クロエ、降り立つ①
エレンスージは復活すると空を仰ぐような仕草を見せる。
そのまま空を見上げ続け、ぽつりと呟いた。
「僕のビアンカ・フォルゴーレが死にました。きっと僕も死ぬのでしょう……」
エレンスージはそう言うと俯いてから俺たちのほうを見た。
エレンスージはロッタが卵を持っていることに気付いた。
その卵を見ると悲鳴を上げて蜷局を巻いた。そして蜷局を解くと慌てて逃げるように橋を渡っていった。
「僕は……まだ死にたくはありません。ビアンカ・フォルゴーレのいない世界はとても寂しいですが」
そう言うと顎で背中をこすり、自らの鱗を剥ぎ落とした。落ちた鱗は次々に白い兵士へと姿を変えていく。
胸当てに腰だれ、白い兵士達は軽装の戦士の姿だった。多くは剣を帯びているが何人かはその手に槍を、石弩を持つものもいる。
白い兵士達は橋の上にぞろぞろとやってくる。その数は二十か三十か……タケゾウ達の接近を拒むように立ちはだかった。
俺は振り返りロッタに左手を差し出した。
「その卵を奴にぶつければいいのだな?」
俺がそう言うとロッタは抱えた卵をじっと見た。そして俺の目を見つめてこう言った。
「否……それは儂がやらねばならん」
「……そうか、分かった。ではロッタを奴の前まで連れていかねばならんな」
俺は白い兵士達の待つ橋を見た。その奥には怯えるように竦んでいるエレンスージが見える。
抜刀して切っ先をエレンスージへと向け俺は叫ぶ。
「行くぞ蛇神! 邪魔立てするなら推し通る!」
俺は振り返りロッタを見る。ロッタは卵を握りしめ胸に抱いている。紅い瞳が不安気に俺を見つめていた。
「大丈夫だ、俺の後ろを着いて来るがいい、必ずやつの元まで連れていく」
ロッタは頷いた。
「……では、推して参る」




