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魔法遣いローテアウゼンのキセキ  作者: 福山 晃
第一章 城塞都市ブルーノ
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城塞都市ブルーノ⑨

 領主に招かれロッタが壇上に姿を現すと集まった街の人々から拍手と喝采が浴びせられた。

 ロッタが面食らっているとバグパイプの低音が響き始める。

 続けてギターの小気味良いリズムが響く。

 ロッタの見知った小楽団の演奏が始まったのだった。フィドルを構えた少女が弓で楽団員たちに合図を出すとタイミングを取って弓を弾く。

 フィドルは低音に乗り、唄うようにメロディーを弾く。観客たちはメロディーに乗って手をたたく、ロッタも思わず頭が揺れる。

 メロディーが盛り上がるとリコーダーがフィドルに代わりメロディーを奏でる。やがてバグパイプ、フィドルもメロディーに加わり最高潮を迎え、足を踏み鳴らしながらの演奏となる。


 こうして夜は盛り上がりの中、料理や酒が振舞われ一人の魔法遣いとの別れを惜しむ宴は進行していった。

 俺はよそ者らしくロッタとは離れて弟子のマルソーの安全も含め見張っていた。一応は護衛なのだから何かあれば参じねばならないからな、酒も控えていたさ。領主の家の使用人たちはそんな俺にも同じように料理を提供してくれたし二人を見張りやすい場所も用意してくれた。至れり尽くせりだ。

 夜は更けて宴もお開きとなった。

 使用人たちが片付けをする中ロッタと領主はなにやら込み入った話をしている。

 ロッタが頭を下げると領主も頭を下げた、妙に切なげな表情を浮かべていたが、俺の方を見ると俺にもまた深く頭を下げるので俺も同じように頭を下げて応える。


「領主様がの、今夜はここに泊まっていけと言うてくれたのじゃがの、出立の用意があるからと断ったのじゃ。マルソーは送って貰うたし、タケゾウよ、お前だけでも泊めてもらうか?」

「ここにか? 領主どのからすれば俺などただのよそ者だろう? それはちょっと厚かましいというか……」

 ロッタはからからと笑った。

「お前だけ泊めてやってくれと言うのもちょっと風が悪いでな、連れて帰ると言うたわ、タケゾウは儂の荷物持ちじゃからの、家に居ってもらわねば困る」

 酒のせいか少し機嫌の良いロッタは頭を揺らしながら歩いていく。

「この街の皆、いい人たちだな。出発を延ばして良かったじゃないか」

 ロッタはぴたと足を止めて俺に振り返った。穏やかで優しい笑顔だ。

「あの時タケゾウが止めてくれなんだら、儂はとんでもない不義理を、この街に残して発つところじゃったわ。ありがとうの、タケゾウよ」

 あまりにも素直なその謝辞に思わず俺は口よどんでしまう。

「お、おう。まあ、あれだ、ちゃんと別れの挨拶が出来たなら良かったじゃないか」

 僅かに笑顔を見せてからロッタはまた歩き出した。

「いい歳をして儂は何を浮かれておったのか、長う生きるばかりで儂もまだまだじゃの」

 呟くようにロッタはごちた。

「そういえばロッタよ、ひとつ聞きたいのだが」

「ん? なんじゃ」

「この街に何年住んでいたんだ?」

「この街にか?」

「ああ、その・・・俺とそう変わらないようにしか見えないんだが……」

「なんじゃ、そんな遠回りな聞き方で儂の年齢(とし)を聞きたいのか?」

「いやいや、そういうわけじゃないが」

 ロッタはからからと笑う。

「ヒ☆ミ☆ツじゃ」

「えぇぇぇ……」


 ロッタの家に着くと俺はまた昨夜と同じ部屋で寝床に就いた。今日はいろいろあったがまたここに戻ってきた。

 布団に潜りなんとなく天井を眺めているといつの間にか眠っていた。またあいつが寝顔を見に来るのだろうか。

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