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4話 キルキルキル

 体育館の中は水浸しになっていた。


 そして、明音はど真ん中で、倒れていた。

 仰向けになりゼーゼーと肩で息をしている。


 川屋は体育館の舞台でニヤニヤと笑いながらそれを眺めていた。


「おい! 大丈夫か!?」

 思わず僕は明音に駆け寄っていた。

 明音もびしょ濡れになっていた。

 しゃがんで、明音の顔を覗き込む。

「使い魔、として、は、良い、心掛け、ね。ほ、ほめてあげる」

 明音は特に血がでているという訳ではなかった。

 少し安心したその時。

「ゴホッゴホッ」

 明音が咳き込み始め、口を抑える明音の手の隙間から血が流れ出していた。

 打撲で、気管支あたりが傷付いたのか?


「ふふふふふふ! さぁーて、使い魔くん! そこを離れなさい。その子は今から我々が保護、するのでねえ!」

「はぁ!? 何言ってやがる。冗談もほどほどにしろよ!」

 思わず語気が荒くなる。

「ふふふふふふ! 面倒くさい! 実力行使だ!」

 川屋は右手の人差し指で、ピッと僕を指差した。

 

 そのとき。


 突然、川屋の右手の人差し指から、レーザービームのようなものがこちらに向かって一直線に伸びてくる。

 何とか右に避ける。

 標的を無くした、レーザーはそのまま突き進み、ドン! という音とともに、床を貫通した。

「威力、高すぎるだろ」

「ふふふふふふ! まあ、でも、これ、水なんだよ。水圧を極限まで引き上げれば、こんなことだってちょちょいのちょいさ!」

 自慢気に言い放つやいなや一気に撃ち込んでくる。

 

 全て、標的は僕だ。右に後ろに左にと避ける内にどんどん明音から離れていく。

 絶え間なく、体育館の隅に追いやるように、レーザーの弾幕は展開されていく。

 

 反撃するにも、遠距離攻撃の手段拳銃が残り一発と無数の投げナイフのみ。

 とりあえず、レーザーの間を縫うように、ナイフを投げてみる。が、こっちに向かって来ていたレーザーが途中でぐいっと曲がり、ナイフを破壊した。

「自由自在なんでね!」

「解説されてもな」

 もう、手を伸ばせば壁に当たる距離まで、追い詰められた。


 

 このままじゃ、こちらは何も出来ない。明音と距離が空きすぎるのも、あまり良くない。となれば、残った手段はたった一つ。

「前だ」

 川屋まで、強化された体なら、二歩。

 二歩さえあれば、到達できる。

「なるほど! ふふふふふふ! 確かにそうするしかないだろうねえ! でも、狙い撃ちだねえ!」

 ビュンという音とともに、無数のレーザーが発射される。

「何!?」

 思わぬ速さに一つだけ対応出来ず、投げナイフでレーザーの方向をずらす。

「ふふふふふふ! 器用だねえ。でも、威力はすごいんだよ」

 バキッという音を立て、ナイフは根元で折れ、後方に吹き飛んだ。

「んな! 何でもありか!?」

 でも、少しずつだが、パターンが出ている。

 次々に発射されるレーザーを避け続け、距離は確実に縮まっている。

「ふふふふふふ! 近いねえ」

 しかし、距離が近づくほどに、発射されるレーザーの数はどんどん増えている。

「うっ」

 チッと、右のこめかみをかすった。

 危ない。

 おそらく、腕も、足も、胴体も、かすり傷だらけだ。

 ただ、命に危険がないから、そんなの感じる必要がないから、痛みを感じないんだろう。

「ふふふふふふ! ここまで、来たらばらまくだけだねえ!」

(今まで、手を抜いてやがったのか!?)

 目の前に迫った数多のレーザーに、回避の方法が思いつかない。


 後ろも前も。

 右も左も。 

 上も。

 隙間無く。

 八方塞がりだ。


(あれ? 僕は、ここで、終わりか?)

