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サーヴァント アンド マジェスティ

イメージアクセサリー:相内 充希さま

挿絵(By みてみん)


また私、夢を見ているみたい。


七色に光る立体魔法陣が体を覆っていた。

その中から見る景色は、お城の中だ。


高い高い天井を見上げると、ターコイズやラピスラズリでタイル装飾が施されている。

大理石の柱はドレスを着ていてもかくれんぼ出来そうなくらい太くて、天井まで蔦模様の彫刻で美しく飾られている。

なんて綺麗。


私の体にも柱と同じ蔦模様が光っている。


「っつ!」


今日の夢はやけにリアル。

蔦模様を指でなぞると、軽く電流のような刺激が走った。


私がその刺激に驚いていると、カツン、カツンと床を鳴らす靴音か近づいてきた。


誰か来る!

男の人!? 待って、私、裸なの!


焦る私に容赦なく、唯一の護りだった魔法陣も解け、裸の私と見知らぬ男二人とが対峙してしまった。

体を丸めて隠せるだけ隠して、男たちを睨みつける。


あ、あれ?

蔦模様も徐々に薄くなりだした。

こんな、どこも隠していない細い線だけの模様でも、ないよりはマシだったのに!


問題は、召喚の理由。

異世界ラノベ系だとしたら、勇者召喚?

女の子向けなら、王族の花嫁候補?

それとも、18禁系……


そ、それだけはやめて! 無理、起きる! 起きるから!

裸で召喚された自分を力いっぱい抱きしめて、心許ない防御の姿勢をとる。


俯いた髪の隙間から、男たちをもう一度よく見てみる。

この立派なお城と身なりの良い足元から察するに、二人とも身分は高そうだ。


男の一人は腰の曲がった老人。坊主頭に年季の入った黒いとんがり帽子、長い銀の顎髭。

見るからに魔法使いっぽい、おじいちゃん。


もう一人は……

私はおじいちゃんの帽子より更に上へと視界を移動させた。


ああ、嘘みたい……

赤いたてがみのような美しい髪に、ブルーグレーがかった茶色の瞳、凛々しい眉と鼻筋、そして口角の上がった艶のある唇。肌の色は儚い程に白いのに、力強そうな筋肉を蓄えた体……


さすが私の夢!

どストライクのイケメン王子様!

完璧!

もう私この夢から目覚めなくていい!

今日からここの住人になる!

18禁でもいい気がしてきた!


しばしの沈黙のあと、魔法使いっぽいおじいちゃんが私の膝元に落ちていた巻物を拾い上げ、溜息をついた。


「陛下」


えっ!

いま陛下って言った!

王様なの?

この若さで?


「どうやら戦闘力は期待できないようですぞ」


溜息の理由は、私の「スキル」らしい。

18禁じゃなさそう。残念……じゃない! 良かった、戦絡みの召喚か。でも私、ダメな感じ?


「スキルは」

「……ソーイング、でございます」

「ソーイング……。裁縫とは……なんともしおらしいスキルだな。どうやら役にたたない低級隷獣を召喚してしまったようだ」


この「陛下」、声までイケメンだった。

低いのに、頭の上から抜けていくような高さを含む甘いトーン。


「いかがいたしますか陛下。切り捨てますか?」

「うむう。しかし……見目は良いのが惜しい」


そんな、陛下がお望みならお好きに……


「陛下! 遊び女ならいくらでも集められますが隷獣の所有は一人一体なのでございます。殺して次を召喚しましょう」


私の夢なのに、私の意にそぐわないことを言うおじいちゃん。

現実にいい男がいないんだから夢の中ぐらい好きにさせてよ!


「殺すなんていうお口はチャックなんだから!」


思わず声をあげた途端。

消えたはずの蔦模様が光を放って浮き上がってきた。

 

模様が熱をもって、全身に軽い痛みが走る。


魔法陣まで顕れて、私は一瞬だけ七色の光に包まれた。

七色の光は一気に私の胸の前に収束して、光の束が稲妻のようにおじいちゃんの口元に向かった。


「ううっ!?」

「マニネっ!?」


マニネと呼ばれたおじいちゃんは、口元を押さえて驚きを隠せない表情で目を見開いている。


「んーっ!」

「なん、と!」


その驚きの理由はすぐに判明した。

口がチャック、つまりジッパーになっていたのだ。


ええええええええ!?


私が「お口チャック」って言ったから?

もしかして、ソーイングっていうスキルのせい?


「あっははは! これは愉快だ! 面白い! マニネ、余はこの隷獣を従えるぞ、あははは」

「んーっ、んんーっ」


陛下が私の前まで歩み寄り、腰を落とした。

これは、私と目線の高さを合わせているということ。

とても「陛下」と呼ばれる尊いお人がする姿勢ではない。


その上、息がかかるほど顔を近づけて見つめてきた。

美しい風貌と威厳に圧されて、私は金縛りにあったようになってしまった。


「お前、言葉は解かるか。名はなんという」


瞬きもできないほどの私は、その問いに答えるべく必死に唇を動かした。

金魚のようにパクパクと情けない動きに続いて、やっと紡いだ自身の名は。


「アイシュ……と申します、陛下」


違う、私アイシュなんて名前じゃない……!

