クロエの選択④
ロッタが言うにはこういうことだ。
あの先輩とエレンスージの噂を聞きつけてどんなものか見に行ってやろうとこの地にやってきた。そうして戦うと割とあっけなく倒すことが出来たらしい。
ただし当時のロッタとあの先輩はそこいらの魔法使いなど目ではない強さを持った上に力加減を知らぬ若さもあって凄まじい魔法攻撃を放ったのだそうだ。
ところが倒しても倒しても復活を繰り返すので復活しなくなるまで倒せばよいとなんの策もなく倒し続けていると、命乞いを始めたのだそうだ。
いい加減に倒し疲れたところでロッタたちは命乞いを受け入れることにしたのだそうだ。
そうしてエレンスージを祭壇の奥に封印するのだが、後にこの街で発見した魔導書を解読すると、なんとエレンスージと心を通わせたという魔法使いが書き残したものだと分かったらしい。
魔導書にはエレンスージを倒す手掛かりとなる記述があり、封印の解ける五十年後に試す約束をしてこの地を去ったがロッタはその数年後に自らに封印を課す出来事があり、先輩のほうは各地で暴れ回っていて、いつの間にか記憶の奥底に忘れ去ってしまっていたのだという。
つまりロッタにとってはやり残した仕事でもあり、不本意ではあっても違えてしまった約束でもあるのだそうだ。
翌朝、ロッタと共に食事を摂った後でクロエの所へ出かけようとしているとロッタが呼び止めた。
「魔導書の在処について心当たりを思い出したでな、そこへ寄った後で祭壇まで行ってみようかと思うのじゃがタケゾウも来んか」
「そうだな……俺はちょっと約束があるのですまんが……」
言いかけたところでロッタが怪訝な顔をした。
「……約束? あの槍使い……ブルナークといったか?」
「ん? あ……ああそうだ、奴とな……ちょっとな……」
俺は思わずクロエとのことは隠そうとしてしまった。
「ブルナークと……どこへ行くのじゃ?」
「え? ああ……そうだな……その……」
やはり隠したままは気兼ねがするので話しておくことにした。
「その……実はな、やつと一緒の時にクロエという娘と知り合ってな……」
俺は少しだけ嘘を吐いてしまった。ロッタは俺を冷ややかな目で見ている。
「……ほう、娘とな……」
「うむ、そうだ娘だ。その娘がだな蛇神の討伐について……その……騎士団と……口をきいてくれるとか、そういう話でな……」
あまり不確かなことを言う訳にもいかず、しどろもどろに取り繕うように喋っていると一瞬ロッタが寂しそうな表情を浮かべたような気がしてロッタを見たが、ロッタは背を向けていた。
どうにも居心地が悪くいたたまれなくなった俺は逃げ出すように扉へと向かった。
だが無下に断ってしまったことで急に罪悪感が襲ってきた。
「……ああ……その……たぶん、昼までには戻れると思うんだが……」
ロッタは背を向けたままだ。
「……そうか」
とだけ返事をしたロッタを残し、俺は逃げ出すようにクロエの店を目指した。




