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NmHEROES  作者: 羽葉世縋
ホミサイド
6/30

ベキリーブルー

ラドンに連れられてニトロへの報告へ向かった。

「ラジウム、頑張ったそうじゃないか。ポロやキュリウムから話は聞いたぞ。」

「あぁ、はは…。」

「どうだ、初めての人殺しの感覚は。」

「まるで悪夢だ。首をはねただけで死ぬなんて想像つかなかったよ。」

「そうか、お前は前世について覚えてないんだったもんな。」

書類を眺めながらニトロが容易く言葉を繋いでいく。

「前世は大抵みんな赤い血の通った人間だった。それを覚えていれば人が容易く死ぬのも簡単に納得できたはずだが、やはり難しいか。」

「人生がほぼ初見だから仕方ない…だろ。」

「あぁ、仕方ない。とにかく、今お前がやってくれていることは正しいことだ。少なくとも僕は大きな感謝の意を示したいと思っている。」

ニトロは急に立ち上がると、俺に近づき頭を撫でた。

「ありがとうな。怖かったろう。」


ニトロは、どんな気持ちで俺にこんなことを言ったのだろうか。俺はただニトロを守りたいだけだった。もしかすると優しいニトロのことだ、俺より悩んでいるかもしれない。

「ニトロは、大丈夫か?」

「…あぁ。どうやら心配もしなくて良さそうだしな。敵の強さの程度もおおよそわかったんだろう?それなら大丈夫だろ?」

「それは、そうだが…」

「僕はお前たち全員がちゃんと帰ってきたらそれで良いんだ。でも、本当は僕のことなんてどうだっていい。お前たちが僕のために戦う必要なんてないよ。僕が自分で始末しなきゃいけない問題のはずなんだ。それでも、やりたいと言ってくれたお前の意思を尊重するから、僕はしっかりと守られておくよ。改めて言うが、本当にありがとう。」

頼りない、頼りたい、頼られたい。


素直に喜べたなら、どれほど良かったろうか。


「もう深夜だ。ヒマノフトに気をつけて解散するか、ルテニウムの元へ向かうといい。ポロやキュリウム、フランシウムは先に行ったようだ。」

「あぁ、そうするよ。」



分析班とルテニウムの元を訪れると、ある程度の分析は完了していたようだ。

「ラジウム、アスタチン、ラドン。これでみんな揃ったかな。今回は大したデータは出てこなそうでね、前回のような平仮名しか出てきてないんだよ。でもめちゃくちゃ頑張って調べたんだからね。」

「いや、ありがとう。本当に感謝しているよ。…ところでその平仮名はなんだったんだ?」

「これだよ。」

画面に映し出されている文字を読んでみる。

「『われらのしゅじんはげんろういん』…?」

「どうやら『げんろういん』という組織が裏で手を引いているらしい。今後このことについて何かわかればいいんだけどね。」

「『げんろういん』かぁ。帰ったらプロトお兄ちゃんに聞いてみよっと。」

キュリウムのいるアクチノイドは妙な奴が多い。もしかしたら良い情報が舞い込んでくるかもしれない。

「さて、情報はこれ以上出てきそうにない!これにて解散としよう、お疲れ様!」

ルテニウムの号令で解散することになった。


「ラジウム、左腕のことなんだけど…。」

「あぁ、夜が明けてしばらくしたらベリリウムのところへ行こう。」

「うん!」

「テッ君良いなぁ、ボクもついていって良い?」

「良いぞ。ベリリウムはまた今後世話になるかもしれないから、会っておいて損はないさ。」


夜が明けてしばらく経った。テクネチウムとプロメと共にベリリウムの家にやってきた。

「ベリリウムさん、いますか?」

割と大声で呼んだがまた返事がなかった。またしばらく待ってみるが、今度は本当に返事がない。

「嘘だろぉ…」

テクネチウムが残念そうに肩を落とし長さの違う腕をプラプラさせて捻くれた。

「タイミングが悪かっただけさ。もうしばらく待ってみようか。」

ベリリウムが帰ってきたのはそれからまた1時間経った後だった。


「彼がこの間言っていた左腕が無い子だね。髪のモデルはクリノヒューマイトかな。イカしてるね。」

「あの、それで、ぼくの腕はどうにかなるんですよね?」

「なるにはなるが、かなり痛い施術になるな。覚悟があるならできるけど、どうだい?」

「できます!いくら痛くても頑張ります!」

「よし、わかった。ラジウムたちは見学していくかい?」

「は、はい、是非!」

「それじゃあおいで。」


ベリリウムの家の中は白い、というのが第一印象だった。

「昔はエメラルドの都なんて話に憧れたけど、結局は白が一番落ち着くもんだね。」

カラカラと軽やかな声。

「本当はリビングでのんびり過ごして欲しいけど、今はそうもいかないからね。これはまたの機会だね。」

地下の研究室のような部屋に導かれた。様々な色の液状エーテライトが入ったビーカー、結晶がむき出しの壁、実に奇妙だった。

「ニトロに聞いたけど、君たちはホミサイドなんていうグループを作ったんだね。もし良かったら、ここを秘密基地にしてみるかい?なんてね。」

「必要な時は検討していただけると有り難い限りです。」

「その時は快く受け入れるさ。さぁテクネチウム、上半身だけ裸になってそこのベッドに横になってくれないかい?左腕を横に伸ばしておいてくれ。」

「はーい。」

嬉しそうな様子でテクネチウムは横たわって指示に従った。

「これから施術の確認をする。断面がなくてはエーテライトは体の一部として機能しないため左腕を少しスライスする。相当な痛みを伴うことは覚悟しておくこと。エーテライトが結合した後はすぐに水を飲むこと。…そうだ、エーテライトの色を決めなくては。好きな色を教えてくれ。」

