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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第六章 黒金の城(シュタールシュロス)
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クラヴィア④

 クラヴィアを見送った後、窓際に立ち外を眺めていると女中たちが部屋に戻ってきた。


 六人の女中でてきぱきと寝台の用意を進め、さらに四人が着替えを持ってきてロッタの側に立つ。


「ローテアウゼン様、お召し替えを」


 女中に言われるがロッタは袖に隠した小袋を気にしてそれを断った。


「構わぬ、このままでよい」


 ロッタは羽織っていたローブを自分で脱ぎはじめた、すぐに女中が手伝おうと手を出すがロッタはそれも手で制して断った。


 ロッタは脱いだローブを女中に渡すと寝台へと歩く、寝台に腰掛けると女中たちが動いて寝かしつけてくれる。


「起きたら声をかける、それまで外に居ってくれ」


 ロッタがそう言うと女中達は礼をして退室していった。


 女中達の退室を見届けるとロッタは大きく溜息を吐いた。


「さて……と」


 ロッタは寝そべったまま小袋を取り出した。中身は真っ黒い小さな直方体、これを届けた鴉はタケゾウが弟子のオウカから預かったものだと言った。


 ロッタにはこれが何かすぐに分かった。作り方を教えたのは自分自身だからだ。


 魔法使いが魔法を行使するには大量の魔力を消費する。魔力とは生命力そのものであり体内に魔力を蓄えるには皇帝のように体を大きくするのもひとつの手段だが、多くの魔法使いは外からの供給に頼っている。


 杖やローブなど魔道具を身に付けることで賄うことが多いが、高圧で圧縮して物質化したものがこの黒い直方体だった。おそらくはこれを作った当時のオウカの精一杯の魔力がこめられているはずだ。


 直方体から魔力を得るにはこの直方体を砕いてやればいい。


 ロッタは直方体を口の中へ放り込んだ。そして奥歯で思い切り噛み砕く。


 体の中へ風が吹き込むような錯覚と共に体の奥底から力が(みなぎ)ってくる感覚。失われていた魔力が随分と復活した。


「オウカめ……これほどとは」


 ロッタは予想以上の魔力量にほくそ笑む。


「……む?」


 小袋の中にはまだ何か入っているようだ。ロッタは袋をひっくり返してみると紙片がぽろりと落ちた。


 開いて見ると紙片には『地下牢』とだけ書かれている。


「鴉のやつめ……」


 ロッタは紙片を両手に挟み魔力を注ぐ。


「……我が傀儡に命ずる……かの者の元へ行き、かの者を救い給え……」


 紙片は小さな人の形を成し頷いた。ロッタは寝台から起きて窓を少し開けてやると人形(ひとがた)の紙片は外へと飛び出していった。


 ロッタは窓を閉め寝台へ戻る。


「次は儂か……さて……」


 そう呟いて部屋の中を見回した。

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