夢に見た少女
ラインブルクの街は物凄く大きな街だ。街を囲む城壁も広く高い、その規模は外から見るだけでも初めて見る規模だった。
ロッタのいた街も大きかったが比べるまでもなくラインブルクは大きい。
当然ながら街に出入りする人間も多く、城門では荷物の検分など入念に行われている。
俺とロッタの馬車は昼前くらいに到着したが、すでに順番待ちの長い列が出来ていてかれこれ半時ほど待っているが一向に進まない。
大手の行商人が優先されるためにさらに一刻半ほどかかってやっと街に入ることが出来た。
城門から入ってすぐ大きな水場があり馬車を停めることが出来る。ひとまずここで馬車とフリューゲを預け手数料を支払う。
俺もロッタもひとまずは腹ぺこであったので飯屋に入ることにするが夕餉のこともあるので小腹を満たす程度にすることにした。
ひとまず空腹を満たしたら次は宿屋を探すことにする。
ここまで街が大きいと競争も激しいようで、通りでは宿屋の客引きが大勢声を張っている。
俺たちの前に三人の客引きが同時に現われて、是非うちへと勧誘を始めた。
ロッタは立ち止まると「半値にしたところに決めてやろう」と言った、二人は黙ったが一人が「半値は無理ですが三割なら引きましょう」と答える。
黙っていた二人は「ならばうちは三割半引きましょう」「うちはよ……よん……四割引き」と値引き合戦を始めた。
ロッタは溜息を吐いて三割引くと言った青年を差した。
「もうよい、初めに三割引くと言ったぬしよ、気に入った。本当によいのか?」
ロッタにそう言われると青年は
「もちろんです。ですが食事もうちでお願い出来ますか?」
そう言って笑う。ロッタは頷いて答えた。
こうして青年に案内されてかなり大きな建物へと案内された。
「こちらです、フラウミュラーへようこそ!」
フラウミュラーというのがこの宿屋の屋号らしい。見ると馬車がたくさん並んでいるのが見えた。
「青年、ちと聞いてみるのだがあの馬車はなんだ?」
「あ、あれですか? お客様の馬車を預かってるんです」
「ならば我らの馬車も頼めるか?」
おれがそう言うと青年は慌てた様子で答える。
「あっ! お客様も馬車でお越しでしたか! すみません一緒にご案内するべきでした」
そう言って青年は頭を下げる。
「いやいや構わん、こちらも言わなかったのだからな。どれ、今から取りに行ってくるとしよう」
するとロッタが銀貨の入った袋を投げて寄越した。俺はそれを空中で掴んで受け取る。
「大きな街は税金も高い、何かあるといかんから持っていけ」
俺は頷いて、今来た道を引き返す。
道程を半分ほど戻ったところで視線を感じた。視線の主を探すと向こうからやってくる通行人の中にいる娘だった。
その姿を見て俺は思わず息を呑んだ。
その視線の主が美しい娘であったからではない。
あの夢に出てきた少女の面影と重なったのだった。
エミリアもきれいな亜麻色の髪をした色の白い美しい娘だったが、その娘の髪はあの夢に出てくる娘のように輝くような金色の髪、透き通るように白く輝く肌をしていたのだった。
俺は立ち止まりその娘に目を奪われていた。
娘は真っ直ぐ俺の前までやってきて立ち止まる。
「初めまして異国の剣士様、私に何か御用かしら?」
俺は何も答えることが出来なかった。
そういえば長らくあの夢も見ていなかった。すっかり忘れていたのだが唐突に思い出した。
あの……夢に見た少女に俺は出会ってしまった。