 このまんまじゃ、ジリ貧を強引な解消しようして、余計に追い詰められたみたいだ。

 いや、実際そうなんだけど。

(僕はあいつには絶対勝てないみたいで嫌だな)


 すろと、残り一発、銃弾の残ったの拳銃を取り出していた。

 そして、川屋の方向に向かって、レーザーの隙間を縫うように、慎重に、でも、素早く撃ち込む。


 正真正銘、ラストアタック、ラストチャンスだ。

 これで、駄目なら死ぬしかない。


 引き金を引く。

 乾いた音が響き渡る。


 銃弾がレーザーの隙間を抜けそうになったその時、レーザーが、全て、標的を僕ではなく、銃弾に変えた。

 当然、大量のレーザーによって、銃弾は跡形も無くなった。


 川屋はおそらく、大量のレーザーで、自分の視界もほとんど遮られているはず。

 だからこそ、少しの不安要素も無視出来ない! 

「なるほど、ここしかない」

 目の前のレーザーは無く、僕と川屋を隔てる物は何もない。

「今度はこっちから行かせてもらう」

「ふふふふふふ! 一度ぐらいは先攻を譲ろうかな」

 両手に持てるだけの投げナイフを持ち、川屋に全て、全力で、投げ込む。

「ちょっと、面倒だねえ!」

 川屋はレーザーで、ナイフを一つずつ破壊していく。

 その間に僕は、距離を詰める。

「ラストオ! 終わったあ! って、ちょっまて」

 一気にナイフで、心臓を狙う。

 間違いなくいける。そう確信した。

 僕のナイフは一直線に狂いなく、川屋の心臓を貫く。

 はずだった。


 







 キィィィィィンと、甲高い音が上がる。

「ふふふふふふ! あ、危ない、危ない。ちょっと君のナイフを拝借したよ」

 川屋はさっき僕が投げたナイフをいつの間にか手にし、僕のナイフを防いでいた。

 

 予想外だ。


 だが、次を狙うのみだ。

 空いた左手でナイフを持ち、もう一度、川屋の心臓を狙う。

「あ、危ない、危ない」

 川屋はつばぜり合いをしていたナイフを一気に跳ね上げ、後ろに下がった。

 こいつ、近接も強いんじゃあ隙がない。撤退だな。

 距離を置き、警戒しながらも、川屋は話しかけてきた。真剣な顔で。

「なあ、君、弓木一族の人間かい?」

 

 僕は、何も答えなかった。すろと、川屋は話し始めた。

「普通の1on1で、遠距離の武器を多用するあたり、僕が知る、弓木さんとそっくりだ。君のナイフさばきや、投げナイフの精密さ、さらに中野君を瞬殺したこと、その若さでこれは、弓木しか考えられない」

 川屋は一気にまくしたてた。

「それで?」

「我々の頭領も、弓木の人間でね。彼は弓木一族の強さが欲しいんだ。自分も弓木なだけに、その強さを信じているんだろうね」

「残念だが、自分は弓木でもないし、まして、新たなる闇はごめんだな」

 川屋は目を見開き、ふーっと息をついた。


「もしかしたら、キルキルキルかもしれないと期待したんだけどな、残念だ」

 

「なんで、その名前を知ってる?」

 

 川屋は不思議そうな顔をすると、ニマリと笑った。

「俺も、頭領も、あの戦争のときは黒霧に味方していたんでね。

噂は良く聞いたよ」


 自分の中の、もう一人の自分ではない、何かが目を覚ましたような気がした。

 視界がどんどん霞んで、真っ白に染まっていく。

 川屋のうっとうしい声も遠くなる。

 冷たい空気も感じない。

(紀彦、交代だぜ?)

