求婚⑦
外での調査を終えて俺たち一行は町へと戻った。ケルナはずっと顔を手で隠したままで背中を丸めて歩いている、町の長たちはそれを見てずっと笑っている。
トラウベとメローネは恥ずかしそうに少し距離を開けたまま無言で黙々と歩いている。
そんな様子を見ながら俺はふとロッタはどうなんだろうかと考えていた。見たところロッタにいい人が居る気配はない、かつていたのかも知れないがそういう話も聞いたことはない。そもそもそんな話をしたことはなかったな、そんなことを考えながらロッタを見るとすぐにこちらに気が付いたようだ。
「……なんじゃ」
俺を睨みながらロッタはそう言った。俺は何か聞いてみようかと思ったが何となく聞きにくくて止めておくことにした。
「いや、別に……なんでもない」
俺がそう言うと「ふん」と鼻を鳴らし前を見る。
まあ、少なくとも見た目は可愛らしい娘の姿をしている、そして長く生きているのだから一度や二度はそういう浮いた話もあっただろう。それを話さないのは話したくない結末を迎えてしまったからなのだろうか……などと考えていると
「……違うぞ」
ロッタが突然にそう言った。
俺に向かって言ったのか独り言なのか分かりにくい言いようだったので俺は聞き返した。
「なんのことだ?」
ロッタは俺のほうをちらとだけ見ると返事はせず歩き続けた。……やはり独り言だったのだろうか。
西門から町に戻るとすぐに町の長はユハを呼んだ。
ユハはすぐに走ってやってきた。
「お呼びですかい? 長殿」
そう言って息を切らして立っているユハを長たちはニヤニヤと笑って見ている。
「ユハよ、けじめを付けねばいかんのではないか?」
長にそう言われ、顔を手で覆っているケルナを見て、ユハは何かを察して唾を飲み込んだ。
両手で顔を隠したままのケルナを見つめながらケルナの前で膝をついた。
「ケルナ……話を聞いてくれ」
ユハは襟元に手を突っ込んで首からさげていた小袋を取り出し、手の平で振るった。すると手の平の上に指輪がころりと落ちてきた。それをユハはぎゅっと握りこむ。
ケルナは顔を覆った手を少しずらしてユハを見た。真っ直ぐ自分を見つめるユハの視線に思わず怯む。
「ケルナよ……待たせてすまなかった。……どうか、俺の妻に……俺と、こここ……婚姻を……その、交わしてはくれないだろうか……?」
この言葉を聞いたケルナの目から大粒の涙が溢れ出した。
ぽろぽろぽろぽろ涙が溢れ出した。
返事を待つユハはケルナの異変に気付いて顔を上げる。
「……ケッ……ケルナ、どうした?」
ケルナは必死に返事を口にしようと嗚咽をかみ殺しながら答える。
「ユッ……ひぐっユヴァざぁんん……ぶっ、ふづづがぼどぉ……ひぐぅ、でずげどぅよぼじぐ……うわああああああんんん」
嬉し泣きに溺れているケルナを目の当たりにして皆がどうしていいか分からず戸惑っている。
「ユハよ、何を言っているか分からんかったが断られたわけではなさそうだぞ……? はよう指輪をはめてやらんか」
長に言われユハはケルナの手を取ると薬指にそっと指輪を通した。
ケルナはその指輪を見ると一瞬泣き止むが、すぐにまた泣き始めてしまった。




