爆ぜよ、タケゾウ③
俺は東門を目指して走る。
木人形どもが相手ならケルナが居なくとも自警団の精鋭達がいれば少なくともしばらくは食い止めることが出来るだろう。
ケルナのことが気がかりではあるが俺が付き添ったところで何か出来るわけじゃ無い、俺に出来ることといえば東門をケルナに代わって守ることだ。
ヒノモトで剣の仕合に明け暮れた頃、腹を斬られては助からない、それが常識だった。腹を斬られたやつは長い間苦しんだ末に息絶える、そんな様を何人も見てきた。そうした経験から俺は、ケルナは持たないかも知れない。そういう思いを断ち切ることが出来なかった。
思えば俺がケルナと初めて会ったのも東門だった、東門を守ることがケルナの誇りであったはずだ。あいつは良いヤツだ、いつでも優しく甲斐甲斐しく世話も焼いてくれる。街の人達からの信頼も厚く、そしてユハの惚れた女だ。
そうであるが故に…………俺は、ケルナを傷付けた連中が許せんと思った。
ロッタは俺に『爆ぜよ』と言った。言われるまでもない……俺は、頭にきているんだ。
東門まではあっという間、それほど中央の土塁からは近い。いきなり目の前に徘徊している木人形を見つけた。すでにいくつか侵入してきているようだ。
俺は側を走り抜けながら槍で胴体を両断していった。七体は斬ったところで東門に到着した。
東門では門を囲む土塁の上で自警団の兵士達が奮戦していた。
「遊撃隊タケゾウ見参! じきロッタも来る!」
俺はそう叫んで土塁へと駆け上がる。
外から殺到した木人形が土塁を這い上がってきている。もの凄い数だ、俺は力の限り槍を振るって木人形どもを切り刻んでいくがきりがない。
「火を放て! こいつら全部燃やしてしまえ!」
俺がそう叫ぶと後衛の兵士が松明を持ってやってきた。
「火を持ってきました!」
「放て! どんどん放て!」
兵士は土塁の下に群がる木人形どもの群れに向かって火の付いた松明をどんどん放り投げた。
木人形どもの群れは燃え上がるが、それでも数にものを言わせて殺到してくる。ラバを呼んだ方が良いのか?
「苦労しておるのう、タケゾウ」
背後から聞こえたのはロッタの声だった。次の瞬間激しい閃光と炸裂音、目の前に雷が落ちた。
雷術魔法を使ったのか、土塁に群がっていた木人形は一瞬にして炭となった。
自警団の兵士達は安堵の溜息を一斉にもらした。
しかしまだ谷のほうから木人形どもは大量に迫ってきている。俺は深呼吸をしてから側に居た自警団の兵士にこう尋ねた。
「ケルナは……ケルナはどのようにしてやられたのだ?」
「……はい、あの木人形の群れに殺到され相手をしておるうち、現われた男の魔法使いが放った巨大な杭に貫かれました」
「…………そうか、そのケルナをお前達が助け出したのだな……?」
焼け焦げた木人形どもに混じり動かなくなった兵士たちの遺骸が転がっているのが見えた。
「なんとか応戦し、砦の中へと運び込むことが出来ました」
「その魔法使いはどこだ?」
「はい、ケルナを倒した後にここを去りました……」
「分かった。お前達の犠牲は無駄にはせぬ。ロッタよ、俺はあの木人形どもを蹴散らしてくる」




