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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第二章 漆黒の姉妹(レイヴェンシュワルツシュバイセン)
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漆黒の姉妹⑤

 ブルーノの軍勢は優秀だ。

 こちらの斥候をあっさりと倒し、城壁の外で作業中だった農民たちを城壁の中へと非難させるとすぐに避退した。そして城門の周りに小隊を残し城壁の上にはずらりと弓兵が並んだ。

 これでは迂闊には近寄れない。

 ここブルーノを攻めるべく出征は今回で第七次となるそうだ。なるほど守備兵の動きは統率がとれていて迷いもない。当たり前に攻めても手強い相手なのだろうが、この城塞都市には魔法使いがいて、この魔法使いが何にも増して手強いのだそうだ。

 第六次までの出征ではこちら側の軍勢には魔法使いはいなかった。

 そこで今回からは傭兵として私の率いる魔導部隊が迎え入れられることとなった。

 笑えない話だがこちら側の教会では魔法使いは不浄であり忌むべき存在とされている。それ故に魔法使いを従えるブルーノは異教徒として討伐の対象とする大義名分が成り立つ。

 では何故私が傭兵として雇われることになったのかといえば私が男であるからに他ならない。

 女であれば魔女として断罪せねばならないが男であればそれは魔女を滅ぼす救世主たりえるというのが新たな教えとなっている。

 こうした自己の利益の為にあっさりと解釈を変えてしまうやり方には虫唾の走る思いだが、これも傭兵稼業ではよくあることで私は教会に雇われはしても信じるのは神ではなく金そのものだけだ。

 そして私は魔法使いを殺す専門の魔法使いであることがやつらからより多くの契約金を得る強みであった。

 教会からは魔導部隊は全員男を揃えるよう言われたのだが男の魔法使いは少ない、五人集めたうちの二人は女であったが対外的には男として振舞わせることにして髪を短く切らせ、人前では喋らせないようにした。

 私は普段の三倍の契約金を提示したのだが、なんとあっさり承諾しやがった。

 よほどブルーノの魔法使いが怖いのだろう。


 ブルーノの城門は三か所ある。西門、東門、南門だ。現在敵の小隊が守っているのは西門だ。

 我が陣営は西門の前に大筒を配置した。これから砲撃を加えようというところであった。

 守備側の魔法使いは大抵の場合、攻撃に参加することはあまりなく防壁を張り味方の兵士や城壁を守ることが多い、つまり前線が見える位置に陣取っている。

 私は敵の魔法使いが魔法を行使した時の魔力の動きを察知することが出来る。敵が魔法を使えばその位置が分かる。

 大筒が砲撃を始めればやつらも防壁を展開するだろう、その時を待つとしよう。

 大筒隊は初弾の装填を終えたようだ。照準の調整をするために一基ずつ撃って着弾を確認しながらその都度調節していく。

 弓の届かぬ位置に並べられた大筒の一つが今、号令と共に着火された。

 直後、けたたましい轟音が響き20ポンドの砲弾が放たれた。

 私は魔力の気配を感じた、しかし防壁にしては弱く感知できる時間も短かった。いったい何をしたのだ……

 私は望遠鏡で城壁を観察した。こちらの大筒が放った初弾は城壁よりもやや手前に着弾した。これなら一度照準を調節すれば城壁に届くだろう。

 城壁を見ると弓兵たちが矢を番え構えているのが見える。馬鹿な、届くはずがない。

 しかし城壁の弓兵たちが放った矢は大筒隊に降り注いだ。砲兵たちは悲鳴を上げて逃げ惑っている。

 さらに矢は降り注ぎ、逃げ惑う砲兵の中には矢を食らい倒れる者もいた。

 城壁の上には黒いローブを纏った少女が見えた。紅い髪がはっきりと見える。噂に聞くローテアウゼンに違いないだろう。

 私は先手を打つことにした。部下を呼び、中和術式を指示した。

 魔法に触れると自動的に反応してその魔法を中和し、無効化する術式だ。

「やれ!」

「はい」

 術式が発動した途端、ローテアウゼンはこちらを見た、望遠鏡ごしに目が合ったのだ。

 馬鹿な、この距離で見えるわけがない。

 奴は誰かを呼ぶ素振りを見せた、すると一人ローブを纏った魔法使いが駆け寄った。なるほど向こうも一人ではなく魔導部隊があるというわけか。

 ローテアウゼンはこちらを指差し駆け寄った者に何かを指示しているようだ。

 ローテアウゼンの噂は各地で聞いてきた。紅い静寂の賢者、赤と黒の混沌と絶望、紅の大魔導士、赤き絶望の星屑、などなど語る者によりいくつもの二つ名を持つ生きた伝説の魔法使いだ。