「んーと、赤と青ですね。」

「それならベキリーブルーガーネットを参考にしてみようか。青の中に赤いファイアが見える綺麗な宝石だったんだよ。」

「宝石に詳しいんですね。」

「前世を覚えてる人種でね、宝石の本だけが生きる希望だったんだよ。…それじゃあ始めようか。」


すぐに終わらせる。そうボソリと宣言したベリリウムは鋭く磨かれた刃物であっさりと左腕に断面を作った。

「っっ〜〜!!!!」

声にならないような絶叫。目を見開いて悶える。

「エーテライトに漬け込むために上半身を起き上がらせるよ。深呼吸するんだ。」

嫌な汗が流れる。ベリリウムの持つエーテライトの入ったビーカーに断面を漬け込む。

「ラジウムやプロメチウムの左腕を見てイメージするんだ。そのイメージ通りに結晶化していく。痛みが引いた時にはそれが君の腕になっているよ。」

「はぁ…はぁ…」

「テッ君、大丈夫?」

「へへへ…すっごく痛いけど、これで腕が手に入るんなら…。」

強がるものの丸めた背中は震えている。

背中をさすることしかしてあげられない。


「け、結構痛みが引いてきたよ…!」

「よし、腕を引き上げてみようか。」

ザバァとエーテライトから引き上げたそれは、たしかに左腕だった。

「テッ君、すごく綺麗だよ…!すごーい!」

「すごい、すごいよ!ぼくの腕だ!!」

二人がキラキラとした笑顔で喜び合う。俺もホッとしてため息をついた。マスクの中で滞留する暖かい空気はあっさりと抜けて消えた。

「じゃあ、ちゃんと機能するかのテストをしよう。」

そう言うベリリウムがお盆に水の入ったコップを乗せてやってきた。

「左手を使ってこの水を飲むんだ。それができたら施術は成功だよ。」

「よし、こんなの簡単ですよ!」

意気込んで手に取ろうとするがうまくいかないらしい。

「今までなかったものを動かすんだから、やっぱり最初は難しいさ。ゆっくり落ち着いて、右手を動かすのと同じイメージで…」

「テッ君ならできる、できる…。」

深呼吸をすると、ゆっくり腕を伸ばして、コップの側面に指を添える。そして、程よい力加減を探し当てて握るように動かす。ゆっくりと持ち上げ、腕を曲げる。コップのフチを口に当て、手首を動かす。水は口に流れて消えた。

「…できた!」

「おめでとう!あとは持続的な訓練が必要だ。ある程度自由に動かせ始めたら十二神将…?なんていう奴とも戦えるかもね。」

「それじゃあ、頑張ったらラジウムにちゃんと恩返しできるわけですね。」

「おや、そんなこと考えてたのかい?愛されてるねぇラジウム。」

「あはは…」

「もっと喜びなよ。仲間ってのは大事なもんだよ。引け目があるのならそれに相応しいと思えるくらいのことをまたしてあげればいいだけさ。自信持ちなよ、リーダーなんだろ?」

「はい…」

「アンタは陰気だったり、元気だったり不安定な奴だねぇ。何か心配事があるのならアタシにでも相談してみなよ?」

「それができたら、いいんですけどねぇ…。」

「陰気なままでいたいのなら何も言わないさ。」

ため息しか出ないな。


一人で歩く帰り道、明日からはマスクを外してみようかと考えたが、やはり怖い。

生まれてすぐ先代からのメモ書きとして受け取った古い紙をガーネットの御守りの袋から取り出す。

『ラジウム族は常に誰かを殺す不安感とともに生きていかなければならない。しかし、それはただの考えすぎだ。自分の生きたいように、誇るべき姿で生きなくてはならない。どうか頑張ってくれ。』

顔も知らない先代様、俺だってわかってはいるんだ。大丈夫なんだってことくらい。でも、不安で仕方ない。俺なんかが、誰かを傷つけるなんて。誰かの人生を邪魔するなんて。できることなら、このグループを結成する前に戻りたい。無かったことにしたい。でも、どうしようもない。

「はぁ…」

まだしばらくマスクはつけていよう。手袋も外しちゃダメだ。肌の露出は最低限にしなくては。

ポロニウムのようになれたら、どれほど幸せだろうか。

あぁ、水が飲みたい。



「プロトお兄ちゃん!」

「おや、おかえりキュリウム。どうかしたかい?」

「えっとね、『げんろういん』ってどういうものか知ってたりする?」

「…少なくとも僕は嫌いかなぁ。」


適当に笑って視線を逸らした。

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