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Execution Air Force

 その日、太平洋の中央部に位置するハルバート諸島のコーラルハーバー・ケイン統合基地は、ほんの10分前に隣国から通達された宣戦布告を受け、半世紀以上も発令された事のない最高レベルの警戒警報によって騒然となっていた。

 なぜなら、宣戦布告が通達された直後、お世辞にも仲が良いとは言えない隣国が意図的にADIZ(防空識別圏)を通過するよう設定していた飛行ルート、彼らが主張するには訓練空域への移動ルート上で動きがあったからだ。


 いつもはスクランブル発進した監視の戦闘機隊を横目に通過するだけだったのだが、今回に限っては飛行ルートを無視してハルバート諸島領空へと最短コースで接近する5つの機影を『E-3G』AWACS(早期警戒管制機)搭載のレーダーが捉えていた。

 偵察衛星を始め、地上施設・艦船・航空機が高性能なレーダーを備えて航空機やミサイルを監視する現代において、このように昼間に堂々と真正面から攻撃を仕掛けるのは本来なら自殺行為だろう。

 言い換えれば、この敵には警戒態勢にある基地の防衛網を正面攻撃で突破し、最小限の被害で任務を遂行できる能力があるという事を示していた。


「やはり、切り札の空中艦隊を投入してきたか……」


 統合基地というだけあって隣接して存在する海軍基地と空軍基地、その空軍基地側に当たるケイン空軍基地の地下にある作戦指揮所では、この方面に展開する陸海空の各部隊を指揮下に置く太平洋方面軍司令官の空軍大将が苦虫を噛み潰したような顔で小さく呟いた。


「こちらの航空隊が攻撃位置に就きました! 間もなく攻撃を開始します!」


 複数のモニターが並ぶコンソールの前に座り、状況を見守っていた司令部要員の1人が報告する。その言葉通り、現場空域ではCAP(戦闘空中哨戒)の命令を受けて事前に高度20000ft(6100m)の上空で待機していた各飛行隊が攻撃行動に移っていた。

 つまり、それまでは哨戒に適した隊形だった12機の『F-16CM』戦闘機が4機ずつのエシュロン隊形を3つ横に並べた姿へと編隊の形を変え、次の『AIM-120D』AAM(空対空ミサイル)の発射に備えていたのだ。

 また、少し離れた空域では、この編隊と同様に4機ずつのエシュロン隊形を3つ横に並べた姿へと編隊を組み替えた12機の『F-15C』戦闘機も『AIM-120D』AAMの発射に備えていた。


「Gale86 FOX3」

「Gale84 FOX3」

「Hail22 FOX3」

「Hail27 FOX3」


 そして、『F-16CM』戦闘機隊の編隊長がARH(アクティブレーダー誘導)ミサイル発射のコールと同時にサイドスティック式操縦桿の兵装発射ボタンを右手親指で連続して押した事で、『AIM-120D』AAMが両主翼の翼端パイロンより1発ずつ発射される。

 さらに、僚機のパイロット達も同じようにミサイル発射のコールと同時に発射操作を行い、『F-16CM』戦闘機編隊からは最終的に24発の『AIM-120D』AAMが発射された。

 当然、同じ任務に就いている『F-15C』戦闘機でもパイロットが両脚の間の床から伸びる操縦桿に付いている兵装発射ボタンをミサイル発射のコールと同時に連続して押し、2発の『AIM-120D』AAMを胴体下パイロンより発射していた。


 こちらも編隊全機が2発ずつ発射しているので、2個編隊の合計で48発の『AIM-120D』AAMが目標へ殺到する形になった。なお、ミサイル本体は機体から切り離されると、直後にロケットモーターを作動させて積載する個体燃料が燃え尽きるまで燃焼して加速、残りの行程は惰性で突き進む。

 ゆえに、発射された直後はロケットモーターが燃焼した際の白煙を尾部から曳いて雲のほとんど無い大空を最高でマッハ4に達する速度で飛翔していたが、それも途中で消えて徐々に速度を落としつつミサイルだけが目標へと向かう。


 それらの航空隊とは別に海軍基地側の南西5nm(9km)沖合では、大急ぎで戦闘態勢へと移行して微速前進で航行するアーレイバーク級フライトⅡAイージス駆逐艦『ライアン』と『エドガー』の艦影があった。

