戦の後⑦
ロッタが魔力を吸い取る様は実に穏やかだった。反面、吸い取られる側であるフラームとフランメは苦痛に歪んだ顔でひたすら苦しんでいる様は敵ながら気の毒なほどであった。魔力を奪われるというのはなかなかにきついことらしいな。
ロッタが吸い取るのを止めると二人はぐったりと地面に倒れてしまった。
「なんじゃ若いのにだらしないのう、この借り物の杖に使っただけの魔力を詰めて返さねばならんというのに」
そうロッタから告げられた二人の顔は恐怖で歪む。
ロッタは容赦が無かった。本当に杖の魔力を補うだけの魔力を吸い上げた。後ろでスケベは大笑いしながらその様子を見ている。
スケベの杖に魔力を満たすとロッタはスケベに杖を返す。
「……これは、良い杖じゃった。名のある城に伝わる逸品のような……とても助かった、感謝するぞ」
そう言ってロッタはスケベに手渡した。スケベは受け取ると蒼い魔法石を透かして見るように掲げた。
「ありがとうございます。我が故郷に伝わる故郷の名を冠する者のみに所持が許されるウンディーネの水妖と呼ばれる杖です。別に空っぽのままで良かったのですが……いや、良い物を見せて頂きました。そこの炎術使いには何度も煮え湯を飲まされましたから」
スケベはそう言ってまた笑った。ロッタも頷くように笑って答える。
ロッタは深呼吸をしてからフラームとフランメに告げる。
「……さて、貴様らにはまだ行儀をしてやらんといかん」
フラームとフランメはもはや生気の失せてしまった顔を驚愕の表情で歪め、ロッタを見上げた。
「……ふむ……貴様は心の臓、貴様は……なんと気の臓か」
ロッタのこの言葉で何を察したかフラームとフランメは腰を抜かすように倒れると後ずさっていく。
フランメは大きく息を吸い込むと息を止める、異変に気付いたロッタは「タケゾウ!」と叫ぶ。
俺はすかさず抜刀し炎術使いの喉元に切っ先を押し当てる。
フランメは息を止めたままで口を固く閉じて喉の奥に溜めた炎を呑み込んだ。
「…………ぶはぁっ」
と息を吐くと真っ黒い煙が口と鼻から吹き出した。
ロッタはやれやれと溜息を吐く。
「こんなところで火を吹くんじゃない、観念せんか」
ロッタに言われ渋々とまた跪いて二人は並んだ。
俺は剣を鞘へと収め、隣にいたスケベに聞いてみた。
「これは……何が始まるんだ?」
スケベはにやりと笑い
「ふふ……面白いことですよ」
そう言ってまた笑った。




