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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第五章 黒い森のクロエ
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髪飾り

 露店を見て回ると花屋もあった。時期的なものか種類も多く選び放題の有様だった。


 しかし俺にはこの中からロッタに贈る花を選ぶ知識も教養もなかった。なによりどれかを選んだとして、その花束を抱えてロッタの前に参上しどういう口実で渡せば良いのかまるで見当がつかない。


 ロッタが嬉しそうに花束を受け取る姿がまるで想像出来なかった。


 装飾品の店もある。ロッタは手首と足首に大きな輪をはめているがあれは力を封じるものだと言っていた。ということは腕輪などを贈ることは出来ない。


 指輪を贈ることには大きな意味があることを俺は知っていたのでこれも避けるのが賢明だろう。


 ロッタの姿を思い浮かべ、何を贈ればいいだろうかと考えながら露店を彷徨うこと数刻あまり。俺は立ち尽くし大きな溜息を漏らす。


 こんなことをやって何になるというのか。三日後にはエレンスージと対決なのだ、それなのに俺ときたら…………


 ふと傍らに目をやると櫛が並んでいるのが見えた。


「……櫛か……」


 待てよ、櫛ならば身につけるものと違いいくらか気軽に渡せそうな気がする。ヒノモトでも想い人に櫛を贈ったと言う話は何度も聞いた覚えがある。


「いざ櫛屋へ」


 いやいやいや……待て、そうじゃない。想い人へ贈るものを悩んでいたわけではない。ロッタへ贈るものだ。


 俺を深呼吸を繰り返し何とか落ち着きを取り戻す。


 櫛はたくさん並べられていた。小さなものから比較的大きなもの、質素なもの派手に装飾が施されていたり模様が彫刻されているものもある。


 これはこれで悩ましい。俺はどれにするかと慎重に吟味していく。


「お兄ちゃん、恋人にでも贈るのかい?」


 櫛屋の店主が突然口を開いた。俺は想わず吹き出しむせてしまう。


「ぶふぉっ……! い、いや違う……その……そう母親、母親にだ」


「そうかい、えらく悩んでいたから余程大事な(ひと)なのかと……」


「だ……大事な人には違いないが……」


「ははは……そりゃそうだね。……ふーん……だったらこれはどうだい?」


 そう言って店主が示したのは大きめの半月型の櫛だった。手に持つところに控えめの彫刻が施してありなんとなく上品に感じた。


「ふむ……悪くないな」


 そうして手にとってみようと思った時に櫛の横に置いてあった板きれに目がとまった。


「そっちは髪飾りだよ」


 店主の声は聞こえたが、これがロッタに似合いそうな気がして店主に答えるどころではなくなってしまった。


 ロッタはローブの頭巾を被っていることが多いが、最近は暑いので頭巾をはずし紅い髪を背中に垂らしていることも多い。あの髪にこの髪飾りはとても似合う予感がする。


 一見すると質素だが手の込んだ彫刻が施してある。


「そいつは纏めた髪を留めたりも出来る優れものだよ。お母さんも喜ぶんじゃないかい」


「店主、これを貰おう」


 俺は即答していた。


 店主はこれを小さな化粧箱に入れて渡してくれた。値段は銀貨一枚と銅貨七枚だったがなかなか手の込んだ造りに見えたので妥当なところだろう。


 これをロッタに着けてやりたいと気分は高揚し、購入したことが嬉しくなっていた。



「それは私にくださるものですの?」


 突然に背後から声をかけられて俺は驚いた。振り向けば……そう、クロエが立っていたのだ。


「い……いや、これは違うのだ。ま……魔法使いの……その……」


 思わずクロエから隠すように後ろに持つが、クロエは覗き込むように背後に回ろうとする。


 俺があまりに隠そうとするものだからかクロエはいつものようにくすくすと笑う。そして俺の目をじっと見つめるが、俺はどうにも目を合わせずらかった。


 クロエはぷいと横を向き、俺の顔を覗き込む。


「私も夢を見ましたわ。あなたと同じ……ヒノモトの剣士が現われましたの」


 俺は内心ぎくりとした。クロエの顔を見ることが出来ず思わず背けてしまう。


「もしかすると私たち……運命の出会いなのかも知れませんね……」


 クロエはそれだけ言うと去って行った。

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