(ああ、来ちゃったのか、アナザー。止めとけって言ったのに)

「悪いな、紀彦。久しぶりの仕事な感じがして我慢できなかったんだ。すぐにもどるからな」


「まあ、キルキルキルの名前を知られているのは、すこし、まずいよなあ」


「じゃあ、殺すしかねえよなあ!」


 川屋は驚いた。そして、

「その口調! 君が、キルキルキルだったのか! やっぱり! なんで嘘なんかつくんだい!? つれないなあ!」

 両手を大きく広げ、歓喜した。


「うっせえな、おっさん。俺を呼び出しておいてその態度はねえだろ?」


(えっ? 誰? 紀彦、じゃない?)

 律はただ、ただ、驚いた。

(ああ、こんな感じで聞こえるんか。気持ち悪いことこの上ないな)


「さぁーて、おっさん、殺して、殺して、殺してやるよ! 第二ラウンドと行こうか」


(えっ? だから誰?)

(ちょっとうっせえぞ、殺されたくなかったら黙って見てろ)


「ふふふふふふ! まあ、使えるか見ておくのも悪くないね」


 二人の距離は五メートルぐらい。

 ふっ! と息を吹いて紀彦は川屋との距離を一歩で詰める。


 早い!

 驚いたのは川屋の方。

 突き出されたナイフを受け流してはいるが、表情には焦りが見える。

「今までは本気じゃなかったのかい?」

 

 一旦、距離を取りつつ、間合いをはかる。

「まあ、あいつは平和主義者だからなっ!」

 ナイフ二本、投げながらもう一度、距離を詰める。


 川屋が対応出来たのは最初のナイフ二本だけだった。

 距離を一気に詰め、ナイフを突き立てる。

 

「ぐ、がああああ!」

 川屋の右肩にナイフが、深々と突き刺さっている。

「くそ!」

 川屋は左の手のひらをさっと目の前に突き出し、レーザーを撃ち込む。


「まあ、撃たれると分かっていりゃあ、避けれるわな」

 右に一歩。たった、それだけでかわす。

「俺は省エネ主義者なんでね」


「ふ、ふざっ、ふざけるなあああああ!」

「錯乱しやがったな」

 川屋はやたら、めったらに撃ち始めた。

 

 壁、床にどんどん穴がつくられていく。


 さっきまで、当たったのに! 

 くそ、くそ! ふざけている。

 さっきまで、こっちが押していたのに!


「はははははは! まあ、ランダムな分、さっきよりか、難しくはなってるぜ!」

 そう言いながらナイフをまた投げ込む。

 今度は右手と左手から二本ずつ。


 当然、川屋は距離に余裕があり、レーザーの下準備が出来ている。当然、レーザーで、一つずつ潰しにかかった。

 しかし、潰せない。

 残り一本、間に合わなかった。


 今度は左の太股。

「があああああ!」

 力がはいらなくなったのか、川屋は倒れるように座り込んだ。


「まあ、あいつの投げナイフに比べりゃあ、ずいぶん精度は落ちているが、この距離なら関係ないなあ!」


 川屋は立ち上がることが出来なくなっていた。

 力の差は明らかだ。

 川屋は諦めたのだ、勝利することを。


「ん? もう終わりか?」

「ふ、ふふふ、ふ、そうだね。負けだ。俺の負けだ。しかし、もったいないな」

「はあ? 何が」

 川屋はピッと指差した。

「君のその力、身体能力、技術、精神。全てトップレベルだ」

「そりゃ、どうも」

 どうでも良さげだ。関心が無いんだろう。

「こっちに来れば、その力をフルで使える。黒霧家では、制約が多いだろう?」

 何も答えない。

「待遇だって、今よりずっと良くなる。君だって、好きで普通の男子高校生をやっているわけでは、ないんだろう?」

「まあ、それは確かだな」


 この一言は極めて重要な意味をもつ。


 要するに弓木紀彦は明音が考える、普通の人間への更生計画に真っ向から反対だと言っているのだから。


(明音ちゃんは?) 

