皇帝(カイザー)⑥
何が起きたか理解できないままタケゾウは激痛にむせかえる。
「ガハッ……ぐっ……ふふぅ……」
なんだ? なにが起きた? 俺は身体を起こしてロッタの姿を探す。
ロッタが振り返り俺のほうを見ているのが見えた、ロッタは無事か。
よろよろとタケゾウは立ち上がり皇帝に向かって歩き出す。
「皇帝よ、我らを帰す気はないということか?」
皇帝は返答をせずただタケゾウを静かに睨み続ける。
ロッタは悲痛な叫びでタケゾウを止めようとした。
「よせ、タケゾウ!」
ロッタは手の平を掲げタケゾウの前に魔法の盾を展開する。しかし同時に盾は砕け散り皇帝は意外そうな顔でロッタを見た。
皇帝はにやりと微笑むとロッタに語りかける。
「ほう……守ったな……?」
ロッタは苦しげに叫ぶ。
「頼む、その男だけは殺さんでくれっ……頼む」
ロッタの懇願を聞くと皇帝は口許をさらに歪ませた。そして人差し指を立て、ゆっくりとタケゾウを指す。
「やめろっ! やめてくれ!」
ロッタは再び魔法の盾をタケゾウの前に展開する、しかし不完全なものしか展開されずすぐに吹き飛ばされてしまう。
タケゾウはただならぬ殺気を感じ、ついに抜刀した。
「いかん! タケゾウ!」
ロッタの叫びも空しく、タケゾウの剣は抜いた瞬間に砕け散ってしまう。さらに次の瞬間タケゾウは身体ごと吹き飛ばされて床に叩きつけられる。
皇帝はタケゾウを弄ぶように何度も吹き飛ばした。
そんなタケゾウを見ることの出来ないロッタは顔を伏せ、床に頭を擦りつけながら泣くような声で懇願を続ける。
「頼む……その男だけは……どうか……殺さんでくれ……どうか……どうか……儂なら何でも言うことを聞く……じゃから、頼む……」
タケゾウが動かなくなるまで弄んだ皇帝は目を細め薄ら笑いでロッタを見つめる。
「ふむ……利用価値はあるようだね……」
タケゾウは薄れいく意識の中で、「后になれ」と言う皇帝に承諾の返事をするロッタの声を聞いた。




