕込みを全部たいらげたからよ」

 俺は懐から巾着を取り出し店主に代金を支払った。奴を見れば元は大カラスとはいえ今の見た目は若い娘そのものだ。どこに食ったものが入るんだ?

 代金を受け取った店主は上機嫌で店の奥へと入っていった。これから明日の分の仕込みで忙しいのだそうだ。


「じゃあ勝負はまたの機会に持ち越しよ、その時はわたし、あなたを完膚なきまでに叩き潰してやるわ」

 ああ? おかしなことを言うやつだ。

「またの機会なんてあるのかよ? お前、ロッタを狙っているんじゃなかったか?」

 やつはかすかに驚いた顔をした。

「……そうね、そうだったわ。次に会う時はあなた達の最期になるわね」

 どうにも何と言ってよいか分からないが違和感を感じた。俺たちを、ロッタを食い殺すと言っていたのを忘れたのか。

「お前、どうしてもロッタを襲うつもりか? このまま何もしないなら俺たちもこのまま通り過ぎるだけだ」

 やつは何も答えなかった。

「そうじゃ。貴様らが儂を襲わねばならぬ理由はなんじゃ? 誰かに雇われたか?」

 ロッタの問いに目を逸らし俯いた。そして呟くように答える。

「……そんなの言えるわけがないじゃない……わたし……」

 奴は思い立ったように俺を見た。

「そこのあなた、名はなんというのかしら」

「タケゾウだ」

「そう……楽しかったわ、わたし、人間に遊んでもらったことなんてなかったから……」

「遊んで……?」

 遊んでやった覚えなどないが……今の早食い競争のことだろうか?

「それから……このことは妹には内緒よ? あの子……うるさいから」

 そういえばそんなことで痴話げんかしてやがったな。

 奴の顔つきが変わった。森で会ったあの魔獣の顔だ。思わず俺は刀に手をかける。

「我が名はクラヴィア、漆黒の(レーヴェンシュワルツ)姉妹(シュバイセン)が一人。カイザーのしもべ。グルーバ渓谷で待ってるわ」

 奴の体は解けるように漆黒の羽毛へと変わり大きな渦をつくった。羽毛はそのまま高く登り大ガラスの姿へと変わった。

 奴は羽ばたき、西の空へと消えていった。

 奴の姿はもう見えなくなった西の空を見ているとロッタが俺の袖をつまんだ。

「タケゾウよ、お腹すいた……」

「んん? あっ! ああ、すまんな俺だけ腹いっぱいになってしまったな……そうか……ああ、どうしたものかな……店主に無理を言って何か作ってもらうしかないか……」

 ロッタはくすくすと笑いだした。

「冗談じゃ、食べ物くらい馬車にあるもので何とかするわ。それよりも……じゃ」

 まったくもってロッタの肝の太さには恐れ入る。

「奴の意外な行動に面食らっておるな? タケゾウよ」

「ん? ああ、そうだな何でもないといえば噓になるか」

「そういう時はの、こう言うのじゃ」

 ロッタは俺の顔を見てにやりと笑って見せる。

「……面白くなってきやがった……じゃ」

 俺は思わず吹き出した。そいつはいい。

「いいな、それは。面白くなってきやがった。そうだなたしかに、面白くなってきやがった」

 俺とロッタは互いに笑った。

 そして俺は改めてロッタを守ることを一人誓った。

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