 

(紀彦はまだ、大事にしよう、とか、そういう気持ちがあるみてえだが、俺にはまったく無い。まあ、優先順位は紀彦が上だから安心しろ)


「じゃあ、来てくれ! 歓迎する! 殺しだって許されるし、君が欲しいものなら何でもやるからさ!」

「そういうのはいらねえな。まして、」


「まして?」

「べらべらと、うるせえんだよてめえ。俺は紀彦と違って、気が長い方じゃねえんだ。そろそろてめえのしゃべりかたにも、うんざりだ。だからさ」


「今すぐ殺してやるよ」

「は?」


 川屋は明らかに困惑した。

 そして、うろたえた。


「な、何を言っているんだい? 君だって新たなる闇とのパイプは欲しいだろう? まして、俺をここで殺せば、新たなる闇は黙っちゃいなぜ!? いいのかい? 君にとって自由への架け橋だぜ? こんなチャンスめったにないと思うがね!」


「知ったこっちゃねえな。俺にとって必要なのは、今だけだ。人を殺す今さえあればそれでいい。先々のことに関しては紀彦に任せている。だからさあ」


「今、ここで、てめえを殺すんだよ!」


 川屋は、ひいいい、と悲鳴をあげた。

 そして、逃げようとした。這って這って、出来る限り遠くに。

 すぐにそれが無駄なあがきだと分かると、四肢を投げ出した。

「くっそ、ここで、終わりかよ。みっともねえ」

「ああ、そうだな。みっともねえ。残念なてめえに朗報だ。今回は楽に殺してやるよ」

「ふふふふふふ! それは助かる」


 ナイフをしっかり握りしめ、思いっきり振りかぶる。

「そんじゃ、死ねや!」

「待ちなさい!」







 その場の二人とも困惑した。

 今から死ぬ者と殺す者。


「何言ってやがる! 明音!」

「その男は黒霧家で、捕らえます。いろいろと聞くことがあるので」

 明音はふらふらと、腹部を抑えながら立ち上がると、二人を睨みつけた。

「ふざけんじゃねえぞ! てめえ!」

 逆上し、ズンズンと明音に詰め寄る。

「俺が! 今! ここで! 殺すって言ってるだろうが!」

「それは私が許さない」

 明音はいたって冷静そのものだ。

「あのなあ!」

 襟元を掴み、持ち上げる。

「ぐっ、わ、私はあなた、の主人、よ? 絶対服従。忘れたとは言わせ、ない」

 

 チッと大きく舌打ちをすると、明音を地面に落とし、「相変わらず、ふざけた主人だ」と呟くと、川屋のところに戻り、みぞおちに一発。中野のときと同じやつ。

 川屋は何も言わなかった。


 









 その後、川屋をロープで縛り上げると、紀彦は、いつもの紀彦に戻っていた。

 明音ちゃんを心配して、しきりに、大丈夫か? どこが痛む?

何か出来ることはあるか? と心配し続けていた。


 そして、私に対し、「人手が足りない、すまんが出てきてもらう」そう言うと、自分の左腕の付け根に、ナイフを突き立てた。


 左腕が、ぼとりと落ち、徐々に人を形作っていく。

 自分の、人の感覚ではない、自分の感覚が戻ってくる。

 ひんやりした空気、弱い光に、しきりに話かける声が聞こえる。


「これは何度やっても慣れませんね」

 左腕だった肉塊は今や制服を着た、どこにでもいる女子高生になっている。

 紀彦の左腕があった場所には今や何もない。

 左腕の付け根は服も、肉も、まるで最初から何もなかったように塞がれている。血は出ていない。

「慣れて良いものでもないだろ。とりあえず、明音を支えてやってくれ、俺はあの男を引っ張るから」


 その後、運転手はもう一度来てくれた。

 明音さんを助手席に乗せ、私と紀彦は後ろに座った。

 紀彦は左腕の違和感を隠すためにも、コートを羽織っていた。

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