炎と水と②
ワサロは階段を昇り終えると現状を語り始めた。
「対面する櫓の上にツヴァイク魔導団の全員が集結しています。望遠観測で戦闘用の箒が確認出来ています。伝令からの情報を集計すると現在木人形の攻勢は落ち着いていますが西門のみがやや攻勢強まっています、こちらには二名を増員して均衡を維持、西門防衛隊長より問題なしとの報告が返っています」
ワサロの報告によりマンソンは頷いた。
「木人形どもは何とかなりそうだが……魔法使いはどう動くか……?」
これを聞いてロッタがほくそ笑んだ。
「やつらは厄介な門番ケルナをまずは狙った、となると次は魔法使いを狙ってくるじゃろうて。ならば狙うは守りの要とも言える水術使いじゃろう」
ワサロも頷いた。
「そういう話であればあの炎術使いのお出ましという訳か……誰が防ぐ?」
「はい、通常ならば私とデュネセイスで防壁魔法を行使して防ぎつつ戦いますが、この度はローテアウゼン様にお願いしようと……」
「そうか……あれをお相手してくださるなら随分楽になるな、だが出来る限りはお力添えをせねばな」
「心得ています」
土塁の下から戦場の空気には似つかわしくない幼子の声が響いた。
「糧食と水です。一人一つずつあります」
見るとルーチェとカペラが大きな袋を抱えて見上げていた。俺は二人の側へと下りた。
「なんだお前達も働いてるのか」
二人は大きくうなずいた。
「だってみんな戦ってるから」
「ははは、良い子だな。土塁の上には俺が持っていってやろう……ええと全部で五人……か?」
「たわけ! 七人分じゃ」
土塁の上からロッタに怒鳴られてしまった。俺は思わず肩をすくめた。
「はは……そういうことだ、七人分もらえるか?」
ルーチェはうなずいてカペラと一緒に革袋の中から紐で結わえられたパンと革袋を一つずつ取り出して渡してくれた。
「タケゾーちゃんもがんばってね」
そう言って次の現場へと走っていく二人の背中を見送った。
「おう、任せとけ」
土塁の上で持って上がった糧食をみんなに渡す。
げんこつほどのパンに結わえられたたぷたぷとした革袋はどうやら水が入っているようだ。なるほどな、これがこっちの弁当ってわけだ。
パンをかじってみるがこれが固い、どうやって食うのか周りを見るとマンソンはパンを半分に割ってから水を染みこませている。ワサロたち魔法使いは袋の中へパンを入れて外から袋を揉んでいる、なるほど色んな食べ方があるのだな。ロッタは……革袋の水を飲んでいるところだった、パンは……もう食ってしまったのか?
「……何じゃ?」
俺があまりに見ているからかロッタが不機嫌そうに言った。
「あ、いや……もう食ったのか?」
「当たり前じゃ、ここはもう戦場じゃろうが、お前も人のことはええからさっさと食わんか」
仕方なく俺はマンソンの真似をすることにした。ふやけたパンの食感が口に広がる、何ともこれは……お世辞にも美味いとは言えんな。
「これは……またロッタのこしらえてくれたものが食べたくなる味だな」
思わず口をついて出てしまった。
「なっ……急になんじゃ、こんな時にっ」
ロッタが真っ赤になって怒っている。
「ははは、何でも無い」
などと言っていると向こうの魔法使いたちが飛び上がるのが見えた。
「ほら、やつらいよいよお出ましのようだ」
と、俺が言うのが早いか、見張りが敵の接近を報せる笛を吹いた。




