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NmHEROES  作者: 羽葉世縋
ホミサイド
9/30

ひとつの決着

ニッケルが戦死したという報告をテクネチウム伝いに聞いた。次のニッケルはシトリンを心臓にして生まれるらしい。果たしてどんな奴か…。

「マザーも忙しいもんだよねぇ。誰かがかけた悲しみにくれる間も無く次の元素を作らなくちゃならないんだから。」

全くもってその通りだ。

マザーと呼ばれるのは俺たちを生み出す機械のことだ。大量の原子を生み出し、人間の形に構成していく。内部構造は一体どうなっているのやら。四体存在しており、全員がシスターの格好をしている。それぞれ典型元素、遷移元素、ランタノイド、アクチノイドを担当しているらしい。

「マザーが稼働したのなら、誰かが死んだ合図…か。」

腹の下が冷えるような嫌な感覚がした。



2月14日。オレはまたマリーさんのバーにいた。カウンター席で仲良くなってきたタリウムと駄弁る。

「アスタちん、最近よく来るわねぇ。」

「えへへ…、ラジウムも誘おうとは思ってるんですがねぇ…。」

「仕方ないだろ〜、僕の相談を聞いてもらってるんだから。」

「たしかにアルセも来てないものね。良かったわね、お友達ができて。」

「たま〜に、って聞いたんですけどね。」

わざとらしく言ってやれば、タリウムは少し照れた。

「そうそう、今日はこの後アルセも来る予定なのよ。電話でお水の予約を受けたんだったわ。」

「本当!?」

「おー、いっそ決着つけるか?タリウム。」

ニヤニヤしながらいうと、目に見えて焦った。

「お、お前こそ、ラジウムに言いたいことあるんじゃないのか!」

痛いとこついてくるな。

「…オレは良いんだよ。オレは。」

良いんだよ。


「マリーさん、こんばんは…。」

「アルセ、いらっしゃい。お友達が来てるわよ。」

「…別に友達じゃねぇよ。」

照れ臭そうにいうと、やっぱりタリウムの隣に座った。

「嫌なことがあったんだよ…。俺がしっかりしていたら、ニッケルは死ななかったかもしれないのに…。」

今日は典型と遷移の共同戦線だったわけか…。

「でもさアルセ、お前はニッケルからだいぶ離れたところにいたじゃないか。」

「いいや、きっと俺のせいだ。俺が悪いんだよ…。」

「…そんなことないんだけどなぁ。」

ひどく落ち込むアルセの背中をタリウムは優しく撫でてやる。

「ほら、もう飲んで忘れよう。マリーさん、お水ちょうだい。」

「えぇ。」

「きょ、今日は適度にやめておくよ…。帰ってから、しっかり反省しないと…。」

アルセは落ち込みやすい性格だと聞いたが、どうしても自分を責める癖があるようだ。


「…それで、頭から一気飲みされちゃってさ…。」

反省も兼ねて聞いて欲しいと言われたから、ニッケルが殺害された現場の話を聞いた。そろそろ日付が変わる時間になりそうだ。

「アルセ、悪いけどオレはそろそろ出るよ。」

「えっ、あ、もう少し一緒に聞いて欲しいから俺も帰るよ!」

「それなら、僕も出ないとなぁ。ありがとうマリーさん。」

「えぇ。またいつでもきてね。」

「はーい。」

「あっ、良かったらこれも持って行って。ローズクォーツのスナックなのよ。」

「ありがとう。後でゆっくり食べるよ。」


「アスタ、どこにいくんだい?」

「この近くのカタコンベ。ちょっと不安なことがあるんだよ。」

「だからナイフを備えてるわけか。」

「もしもの時は、すぐにオレから遠ざかって。危ないから…。」

先月のランは15日に変わった瞬間に現れた。ある意味15日の夜というわけだろう。もし今回もそうだったとしたら、心配しすぎかもしれないが、備えても損ではないはず。

「…やっぱりきたか!」

空からフワリと舞い降りたのは青い髪の男だった。武器は剣と…

「壺…?」

「水瓶と言ってほしいところだね。」

余裕な表情を浮かべる、少々ツリ目の男。

「一人か。全く備えがなってないな。そこの陰にいる二人はお友達か?」

「傷つけるつもりなら許さないぞ。」

「友達かどうかを聞いたんだから、イエスかノーで答えればいいものを…。」

呆れ顔で男は剣を構える。

「私の名はヘキ=バサラ。お前を殺してニトロとかいう奴を奪わせていただこう!」

「名乗り御苦労、かかってきやがれ!!」

異常に気づけばラジウムたちも来てくれるはず。一番勇気がないオレでも、やれることはあるはずだ…!!


「私の剣に対してリーチの短いナイフとは、運のない奴め。」

「うるさい!思ったより使いやすいんだからな!」

首さえ切って仕舞えば奴は死ぬ。

だが、何度狙っても剣で流され、かわされ、キリがない。

「…貴様はアスタチンか。貴重な元素なら、採取する価値はあるな…。」

「アスタ!あの壺に気をつけろ!!」

「壺に!?」

ヘキが置いていた壺が揺れる。

「学のない奴らめ!水瓶と呼べと言っておろうが!!」

壺から金色の腕が出てくる。ヒマノフトを仕込んでいたのか?

