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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第五章 黒い森のクロエ
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予言と誤解

 店に着いても酒を飲む気分にはなれず、適当な食べ物を頼んで時間を潰す。


 ブルナークでもやってくれば話相手になるのだが、こんな時に限って奴は来ない。


 すっかり冷めてしまった腸詰めを口の中に放り込み、退屈に任せてゆっくりと咀嚼する。


 今からでも宿に戻ろうかと考えるが俺が戻ったところで邪魔になりこそすれ役に立つことなどないだろう。


 俺は大きな溜息を吐く。と、同時に背後から近付く人の気配を感じた。


「あらあら、今日は一人ですのね」


 振り向くとクロエがくすくすと笑っていた。


「……お前か」


 クロエは向かいの席に座った。


「今日は驕っていただいてもよろしいかしら?」


 クロエは頬杖をついて俺を見つめながら言った。


 ちょうど退屈していたところでもあるし構わないと思った。


「好きにすればいい」


 俺がそう言うとクロエは「では頂きますわ」と呟いてから葡萄酒を注文した。


 俺たちはしばらく無言のまま、クロエは時々葡萄酒を口に含むと飲み下していた。


 葡萄酒を美味そうに飲むクロエを俺は見るともなく見ていた。


 クロエは美しい。肌は透き通るように白く髪は輝かんばかりの金髪に翠の瞳は魂まで吸い込まれそうなほどに美しい。


 夢に現われる謎の少女にも似ている。


 幼さの残るエミリアとは違いぐっと大人の気品に溢れている。これほどの女であればこそなのか、騎士団の団長に対して助言が聞き入れられるほどの力を持っている。


「……ロレンゾはどうしている?」


 何となく聞いてみると、杯を持ったままクロエは肩をすくめて口を押さえる。


「なんですの? いきなり……」


 クロエは首を傾げ俺を見た。


「そうですわね……彼は、自分の為すべき事をしているんじゃあありませんこと?」


「……どういう意味だ?」


 俺の問いにクロエは肩をすくめて答える。


「さあ?」


 クロエはそう答えると俺を見てくすくすと笑った。


「少しは私にも興味を持って欲しいものですわ」


 そう言ったクロエの視線が俺の背後のある一点を見つめていることに気付いた。


 振り向くと入り口の扉を入った所からこちらを見ているロッタの姿があった。ロッタは俺の視線に気付くとすぐに店を出ていってしまった。


 俺は思わず席を立つが「お待ちになって」とクロエが呼び止める。


「なんだ?」


「……私、夢を見ましたの」


「は? 夢……?」


 クロエは俺の顔をじっと見た。


「あなたが大蛇の毒牙に穿たれる夢……本当に討伐に行きますの?」


「なっ……なんだと?」


 クロエは俺とは目を合わせず、葡萄酒に口を付ける。


 ロッタが気になる俺はクロエを残して駆けだした。


 店の扉の前で男とぶつかってしまう。


「おおっタケゾー、こんな所にいたのか」


 ブルナークだった。


「すまん、また今度」


 とだけ言って急いで立ち去る。


 背後にブルナークの怪訝な顔を感じてはいたが今はただロッタが気がかりでそれどころではなかった。


 宿に戻ると部屋の明かりは消され、ロッタは寝台に潜り込んで眠っていた。


 いや、多分まだ起きてはいるのだろう。何度か声をかけてみるが反応がない。


 暗がりの中、ロッタが座っていた机を見るときれいに片付いており何やらやっていた作業は終わったらしいことが分かる。


 もう一度ロッタに呼びかけてみるが返事はなかった。


 俺は仕方なく自分の寝台に潜り眠ることにした。

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