魔導師…散歩に出る
「さぁ!! ルゥ好きなだけ遊んで来い!!」
スルジア王国の国境ある魔の森は濃い魔素に覆われ弱いモノを許さない上位魔獣の宝庫の様な森
そんな魔の森で、魔獣師シリウスは相棒の白狼のルゥと共に魔の森へ散歩に来ていた。
シリウスは一応、国王軍に所属し、3本の指に入る程の魔力保有者で体術もトップクラスであり、スルジア王国一の魔獣師だが
この男……出世にも金にも全く興味なく、 シリウスが一心に力を注ぐのは魔獣
三度の飯より魔獣
出世するより魔獣
金は稼ぐよ魔獣の為に……がモットー
物心ついた時から魔獣が好きで好きで仕方なかった
むしろ、人間より魔獣が好きだった……イヤ現在進行形で人間より魔獣が好きだ!! と言い切る男……それがシリウスだ
そして、シリウスの魔力は魔獣が好む魔力なのもありシリウスは魔獣師の道を選んだ
心置きなく
モフモフ、ツルツル、ウロコのパラダイスを過ごす為に!!
シリウスの行動基準は全て魔獣、体術が得意なのも魔獣のストレス発散に付き合って戯れ続けた 結果だったりする。
この魔の森も普通の人間なら生き死に関わる様な危険な場所だか、シリウスからすれば素敵なお散歩コース
子供の頃から慣れ親しんだ遊び場だ。
散歩をしに行ったルゥを見送りつつ近くの木幹に寄りかかり座りながら魔空間から先日、行った魔獣達の身体測定、健康診断の書類を眺めていた。
「大熊のラズはもう直ぐ発情期か……番を探してやるか……」
のんびりとした気分てルゥが戻るまで書類を読みつつ時間を潰していると
(グルゥルル……)
相棒の普段より少し篭った鳴き声に顔を上げると
「ルゥ……お前……
何を拾って……来てんだ……」
シリウスは途端に焦った声を上げる
なぜならルゥがどんなに多く見積もっても2歳程の男の幼子を咥えて戻って来たからだ
咥えると言っても幼子の洋服を咥えているので血生臭い状態では無いが……
焦るシリウスを他所にルゥは幼子をシリウス所まで運ぶと幼子をそっと降ろした
「ルゥ……」
シリウスは焦っていた
この魔の森にこんな小さな子供がいる事が何を意味しているかを知っていたから
『この子……』
ルゥから幼子を受けっとたシリウスは声を詰まらせた……その幼子は余りに愛らしく……魔力が余りに少なかった……
『ハーデス帝国の貴族か……』
ハーデス帝国とは魔の森に隣接するの一つで魔力・血統至上主義上な国だ。身分格差が激しい上に、魔力の少ない者への差別も激しくハーデス帝国の人間にとって魔力量が全てで有ると言っても過言ではないだろう。
何せ、ハーデス帝国の帝はハーデス帝国一の魔力量を有しているが故に選ばれた帝である。
シリウスの暮らす、スルジア王国はハーデス帝国と違い適材適所、魔力量で全ては決まらない。
魔力以外の才能も大きく評価される。
そしてハーデス帝国には、シリウス達スルジア王国民には、理解出来ない伝承がある。
[魔力=容姿]ここまではどの国でも言われているが、ハーデス帝国には[容姿が良く魔力が少ない者は不吉で呪われている]
確かに魔力と容姿は大きく関係しているようで魔力量の大きい者は総じて容姿端麗である。そしてごく稀に容姿端麗で魔力が少ない者が産まれる。
それは、決して呪いなどではなく希少属性の影響とスルジア王国では考えられているが、ハーデス帝国は魔力至上主義
特に貴族にとって魔力が少ない何て事は一家の恥
その上、容姿端麗などときたら、存在を隠され消される事は容易に想像できる。
シリウスの腕の中には、この状況でスヤスヤと寝息をたてる幼子…
(え〜寝てるし……)
困惑を隠せないシリウス
(グルゥグルゥ……)
その横でルゥはご機嫌に尾振りながら、幼子に頬擦りしている
(えっ何!! 何!! ルゥ〜お前……)
相棒のご機嫌様子に頭痛を覚えるシリウス
混乱する頭の中で腕の中の幼子を見る、艶やかな黒髪に陶器の様な白い肌、寝ていても分かる程、愛らし顔立でスヤスヤ眠る幼子。
ふと幼子が。、幼子特有のぷっくりとした小さな丸い手でシリウスの服の袖をぎゅっと握る
『よし!! ルゥ!! この子は俺たちで守ろう!!』
小さな小さな儚い一つの存在が一人と一匹に大きな何かを決意させた
『ルゥ!! 取り敢えず、城に帰るぞ!!』
シリウスは、幼子抱えたままルゥに跨がるとルゥは大空へと駆け出した