 その魔法使いと今こうして手合わせが出来るとはな、この戦いに勝てば私の名も売れ、こんな傭兵稼業などせずとも安泰に暮らしていけるだろう。

 望遠鏡に映る奴は再び私を見た。なんということか、やはりこちらが見えているのか。

 ローテアウゼンはゆっくりと腕を振るった。

 直後、私の体は動かなくなった。なんだ? どういうことだ。

 突然、私の前にローテアウゼンは現れた。すぐ目の前の空中に浮かんでいる。

 なんだ? どうやってここへ来た?

 弓を持って現れた奴は矢を番え、中和術式を展開していた私の部下を射抜いた。胸を射抜かれた彼女は矢を掴み、膝を着いてゆっくりと倒れた。

「退け! このような愚策ではブルーノは墜とせぬ。退くならば追撃はせぬと約束しよう」

「ふざけるな、我が魔導部隊が必ず貴様を殺してくれる」

 ローテアウゼンは私を一瞥すると呆れるように頭を振った。

「警告はした。退かぬなら我らとしても不本意な行動に出ねばならぬ」

 それだけ言うとぷつりと姿が消えた。いったいどうなっているのか分からない。魔力を行使した痕跡を追うことが出来ない。まさに瞬間移動としか言いようのない業でどう考えても強力な魔法であるはずだった。

 奴の姿が消えると体の自由が戻った。奴に射貫かれた部下はどうやら絶命したようだ……おのれ。

 手練れの炎術使い二人を正面からぶつけてやるわ、城壁に陣取る弓兵共々焼き尽くしてくれる。

 合戦用飛行箒(フルデカンプビーズン)を用意して我々は前進する。

 強力な防壁を展開させて炎術使いを守りながら城壁を見下ろせる位置まで前進した。ローテアウゼンがこちらを見上げているのが見える。

 いい眺めだ、弓兵たちがこちらに矢を向けているが射ったところで防壁を貫けはしない、炎術使いに攻撃を指示すると、ローテアウゼンは傍らにいた魔法使いに何かを指示している。そしてこちらを向くと手で首を刎ねるような振りをした。

 直後、得体の知れない衝撃に襲われる。

 なんだ? 何が起こった?

 我ら魔導部隊の上から巨大な塊が降ってきたと分かった時には地面に叩きつけられ巨大な氷塊に圧し潰されてしまった後だった。

 私は意識こそまだあるが体を動かすことはもう出来なかった。

 部下たちはどうなったのだろうか、一緒に潰されてしまったのだろうか……無念だ……

 空が見える、空には氷の屑がきらきらと輝いていた。そうか……罠にはまったのか……

 これまでは無力化した魔法使い達をなぶりものにして殺してきた私だったのだが……ローテアウゼン……私よりも上手だったようだ。

「お前のような戦い慣れた者ほどくだらぬ罠にかかりやすい」

 ローテアウゼンの声だ。

「放っておけば助からぬであろう、生きる意志があるなら手当てをしてやるがどうする……?」

 私を助けようというのか……

「……いらぬ」

「苦しければとどめを刺してやるが……どうだ?」

「……いらぬ」

「そうか……ではゆっくりと死を待つがよい。屍は皆まとめて埋葬してやろう」

 ……ふっ、お節介な魔法使いだ。私は負けたのだ。負けるということは……すべてを失うことだ。

 どれほどの時間が経ったのか、長い時間が過ぎたような気もするが一瞬だったのかもしれぬ。私の胸を何者かが叩いている。

 見れば胸の上にカラスが乗って私の顔を覗き込んでいる。

 そうか、私が死ぬのを待っているのだな……もはや抵抗する力など残っておらぬ、生きたまま食らえばよいものを……

 さあ、カラスよ、我が屍を食らうがいい。私の力でお前を魔獣としてやろう。

 魔獣となり、我が無念を呪いとして振りまくがいい。人を食らい、恐怖を振りまくがいい。

 ふふふ……くくっ、ふはははははは…………

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