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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第五章 黒い森のクロエ
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祭壇への道

 いつ戻るか分からないタケゾウを待っていては日が暮れてしまう。


 そう考えたロッタはタケゾウを待たずに祭壇へと出発した。ヘルバーグ山は街の関所を出て北へと進む。


 旅慣れたロッタの足でも夕暮れまでに戻るのは難しい行程だが、かばんをひとつ肩にかけてロッタは独りヘルバーグ山を目指した。


 それでもタケゾウが走って追いかけてくるかもしれないなどと考え時折振り返って見るが、タケゾウの姿を認めることはなかった。


 ロッタは祭壇への道を歩きながら、幼い日に訪れたはずの記憶を手繰った。


 あの頃はたしかまだ一人前と認められず、先輩と二人各地に赴いて魔獣退治だの古文書の解読だの禁忌魔法の習得だのとムキになって励んでいた。


 それももう五百年以上も昔の話……驚くほど綺麗に忘れて断片的な記憶すらなかなか蘇ってはこない。


 本当にやってきたことがあるのか、自分が封印したのかさえ疑わしくなってくる。


 それでも昼を過ぎて到着した祭壇の光景はたしかに見たことのある場所だった。


 祭壇は生贄を乗せる巨石が置かれ巨石の縁には七つの紅玉石が填められている。封印の解ける周期を報せる為のもので封印が弱まると紅く輝き始めるが封印の力が強くなると輝きを失い黒ずんでしまう。


 現在は紅く輝いて間もなく封印が解けることを報せている。


 祭壇の後ろには橋がかかっていて谷の向こうへと渡ることが出来る。


 さすがに橋は数百年前とは違い、頑丈な石造りの橋に架け替えられている。以前はか細い吊り橋だったように記憶している。


 ロッタはゆっくりと橋を渡った。


 橋を渡ると祭壇からは見えないようになっているが下へと下りる階段がある。ここには結界が施してあるがロッタは事もなく結界を解き階段を下りていく。


 階段を下りた部屋には石櫃が置かれている。


 ロッタに記憶が蘇る。ゆっくりと記憶をなぞるように進んでいった。


 石櫃の中には魔法使いの遺体が眠っている。


 蓋をずらすと中には木乃伊(ミイラ)が眠っていた。ここへ初めて来たときには百五十年ほど眠っていた木乃伊(ミイラ)だが、それからさらに五百年余りの時が流れ激しく傷んでいる。


 木乃伊の胸には石板が置かれている。石板には魔力で刻まれた魔法使いとエレンスージの物語が紡がれている。


 ロッタが手の平にふっと息を吹きかけると壁に埋め込まれたランプに火が灯る。


 ロッタは石板をそっと取り出すと石櫃の傍らに腰かけ、ひんやりとした部屋の中で石板に紡がれた物語を読み解いていった。


 優しい魔法使いの足を誤って噛んでしまったエレンスージとその毒により魔法使いが命を閉じるまでのほんの数日心を通わせる物語が刻まれている。その最後にはこう書かれている。


『足を噛まれたのは私の不注意であった。もしも私のエレンスージが聞き分けのない事を言うのであればこれを読んだあなたの手で彼を殺してあげて欲しい。その時には必ず私が彼の魂を迎えに戻ってくると約束しましょう』


 その後にエレンスージを殺す方法が書かれていた。


 ロッタは指で文字をなぞって全てを読み終えた。


 石板を胸の上に戻し、石櫃の蓋を閉じた。


 ロッタは階段を昇るとまた結界を戻しておいた。永い間、人間の侵入を拒んできた結界である。これを破ることが出来る者はいなかったのかも知れない。


 あたりはすっかり暗くなっていた。


 月明りを頼りに橋を渡り祭壇に戻ると誰かの声が聞こえた。


「ロッタか? 無事なのか? 怪我はないか?」


 タケゾウの声だった。


 ロッタは思わず力が抜けてへたり込んでしまう。


 タケゾウは慌ててロッタに駆け寄った。


「大丈夫か? 立てるか?」


 タケゾウは軽々とロッタを抱き上げた。


「ちょっ! やめんか、馬鹿者!」


 ロッタは暴れるがタケゾウは抱きかかえたままだ。


「こら、大人しくせんか」


 そう言ってタケゾウは口笛を吹いた。すぐにフリューゲが駆け寄ってくる。


 タケゾウはフリューゲの鞍上にロッタを載せると、自分も足をかけてひょいと跨る。


「さあ、帰ろうか」


 タケゾウがそう言うとロッタはタケゾウから顔を背けて頷く。


「来るのが遅いのじゃ、馬鹿垂れが」


「ははは……すまんな」


「……馬鹿垂れが」


 フリューゲは二人を乗せて、軽快に足音を鳴らして歩いた。

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