偽りでも人間
「…迷惑って…?」
ザクロという男の話があまりにも読めない。俺が焦っていると、黙って状況を見ていたニトロが口を開いた。
「恐らくは複雑な話だろう。こちらの質問に答えられるだけ答えてほしい。いいな?」
その問いにザクロは頷いた。
「ではまず1つ、お前はどういった立場なんだ?」
「味方を裏切りました。」
「その理由はなんだ?」
「貴方達元素を資源ではなく人間として見てしまったからです。人間は人間を殺してはならない。大昔から伝わる大罪でしょう。」
「…嫌に引っかかる話だな。ラジウム、メモをとっておいてくれないか?」
「あ、あぁ。」
突然の指示に驚いたが、身体は思うように動いた。アウルムに紙とペンがないか聞き、机の引き出しから取り出し、手元へ。ニトロに確認されつつ、第1の答えをメモした。
「それでは次の質問だ。お前の仲間は何人いる?」
「一番大事なポイントですね。ボクの仲間はボク含め12人です。十二神将、だなんて呼ばれていました。」
「12…多いな。」
「えぇ。ボクたちは貴方がたの体の構造を真似して作られた存在で、なおかつ一人一人がとても強いように作られました。ザクロ、要するにボクはガーネットの偽造宝石です。昔存在した島での宝石の呼び名が由来です。」
「面白い話だが、詳しくは後で聞こう。今は質問に答えてくれ。」
「すみません。でもあと一ついいですか?この国では一年は12ヶ月と決められていますか?」
「…それは当然だろう。」
「それなら話は早いです。ボクたちは1ヶ月に一人ずつ、この国に襲撃に行くよう指示をされていました。その日というのが毎月の15日。必ず夜に襲撃します。そして、曇りならば行くなと言われていました。」
「1ヶ月に一人、というのには理由があるのか?」
「そこは秘密にされてましたが、あの趣味の悪い集団のことですし、ただの面白半分でしょう。どう考えても効率が悪いんですから。」
「…面白半分で国を揺さぶられるとは、僕としては腹立たしい話だ。」
ニトロがため息をついた。メモもやっとの内容で、正直俺の方が溜息を吐きたい。
ニトロが顔を上げると、より真剣な面持ちでザクロを見つめた。
「それでは、僕が最も聞きたいことを問う。
…お前たちの目的はなんだ?」
今まで、淡々とすぐに返答していたザクロが黙った。ニトロが首をかしげる。
「さっきも黙ったんだよなぁ…。」
ポロが大きく溜息をついた。
「すみません。その部分のデータが損傷していて、はっきりと思い出せません…。」
深々と頭を下げて謝る。
「つまり、相手方の目的もわからないのにこちらは防衛を強いられるのか。」
「本当にすみません。ただ、目的が分かれば、あのカタコンベに降り立つよう指示された理由もわかるんですが…。」
「集団墓地。また困った場所を選んだな。」
俺の書いたメモを見返すため、ニトロが近づいてきた。その顔は焦りと呆れが混じった表情をしていた。
「…遷移元素やランタノイドのお陰で、つぎはぎながらボクの声で伝えられる限りは伝えました。しかし、この体もじきに崩れ、やがて大地にも還れない心臓の宝石だけが残るでしょう。大事な部分でお役に立てず、なんとお詫びすればいいものか…。」
「気にすんなよ、きっとお前の仲間がそのデータを狙って破壊したんだよ。」
ポロがどうにかフォローする。泣いてしまいそうな表情のザクロはなんだかとても可哀想に思えた。
「何か、引っかかる部分があれば思い出せそうなんです…。」
考え込むが、なかなか出てこないらしい。
「断片でもいい。何か思い出せることを教えてくれ。」
俺の声に頷くと、すぐに口を動かした。
「誰かのお迎え…」
それしか出てこないという風な表情。それなら仕方はない。お迎えなんて、今までヒマノフトに何度されかけたことか。
しばらくの沈黙。
「すみません、一つ聞いてもいいですか…?」
「…あぁ。」
メモからニトロが視線をザクロに移す。
「貴方の名前は何ですか?」
ここに来て、よくわからない質問だったが、ニトロは素直に答えてやる。
「ニトロだ。」
「ニトロ…!?」
ザクロが何か思い出したように目を見開く。しかし、同時に体が崩壊した。何か言いたげな無機質な断面の生首が手術台に転がった。
バラバラの遺体をニトロと二人であのカタコンベへ運ぶ。道中は平和を享受する宝石族の楽しげな声が遠く響くばかりだった。
カタコンベという名前を借りたオリジナルの円形をした集団墓地。その中央で静止する。
「置くぞ。」
遺体を丁寧に置いていく。ニトロが頬を撫でてやると同時に遺体は地面に吸い込まれていくように消えた。しかし、ザクロが言っていた通り、その心臓は砕けたまま残った。
「ニトロ、このガーネット、俺が持っててもいいか?」
「…お守りのつもりか?それなら小さい袋を作っておいてやるよ。」
「いや、自分で作るよ。ニトロはただでさえ忙しいんだから。」
そうか。簡単に返事をするとニトロは砕けたガーネットを一粒も残さないように拾い上げた。
俺たちや宝石族の心臓は、体と同様に土に還る性質がある。その点から見ても、ザクロは作られた存在だとわかる。
特に大きな一粒をニトロは優しく撫でた。
「もう少し優しく話してやれたら良かったかもな。」
帰る道中、俺はニトロにある提案をした。
「十二神将を迎え撃つための組織を組みたい。」
「…その編成によるな。」
「俺みたいな体質の元素は強いだろう?忙しいアクチノイド以外の放射性元素を集めれば、どんなに強くても対抗できるんじゃないかと思ったんだ。」
「テクネチウムやプロメチウムも誘うのか?」
「無理にとは言わないが声をかけてみたい。…話したことはないから、ちょっと怖いんだけどな…。俺なんかの話を聞いてくれるかもわからないしな…。」
「分析班として誘ってみたらどうだ。」
「なるほど。」
「あと、俺の職場にお前含めアクチノイド以外の放射性元素を呼び出すから、それまでに呼びやすいグループ名を考えておくこと。日にちについてはまた連絡する。」
ニトロは冷静に見えて、焦っているように思える。ザクロの最後の表情から察するに、目的はニトロであることがわかる。狙われてるのは自分だとわかって、一体どういう心境なのか。きっと怖いだろうな。
「ニトロのことは俺たちが守るから、安心してくれ。」
「…すまない。」
俺からしてみれば、いつもニトロに守られていたんだ。恩返しをするなら今だろう。
1年、守りきればいいんだ。
「ザクロの記憶データの解析をしていたら、こんな文が見つかったんだが…。」
あれから数日経った時、ルテニウムにニトロとともに呼び出された。妙なデータが見つかったという。
『こじんのけんりはかいむ』
平仮名。あまりにもわからない文だったため、結局その文を読んで外に出ただけだった。
11月の風が冷たい。最も用心しなければならない冬が迫る。