「奴を喰らえ、金色の王子ガニメデス!!」

咆哮と共に壺からそいつは現れた。ドロドロとしているが、なんとなく人の形はとどめているようだ。

「秋から封印しておいたから、腐っているな…。だが、問題はなかろう。」

ガニメデスは四つん這いの姿勢でオレの方へ向かってくる。

しかしヒマノフト狩りなら慣れている。はず。

「こいつも殺せば問題ない!!」

「そうはいくか!ガニメデスは私のお気に入りのヒマノフトなのだからな!!」

ナイフをガニメデスの腕に突き刺す。これではもちろん死なない。その勢いのままに背中まで駆け上がる。

「こいつがオレの実力だ!」

両掌を奴の肩甲骨に似たような部位に叩きつける。

『ゴアァァァァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎』

奴の細胞を溶かす。

「名前をつけるのなら、『1オンスの治療薬』ってとこかな。」

軽やかに地面に着地すれば、かなり怒ったような形相でオレを睨みつける。ヘキが、だが。

「貴様にとっての大切なものはなんだ…?」

「はぁ…?」

奇妙な質問を投げかけてくる。思い浮かぶ顔は一つ。

「貴様にとってのそれが、私にとってのガニメデスなのだ!!!」

乱暴な剣さばきで襲いかかる。

そして背後にも敵の気配。

嫌な予感がして

「タリウム!!」

思わず叫んだ

「早くお前の決着をつけろ!!!!いいなっ!!!!??」

横腹に向けて振るわれた剣はそのままスライドし、オレを2つに分けた。

痛い。声が出ない。

最期に、言いたいことが言えて言えてよかった。

「遺言は特に無いな?」

無慈悲な声と共に、心臓に剣を立てられた。



「ほれ、ガニメデスよ。良い収穫物だ。ニトロのことは良いとして、これはこれでさぞ喜ばれるだろう。」

そんな会話をしながら、怪物に細かく切り分けた僕の友達を食わせていく。

腸が煮えくりかえりそうな、という言葉はこんな時のためにあったのか。

「アルセ、ここで待ってて。…あいつは僕が殺すよ。」

「やめろよタリウム!お前まで殺されたら俺は…」

「また泣いちゃうつもり?生憎、僕は殺しの方が向いてるんだよ。きっと君のように優しくはないしね。そしてもう一つの実力としては癌細胞、この世界で言うところの悪意の発見だ。」

奴らを指差し、大声で言ってやる。

「そしてあいつらは、僕が殺すべき絶対悪だ!!」


「ほぉ…資源どもが粋がるもんだな。タリウムの決着とな…。まさか私を殺すことだと言うのか?」

「僕の決着は全くの別件だ。」

「なるほどな。そう言うのなら、私を殺してみろ。それができなくては別件にも辿り着けまい。」

「…その方がいいか。」

「やめてくれ、タリウム!!」

アルセの制止は嬉しいけど、僕がやらなくちゃ。

でも本当は、うっかりラッキーでも起きて、戦わずに済んだら嬉しい。

言うほど自信はない。

僕は強くない。毒性も、ヒマノフトに通じようが、全く未知の存在であるこいつに通じるとは思えない。


あと数歩で奴の目の前。

あぁ、奇跡が起きてくれまいか。

怖くて思わず目をぎゅっと閉じた。

それでも、足は止めない。ただ、眼が乾燥しただけさ。


「タリウムくん、僕は君の勇気を讃えたいと思うよ。」

聞き覚えのない声に驚き、目を開けると、シトリンのような髪の男が立っていた。

「人生を彩るには、多少の奇跡があっても許されるもんさ。僕はニッケル。今君の敵に勝つ程度の能力を持っている通りすがりのニューフェイスさ。よろしくね。」

なんで驚いたのかって、この挨拶の間だけで、ガニメデスを細切れに変えてしまったのだ。

「ほぉー、てっきりサファイアを持ってるかと思ったが、バーデライトっていう緑のトルマリンとはねぇ。なんとも嫌味な。」

「貴様…!!」

「怒る暇なんて与えるもんか。あのド腐れ者共の従者なんかに!」

斬撃の中、一瞬見えた包丁のような刃。

鮮やかに、そしてあまりにもあっさりと首を落とした。

カタコンベの地面に溶けていく、その光景を見送り奴の心臓を拾い上げる。

「偽造サファイアねぇ…。僕は別ルートで調査に入るかなぁ。」

不思議なことをぶつぶつと呟いて、サファイアを僕に向かって投げた。

「あいつらは君が殺したことにしておいて、今僕の口から聞こえた話はニトロには絶対内緒にしてね。」

人差し指を唇にあて、シーッというジェスチャーをすると、ニッケルはさっさと帰って行った。


もう、何をどうすればいいのかわからない。

「タリウム…タリ、ウム…。」

隣でグスグスと泣くアルセを抱きしめる。

「…アルセ、僕は君が好きだ。」

今のうちに言っておけ。聞こえない声が聞こえたような。

まるで放り投げるように言った告白は、もちろんその耳に届かない。


「これはいったい…!?」

駆けつけたのはラドン。

その姿を見て、思わず僕も泣いてしまった。

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