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CROSS TALES BRAVERS

タイトルイラスト:相内 充希さま

キャライラスト:東西南 アカリさま

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


 船上で鋭い視線を目の前の巨大な怪異に向けているのは、輝く金髪とゴーグルが印象的な少年だ。


 「コイツがこの海域を覆う霧の正体か……」


 ざっと十レオン以上だろうか。それほどまでに巨大な怪異はその少年を見下ろすような形で対峙する。


 「おーおー、でけぇなぁこりゃあ!! やりがいがあるじゃねぇか!!」


 少年の隣には槍を担いだ青年が怪異を見てやる気を出していて、今にも飛び出しそうな勢いである。


 「ちょっと、一人飛び出そうとしないでよね!! ちゃんと手筈通りに動きなさいよ、アンタ?」


 そんな青年を嗜めるように若葉色の髪の少女が脇腹をつつく。青年が少し顔をしかめた。


 「おい、何すんだババァ!?」

 「あぁんっ!? 誰がババァですってぇ?」


 ババァという言葉に少女は反応すると青年に詰め寄る。どうやら、少女(推定)にとってババァという言葉は禁句であるようだ。


 「まぁまぁ御二人とも、今は強敵の前ですから怒りを鎮めてくださいよ」


 今にも喧嘩が始まりそうな二人の間に割って入ったのは眼鏡をかけた男だ。少し幸薄そうな顔つきをしているが、醸し出す雰囲気は穏やかである。その気に当てられたのか当の二人は怒りの矛を納めたようだった。


 「もぉーパパもお姉ちゃんも、喧嘩はメッですよ!!」

 「「わ、わりぃ(悪かったわね)」」


 ビシィッ、という効果音が似合うような体勢でその二人の周りをフヨフヨと浮かんでいるのは可愛らしい妖精の女の子だった。思わず二人もその女の子の前では強く出られない。容姿や言動はまだ幼いが、それを覆す明確な力の差が両者の間にあるのだろうか。いや、ただ単に青年が親バカで、少女はその可愛さ故に強く出られないのかもしれないが。


 『ははっ。君達はこの強敵を目の前にしてもいつも通りだな』

 「まぁ、いつも通りでいいと思うよ、僕は。変に緊張しても仕方がないしね」


 先頭に立つ少年は光の粒子が集まり隣に現れた美女の言葉に受け答えた。その美女を一言で表すなら清純だ。何にも染まることのない完璧な程にまで美しく白い、それが彼女の特徴だった。その美しさは当に人間離れしているとも言え、事実彼女は人間ではなく精霊だ。


 『なるほど。確かにそうだな』

 「あぁ、そして準備はいい?」

 『もちろんだ。手筈通り最初から出していけば良いのだろう?』


 にこり、と彼女は少年に向けて微笑む。それを見て少年も笑いかけ、息を調え剣を構える。すると美女はその剣に吸い込まれるように消えた。実は彼女は剣の精霊だったのだ。そしてそれを境に一同の気が引き締まる。


 「シャァッ!! いつでも準備は良いぜぇ!!」


 青年は槍を振り回しながら右手に持つそれを構える。


 「開幕は私の弓からよ!! アンタ達遅れるんじゃないわよ?」


 少女は矢を一本引き抜くと、意匠の施された弓につがえる。そして強く、強く元素の力をこめながらそれを引き絞った。


 「さて、私も全力でかかりましょう。錬金術の最奥を御見せいたしますぞ!!」


 男は手に持つ本を開くと、捲って白紙のページを開き、ペンを構えた。


 「私は皆さんの補助をします、切れかけたら教えてください!! 私、頑張りますっ!!」


 妖精の女の子は頑張るポーズをする。可愛い。そして、その後力を込めて詠唱を始めると一行の周りに光が満ちる。


 「私の応援(チカラ)、皆さんに届けっ!! 【妖精方陣(フェアリー・サークル)】ッ!!」


 舞い散る妖精の祷りの力が一行を包み込み、力を与えてくれる。これにより一行の攻撃、防御、素早さが特殊強化され、さらに自身の奥義が一度だけ強力に放つことができるようになった。


 「ありがとう!! よし、いくぞ皆!!」

 「「「「『了解ッ(ですっ)!!』」」」」


 全員が戦闘体勢に入ると怪異もそれを感じ取ったのか、物凄い威圧をかけてくる。まるでここから前は通さないとでもいうような、迫力がそこにはある。


 「オオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」


 その体躯から発せられる爆音の咆哮が海面を揺らし、不安定な船を激しく揺らす。それに一行は堪えつつ、少女が引き絞る弓は終に限界へと達した。


 「いくわよっ!! 【光矢の雨(フォトン=レイン)】!!」


 射離した。

 力の込められたその矢は周囲の大気を貫き、それを揺らして船体を大きく後退させる。そのまま天に向かって一直線へと向かう。天には重たい雲が広がっている。そこに到達するとその矢は一度速度を収束、後に光の強さを増大させ、分裂する。そして幾つにも分かたれたそれは怪異の巨体に降り注いだ。さながらそれは上空の黒雲から降り注いだ光の雨のようだった。


