決戦! スツーカ砦⑤
火柱がラバ目掛けて降ってきた、しかしロッタが氷の盾をこしらえて防ぐ。
土塁の下を覗くとさっきの氷の壁の下敷きとなった木人形たちが蠢いている。生き物と違いあの程度では死なないようだ。
ラバは詠唱を続けている。よく役目を理解しているようだ、しっかり守ってやらねばな。
下の木人形を警戒していると奴らを押しつぶした氷の塊が溶けるわけでもなく小さくなっていくのに気付いた。それは何かに吸われるように空中を漂っていく、行く先を見ればロッタの姿がありロッタの周囲には頭ほども大きさのある水の塊がいくつも浮かんでいた。
水を、回収しているのか……?
「……オースロタング!」
詠唱を終えたラバが魔法を行使する、下で蠢いていた木人形が次々と動かなくなっていく。しかし魔法の範囲から外れた木人形はまだまだ多い、ラバはすぐに次の詠唱を始めた。
木人形が這い上がってくる様子は今のところなく安心だが上からはあの魔法使いが炎の柱を撃ってくるのが厄介だ、ロッタが防いでくれているとはいえ油断はならない。
「そこな小娘よ! 貴様の相手はこの儂じゃ、どこを狙っておる」
ロッタが上の魔法使いを煽る。
魔法使いはロッタを睨んだように見えたが、その隙を突くようにワサロとスケベが巨大な氷板で木人形を押しつぶしたのを見て標的を他の魔法使いへと変えた。
氷板を生成し終えたばかりのワサロとスケベを火柱が襲う、それをロッタが丸い氷の盾を生成して防ぐ。
驚いたことにロッタは小さな丸い形状の盾を何層にも生成して防いでのけた。俺が見てもそれは最小限の防御だと分かる。ロッタはここまでのやりとりでこれだけあればあの攻撃を防げると理解したのだ。
「まだ分からんのか、儂を倒さねば貴様の攻撃などまるで意味がない。儂の防壁を凌駕して見せよ精霊食い」
ロッタと上空の魔法使いが睨み合っている間にも押し寄せる木人形は次々と倒されていく。
上空の魔法使いは高度を下げて近付いてきた。
「我が名はツヴァイク魔導団が戦場火焔術士、灼熱の鉄槌フラーム! 貴様の名を聞こう」
ロッタはにやりと笑って答える。
「我が名はローテアウゼン、あざ名は数あれど自ら名乗るものは無し」
せっかく名乗りを交わしているというのに無粋なやつだと思った俺はロッタに忠告してやることにした。
「なんだよ、ひとつくらい名乗ってやれよ」
「やめんか、風が悪い」
まあ確かに自分から最強だの賢いだのと名乗るのはいかにも弱そうな奴が言いそうなことだからな、俺でも天下無双と称されこそしたがそれを自分から名乗るのは確かに風が悪い。
上空から憎々し気にこちらを睨むフラームが鼻で笑った。
「ふん、戦場では炎術士こそが最強だということを教えてあげるわ」
「……ほう、精霊の力でか? 精霊食い」
舌戦でもロッタは強い、フラームは顔を歪ませる。
「その呼び方を二度もしたわね……私の逆鱗に触れたことを後悔させてあげる」
「そうしたければせめて二人で同時にかかってくるべきじゃったな……精霊食い」
俺には分かる、ロッタはわざと相手を挑発し頭に血を上らせるよう仕向けている。狙いがあってのことだろうが、何とも狡猾なやり口だ。
まんまと頭に血を上らせたフラームは吐息から漏れる炎が増えている。フラームは再び高度を上げていく、そして大きく息を吸い込み口の中に息を溜める。
「敵陣に狼煙!」
突然に見張りの叫び声が響いた。フラームは狼煙を確認すると溜めていた息をふっと吐く。
吐き出された息は、ボンッと音を立てて煙となって消えた。
「悪いわね、水を差されてしまったわ。勝負は預けておくわ」
「ならば二人で出直してくるがよい、精霊食い」
ロッタの返答に怒りを露わにしながらもフラームは自陣へと引き返していった。
木人形も氷板に圧し潰されたもの以外は押し寄せてくることはなく遠くから包囲するのみになっていた。
「どうやら戦法を変えるようですね」
スケベが言うとロッタはため息を吐いてから答える。
「あのような愚策ではのう……もっとも木人形を始末するには楽でよかったがのう」
スケベは肩をすくめて笑って見せた。
「まったくですね、もう少し狡猾に苦戦して見せるべきでした」
「……そうじゃな」
ロッタはそう答えると東門の方を見た。




