クラヴィア③
城の北側、一番高い塔の最上階にある広間はもともとは姫の居室であり広大な室内には付き人や世話係の為の設備も整った部屋である。
この部屋の一番奥には大きな玉座が置かれており、ロッタは一日の大半をこの玉座で過ごしていた。
タケゾウの安否が気になっていたがそれを知る手立てはなく、付き人達はロッタの世話に必要なこと以外はほとんど会話を為さない。
広い部屋の中には特に用事のない限りはロッタの他には一人か二人の用聞き番が控えている程度だった。
ロッタは窓の外を時折眺めてはタケゾウから贈られた髪飾りを膝の上で眺めていた。
ロッタは力なく溜息をひとつ吐いた。そして髪飾りをそっと撫でてみる。あの日以来は着けたことのない髪飾りが、今となってはたったひとつロッタのもとに残るタケゾウの名残だった。
ふと窓辺を見ると鴉が外の窓枠にとまっているのが見えた。
鴉は何かを咥えているようだ。そしてそれが自分に宛てたものだとロッタはすぐに直感した。
ロッタは部屋の中を見回すが用聞きの女中たちはまだ鴉には気付いていない。
「少し……横になりたい、用意してくれぬか」
ロッタがそう言うと二人の女中は深くお辞儀をして部屋を出て行った。
ロッタはすぐさま窓辺へと行き、窓を少し開けた。同時に鴉の体は解け羽毛の渦が部屋の中へと入ってきた。
ロッタは驚く様子も無く「お前か……」と呟く。
人間の姿を現わしたクラヴィアはすっと手を差し出した。
「なんじゃ?」
ロッタが訊ねるとクラヴィアは握っていた手を開いた。
「タケゾウからよ」
クラヴィアは小袋をロッタに渡すと続けて言った。
「あなたの弟子から託されたと言っていたわ」
ロッタは小袋の中身を覗いてみた。
「これは……」
それが何であるかを理解したロッタは再び袋の紐を締めた。
「確かに受け取った……すまぬが今の儂には何も礼をすることが出来ぬ……」
「いいのよ、礼ならもう貰っているもの……わたし」
クラヴィアはそう言うと羽毛の渦へと変わり、鴉の姿に戻る。
ロッタは飛び去っていくクラヴィアを見送り、窓を閉めると小袋を袖の中に隠した。