 怪異はその降り注ぐ光の雨を嫌うようにその長い触手で払い落とそうとするが如何せん数が多いものだから致命傷に成り得る箇所以外は落としきれなかった。深々と刺さる幾多の矢を確認することができた。


 だが、払い落とすために暴れた反動か、海面が膨れ上がり巨大な波が一行を襲う。しかし、それを見据えて男が動く。手には本とペン、白紙のその上に高速で難解な文字式を重ねていく。そして、最後の文字式の項にこの地点の空間の座標を代入し、重力の項に負の符号を書き加えた。これにより起こる現象は重力場の逆転、即ち――跳躍だ。


 「皆さんしっかり掴まっていてくださいよ。五秒後に着水しますっ!!」


 重力場の逆転により一時的に迫り来る巨大な波よりも高い位置に移動した一行は、自由落下するときに体にかかる慣性の力に耐えながら着水の衝撃に備える。

 着水、そしてその衝撃で大量の水飛沫が舞い散った。見事に波の背に降り立つことに成功した一行は次の行動に移る。


 「さて、お次はあちらの動きを止めましょう」


 男は再びペンを紙上に走らせる。錬金術師として彼は秀でた部分は無い。しかし、全ての錬金術の要素を必死に学んできた彼がたどり着いた境地こそが他の錬金術師とは異なる高速筆記による術式展開である。今まさに、彼の努力の結晶が元素を交えて顕現する。


 「ここには沢山の水の元素がありますからとても使いやすいですねぇ。まぁただ凝固点に持っていくだけでは何の意味もありませんが……」


 そう、ここは海上。多くの湿り気があるところであり、水の元素が豊富である。しかし、そこには勿論不純物も含まれるので固まりにくいのだ。どうすればいいのだろうか――簡単だ、それを除けばいい。男は仕上げに条件が一般状態であることを術式に示した。


 「さぁ、これで準備は整いました――【液体凝固(ソリッディング)】」


 その効果は直ぐに現れた。船から延びた氷の軌跡は怪異へと到達する。そして海上にいる怪異の海面に近い方からどんどんと凍らせていった。怪異はもがこうとその触手を激しく動かすが、凍るスピードの方が遥かに速い。瞬く間に怪異の頭部以外は完全に凍ってしまった。


 「あら? アンタ完璧に凍ってないわよ?」

 「ふぅむ、予定では完全に凍っていたのですが……」


 どうやら予定通りではなく、少し失敗してしまったらしい。しかし、作戦にそれほど支障はない。要は動きを止めてしまえばいいわけだ。そしてそれは既に完了している。


 「ま、後は任せたわよアンタ達!!」

 「お二人ともお気をつけて!!」


 二人は氷の道を走る青年と少年にエールを送った。それに答えるように彼らは各々の武器を空中に掲げ、互いに目配せをする。


 「シャァッ!! 合わせろよっ!!」

 「あぁ、もちろん。遅れないでよ?」

 「言ってくれるなぁ……まぁいい。いくぞっ!!」


 まず、青年が氷の道で踏みきって、跳躍。それに少年は続く。そして青年は槍に力を加えると空中にて投合の構えをとる。少年は空中を凍った怪異の触手を足場に駆けていきながら剣を構える。すると徐々に二人の周りに光の粒子が集まり始めた。段々とその輝きは増して行き、ついにそれが頂点に達すると彼らは声を張り上げた。


 「刺し穿て、魔殲槍(GAEBOLG)!!」


 「切り開け、勝利の剣(EXCALIBUR)!!」


 二人の雄叫びと共に槍と剣に込められた力が解放される。それは方や空間を貫く魔滅の槍、方や勝利を掴む必殺の剣。槍は怪異の脳天に向かって最速で放たれ、剣の斬撃が後を追う。槍が怪異に着弾、間髪入れずに斬撃が飛来した。その威力は途轍もなかった。それもそのはず彼らが撃ったのは自身の奥義ともいえる【TALE】である。彼らの渾身の一撃は見事に怪異に突き刺さり、それは地獄の底からくるような低い苦悶の声を上げた。怪異はそのまま海に沈みこんでいく。


 それを確認しつつ彼らは船まで跳躍して戻る。その間に青年は愛槍を呼び戻すことも忘れない。彼らが甲板に降り立つと仲間たちはお互いを労いつつ、次なる行動へと移り始める。


 「さっき奴は海に沈んだけどちゃんと追跡しているかい?」


 その少年の言葉に少女は首肯し、海底を指さした。そこには薄っすらと光が動いて見える。どうやら先程の彼女の光の矢がその位置を教えてくれているようだった。


 「よし、じゃあ次は奴が浮上するときに一斉攻撃だ。次で確実に仕留めるぞ皆!!」

 「「「「『おうっ!!』」」」」


 彼らは了承した後直ぐに準備を始める。今度こそ確実に仕留められるようにと、先程よりもさらに集中を高めていく。そして、数分が経つと海の底から何かが上がってくるような気配がする。それを一行は感じ取り戦闘態勢へと移り変わる。もう第二ラウンドの始まりは直ぐ傍にまで迫ってきていた。


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