どういうこと?

私の本当の名は、名は……あれ?


「余のことはノーニュと呼ぶがよい。よろしく頼むぞ、アイシュ」

「は、い、ノーニュ様……」


陛……ノーニュ様は、私をアイシュと呼んで王様とは思えないほど人懐っこい微笑みを浮かべた。


「……してアイシュ、あやつの口を元に戻せ。これでは話ができぬ」

「はっ、はい! あ……でも、私にもよくわからないのですが……」

「なんと」

「あっでも、本やゲームだとこういうのはたいてい時間が経つと解けるものが多いです」

「ふむ。では待つとしよう。眺めも良いしな」


ノーニュ様は、そう言って私のことをニヤリと眺めた。


「あっ」


緊張のあまり、私は床に手をついて無防備な姿を晒していた。

恥ずかしさで慌てて前を隠し直す。


陛下のお好きに、なんて思ったけれど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「くくくっ。恥ずかしがることはないぞ、余は見慣れておる。しかし、黒い毛並とは珍しい」


ノーニュ様は、どうやら結構な女好きのよう。

王様でイケメンとくれば、さぞやモテモテなのだろう。

ふいに、大きな手が私の髪に触れた。

ところが、頭を撫でられておかしなことに気がついた。


頭の両側に行き止まりのようなものがあって、そこに手が当たるのだ。

これは……?


左手だけで胸を隠すようにして、右手を頭上に持っていく。


え、っと……?

あり得ないモノの存在に、私は両手でその硬いモノを掴んだ。


角!?

そう、角。

私の頭に、感触的に羊っぽい、大きくて丸みのある角が生えていた。


ファンタジー設定にも程がある。

もっとフツーに、若き王様とのラブストーリーでいいんですけど。


「角も乳も、大きくて良い形をしている」

「きゃっ」

「くくく」


また見られた!

角に気をとられたせいだ。

からかわれているのが何とも悔しい。


それにしても、名前が変わっていたり、不思議なスキルが付いていたり、その上、角まで。

まるで異世界転生モノ。

『転生したらツノが生えていた件』みたいな? 略して『転ツノ』?

しかも、イケメンな王様に女好きとか変な設定までついてたり。

まあ、夢ならなんでもアリか。


そんなことを考えていたら、マニネさんが復活したようだ。

 

「ふう、やっと喋ることができますぞ」

「おお。アイシュの申した通りだったな。では話せ」

「コホン。では」


マニネさんがおもむろに咳ばらいをしてさっきの巻物をまた広げた。


「隷獣名、アイシュ。種族、人羊。性別、メス。スキル、ソーイング。前世、人間。死因、交通事故。スリーサイズ――」

「ちょっと待って。前世って? 死因って?」

「あっ」


読み上げられた文言に驚き、私はマニネさんの手から巻物を取り上げた。

……なによ、なにも書いてないじゃない。ていうかスリーサイズって必要な情報?


「それは召喚術を使った者にしか見えぬ」

「ええー! じゃテキトーなこと言えるんじゃない!」

「なんという言い草! 陛下、本当にこのような粗雑な小娘で良いのですか!」

「小娘ってなによ、またお口に……」

「よさぬか二人とも」


優しくも、威圧感のこもった低い声が、頭から水をかけるように降り注いだ。


「はっ! 陛下の御前でわたくしはなんという……」

「ごめんなさい……」


そのあともマニネさんからこの世界のことや、隷獣とスキルのことを話してもらった。


要するに私、本当に「異世界転生」してしまったみたい。

それなら話は早い。もう死んじゃってるなら楽しむしかないじゃない。


この「ソーイング」がどんなスキルかはわからないけど、スキルには前世で得意だったものが関係してるという部分に関しては、マニネさんがテキトー言ってるということはないと思う。


だって私、言葉を喋るより小さいうちから、針と糸を持って遊んでいたんだから。


「ノーニュ様、ソーイングはしおらしいスキルなんかじゃありませんよ。殺さずいてくれたこと、後悔させませんから」

「ほお」

「口は達者なようですな……あわわ」


マニネさんに向けて、口にチャックする仕草をしてみせる。


「もうすぐ時間だ。頼めるか」

「やってみます」


魔物とやりあったことなどないけど、裁縫道具は任意職質にあうと面倒なぐらい、立派に凶器。

やれないことはない、そんな確信めいた思いがあった。


「念じて言うだけで変化できるなら、「私が戦闘服を纏う」のも可能でしょ。ほら!」


言葉に反応して魔法陣が顕れ、全身の痛みと同時に私の体が強い光に覆われた。

気のせいか、チャックの時より蔦模様に走る痛みが強かった気が……


「おお! ……して、それは戦闘服なのか?」

「丈の短いドレス、ですな」

「ロリィタは戦闘服なの! 異論は認めないわ!」


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