マリア…眠れぬ夜に思う事
シリウス様がクラウス様を連れ部屋を後にされ、ラミーは庭の寝床ですっかり夢の中。
私は疲れた身体に反して、一人眠れないでいた。
静かな部屋で冷静になると、どれだけ自分が幸運だった良く分かる。だって私は脱走兵の[反逆者]なのだから……。
こんな私に同情し親身になって下さるグレイ家の方々には、怖くて言えなかったが……私は意図してスルジア王国を目指して逃げて来た
この国ならラミーを……私を助けてくれかもと期待して……
私は卑怯だ、ちゃんと分かっているから……この家に、この国に私達を置く事にどんなリスクがあるのかを。
私だって軍人の端くれだ。もしも、コーリアス共和国に私達を匿っている事が知られたら、それが争いの火種にだって成り得る事も分かっている
それでも私はラミーを助けたかった。
私に残された唯一の家族だから……
私の家は母と祖父の三人家族だった。父は軍人で私が産まれる前に隣国との紛争で亡くなった。
私の家は裕福では無いが父の恩給と祖父の畑(あまり大きいとは言えないが)のおかげで、
それなり暮らせて居たと思う。ただ、母は身体が弱く伏せっている事も多かった
身体の弱い母だったけれど、優しい母だった。伏せっている時も私に色んな話しをしてくれ、元気な時は私に魔術を教えてくれた。
母は魔力が多く無かったが魔術の才があり、詠唱や魔術式を工夫する事で魔力量を補って魔力量の多い魔術師に引けを取らなっかた。その為、母も元々は軍に所属した魔術師だった。そこで、父と出会い結婚し軍を除隊した。
私は軍に入り魔獣を世話する様になって初めて知ったのだけど
母が体調崩す様になった原因は私だった……私の魔力の所為だと。
母胎より多い魔力を有した胎児を宿した場合、母胎に相当なダメージになる
魔獣には良く有る事で、魔獣の雌は獣としての本能から、より強い相手を番に選ぶ為、子を宿した場合に母親が弱る事が良く起きる。
この場合、身体の内部、子宮内での魔力干渉の為、魔術でどうにか出来るモノでは無く。
魔素の濃い場所などで純粋な魔力を取り込むことが、必要になる(例えば、魔の森の大樹の様に魔素の濃い場所で育った植物を食べる事でも直接取り込む程では無いが回復出来る)
魔術とは自分の中の魔力ないし、外部から取り込んだ魔素を身体に循環させ放出、展開させる。
そうする事で魔力は術師の特性が加わり純粋な魔力ではなくなる(魔力感知が出来るのはこの為)
元々、魔素に耐性の有る魔獣と違い、そもそも魔力が多く無い母が魔素の濃い場所へ行く事も出来ず、けれど魔素の濃い所で育った植物は[買うと]とても高価……父が生きていればどうにか出来ていたかも知れないが
普通の薬草にも多少は純粋な魔力が含まれるので母は薬草で騙し騙し過ごしていたが、私がラミーの卵を拾ったあの日、母は天に召された。
その日は母の体調がいつもより格段に悪く、私は居ても立っても居られ無くて森に薬草を探しに出かけた。
そこで、母や私の髪の色と同じ真っ赤な色の綺麗で大きな卵を見つけ、母に見せたら喜ぶと思い持ち帰った
母は卵を見て綺麗と笑い、私にこう言った
『この卵は生きてる、貴方が守ってあげなさい……きっと貴方の支えになってくれる』
そう言い残し母は天へと旅立った
私は母の言いつけ通りその卵に魔力を注ぎ温め続けた。そして産まれてのがラミーは大好きだった母の綺麗で真っ赤な髪と、同じ色の真っ赤で小さな竜だった。琥珀の様な綺麗な瞳で私を見つめ『キュゥ』と鳴く姿は竜が産まれたと言う驚きを吹っ飛ばすほど、本当に可愛くて愛おしく思えた。
それから、祖父と竜を羽化させた事国に届けた
竜を育てるのはそう簡単では無く、知識も無ければ、竜を育てるだけの金銭的余裕も無い、とてもじゃ無いが私達だけで育てるのは無理だった 。
でも、私から離れ様としないラミーをただ、軍に預けてお終いには出来ず困惑している私に、騎獣部隊の隊長から提案された
訓練生として仮入隊しラミーも私も本隊員として訓練、任務が可能になる(育つ)まで軍で面倒を見てくれると。
仮隊員の内は大した賃金は出ないが、衣食住は保証される。私はこの提案を有難く受けた。
そして、数日前まで私は何の迷いも疑いも無く一生を軍に身を捧げると思っていた。寿命の長い竜であるラミーの為、せめて私の命が尽きるまでは側に居てやりたかったから、数年前にお爺ちゃんも天に召され……私の家族はもう、ラミーしかいない。
だからこそ思う、ラミーと一緒にいる為に厳し立場に追いやる可能性を分かっていながら、グレイ家の優しさに私は付け込んでいるのだと……
罪悪感と、どうにかなるかも知れないと思う甘えた気持ち……私の所為で死なせてしまった、母とした最後の約束だけは、どんな卑怯と言われても守りたい気持ちが混ざり合い……眠れないでいる




