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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第二章 漆黒の姉妹(レイヴェンシュワルツシュバイセン)
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漆黒の姉妹⑦

 こういう時に冗談の言える肝の太さは見習うべきところかも知れんがな。

「で、儂の体について何を聞きたいのじゃ?」

 俺は菊菜の茎を束ねて鍋を擦りながら答える。

「まずは、そうだなロッタの封印について聞きたい。何がどう制限されているのか俺にはいまいちピンと来ない」

 ロッタは布きれで椀を拭きながら少し考えるような仕草を見せる。

「タケゾウは魔法使いについて何か知っておることはあるのか?」

「ヒノモトにも魔法使いはいたがあまり関わることは無かったからな、知識としてはほとんどない」

「そうか、では封印について知るためにはまず魔法使いがどういうものか知る必要があるのう」

 ロッタは器の入った籠に椀をしまった。

「儂ら魔法使いは何も無いところから魔法を生み出すのではない、魔力を依代(よりしろ)として万物の(ことわり)に働きかけるのじゃ。魔力とは概念のようなもので魔法を行使する力の源を便宜上、魔力というのだ」

「つまり何かの力を借りて魔法は行使される、というわけか」

「そうじゃ、この世界には様々な力が溢れておる、例えるなら風は湖の水面を揺らし、草を薙ぎ、木の葉を舞い散らし、空では雲を流す。そうした力を少しづつ集めると莫大な量になる。これらは動く力じゃが他にも熱や抵抗、生き物の命なども魔力の源となる」

「すると魔法使いはそういう自然にある色んな力を取込んでいるわけだな、どの位の範囲が対象になるんだ?」

「それはの、広い者もいれば狭い者もいるのじゃ。魔法使い個人の才覚次第で見える範囲程度の者もいれば果てしなく広い者もいる」

「果てしなく、とはまた想像しがたいが……」

 ロッタは猫のように伸びをして俺のほうを向いた。揺れる炎を浴びながら少し笑った。

「具体的にはその魔法使いがこの世界をどこまで感じとることが出来るか、じゃな」

「ではロッタはどうなんだ?」

「儂か?」

 ロッタは二度三度頭を揺らしながら空を見上げた。

「こうして目を閉じて周囲に感覚を奔らせるとこの世界に溢れる力を感じる、タケゾウの温かさも……」

「俺の?」

 ロッタは少し慌てた様子で続けた。

「空に向かい手を伸ばせば雲が幾重にも重なっておる、さらにその上には暗く冷たい世界が広がる。ここには無限ともいえる力が溢れておる。もっともっと、ずっと遠くに手を伸ばすとマルスが、ユピテルに手をかけるとサタンがこちらを見ておる。サタンの向こうには海王が、さらには冥王が控えておる……」

 ロッタはゆっくりと目を開けて俺を見た。

「こ……この空の彼方のことを言っていたのか……?」

 ロッタは黙って頷いた。

「この星々の世界すらロッタの掌中にあるというのか……」

 ロッタはくすくすと笑う。

「そこまでではない、むしろ儂には手の届かぬ世界じゃとはっきり分かる。そういった世界に触れることが出来たから……それ故に、儂のような者でも謙虚になれたのじゃ」

 俺にはさっぱり分からないが、この星空の世界、ロッタが触れたのはほんの一部でしかなくまだまだうんと広く……とにかく俺には理解の及ばない話だった。

「個人の才覚によるという話だったが、その……一般的にはどの程度なんだ?」

「そうじゃな……広くてもせいぜいが地平程度までじゃろうな」

 なんという事か、魔力の源を空の彼方に求めることが出来るロッタはそこらの魔法使いとは比較にすらならんということか。

「魔法の強さとは簡単に言えば魔力をいかに大量に取り込んで、同時に大量に放出できるかじゃ。儂の封印はここを小さく制限しておるでな、強力な魔法を行使しようとすると魔力の供給が間に合わん」

「それはつまり、放出する量だけの話ではなく取り込む量も、というわけだな?」

「そうじゃ」

「分かった、とりあえず今のところはそれで充分だ。これ以上聞くと俺の頭が破裂しそうだ、また追々聞かせてもらう」

 ロッタはくすりと笑った。

「では他に聞きたいことはあるか?」

「弓のことだが……あれは魔法でこしらえたもののように見えるが、あれを使うことで魔力の循環に負担はかかるのか?」

「あの弓はな……分解して儂の中に格納してあるものを展開しておるのじゃが、ごく僅かな魔力があれば展開出来る。弓を番うのには魔力はいらんからな負担はないといっていい」

「それを聞けて安心だ。ロッタの腕前には頼らせてもらわんといかんからな」

 ロッタは少し照れ臭そうに頬に指をあてる。

「それからもうひとつ聞きたい」

「なんでも聞くがいい」

「ロッタはブルーノで五百年以上暮らしてきたと言ったが、魔法使いとは皆そんなに長命なものなのか?」

「いや、魔法使いも人の子じゃ。寿命に違いはない」

 ならばロッタの寿命が異常だということか、五百年を過ぎてまだ娘のような姿のままとは……

「儂はの……命を長らえる為に、この体に魔法をかけたのじゃ」

「それは……不老不死とかの類なのか?」

「違う。この身の老化を遅らせておるだけじゃ、死なないわけではない」

「いったい……なんのためなんだ?」

「……約束を果たすために、儂はその時まで命を長らえねばならぬ……」

「それは……いつまで……」

 ロッタは答えなかった……否、答えようとしていることは分かる。言葉を選んでいるのか、あるいは答えることが、何か辛い思い出と結びついているのか……

「いつまでかは分からぬ……ただその時が来るまでは……」

 どうしたのだろうか、ロッタがこれほど脆く儚く見えてしまうとは……

 俺はこの時、ロッタを守らねばならぬ、そう強く思った。

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