 宣戦布告を受けた時、海軍基地に停泊中だった艦船群の中で辛うじて出港が間に合った両艦は航空隊の動きに合わせた作戦行動に入っており、出港準備段階から艦橋内のCIC(戦闘指揮所)に詰める乗組員達の間には自然と実戦ならではの緊張感が漲っていた。


「Target lock!」


 そんな中、イージス駆逐艦『ライアン』のCIC内に兵装システム士官の声が響く。そして、艦長が即座に新たな命令を下し、すかさず副長が艦長の出した命令を復唱して最後に兵装システム士官が応じた。


「ERAM,20warheads,stand by continuous launching!」

「ERAM,20warheads,stand by continuous launching!」

「I sir!」


 こうして命令を受けた兵装システム士官は手元のコンソールを素早く操作し、連動する『AN/SPY-1D(V)』フェイズドアレイ・レーダーが捕捉した攻撃目標や艦長の指示した発射弾数といったミサイル発射までに必要な諸元データをACS(イージス戦闘システム)に入力していく。

 もっとも、ACSは全体がネットワークで繋がった1つの巨大なシステムゆえにデータの入力は短時間かつ最低限の操作で終了し、あっという間に準備完了の声が上がる。


「Completed!」


 次の瞬間、自身が見つめるディスプレイ上でも発射準備完了を確認した艦長は、はっきりと聞こえるように力強い声で発射命令を下した。


「Fire!」

「Fire!」

「I sir!」


 今度も先程と同じように艦長の命令を副長が復唱し、その命令を受諾した兵装システム士官が短い返答を行った後に発射トリガーを引いてACSにミサイル発射の許可を与える。

 これで後は、システムが艦の揺れや攻撃目標との相対位置などの各種要素を考慮した上で、最適なタイミングを判断して自動でミサイルの発射まで行ってくれるのだ。

 事実、ほんの僅かなタイムラグを挟み、『Mk41 mod7』VLS(垂直発射システム)の各セルより1秒間隔で『RIM-174』ERAMが連続で発射されていく。


 艦の前後に設置された『Mk41 mod7』VLSの各セルより垂直にミサイルが発射されていく光景は、ロケットモーターの燃焼に伴う白煙が噴煙のように甲板上に吹き上がり、その白煙の中から轟音と共に飛び出したミサイル本体が猛烈な加速によって空高く撃ち上がっていくので迫力があった。

 こうして1艦につき20発、両艦あわせて40発もの『RIM-174』ERAMが1分も掛からない内に発射され、上空を飛行する巨大な目標に向かって行った。そして、先に述べた通り、この瞬間も航空隊の発射した48発のミサイルが飛翔中である。

 まさに飽和攻撃と称してもいい攻撃であったが、狙われた方の空中艦隊に陣形の乱れは無く、各機の機動も変わらないままだった。


 事実、空中艦隊はハルバート諸島への接近時と変わらず、中央に位置する全幅が900mを超える一際巨大な全翼機を守るよう、その半分ほどの大きさをした4機の全翼機がダイヤモンド隊形で巨大全翼機を取り囲んだ状態のまま迎撃行動を開始する。

 まず、前方と左右に展開する護衛の全翼機の機体内部から火砲ともミサイル発射機とも異なる筒型形状の兵装が1機につき4基ずつ現れ、接近中のミサイル群に向けられた。すると、10秒にも満たない僅かな時間の後、それまでは何事もなく飛翔していたミサイル群の挙動が一斉におかしくなった。

 いきなり針路を明後日の方向に変えて飛んで行ったり、失速して墜落したり、その場で爆発したりして実に70発以上ものミサイルが目標へ到達する前に混乱をきたしたのだ。


 これは護衛の全翼機に搭載された指向性EMP(電磁パルス)兵器によるもので、放射された不可視のEMPは対EMP処置を施していなかったミサイルの電子回路に許容量を遥かに超える過負荷を与えて破壊していた。

 それでも13発のミサイルが迎撃を免れて飛翔を続けていたが、当然のように次の迎撃システムが起動する。それはSAM(対空ミサイル)発射機とガトリングガンの両方を備え、自動制御で敵味方識別から迎撃までを行う『3M89』複合型CIWS(近接防御火器システム)だ。

 このCIWSが複数、指向性EMP兵器と入れ替わる形で全翼機の機体各部から展開すると、2基の4連装発射機から『9M337』SAMを連続発射、続いて2基1対の『AO-18KD』30mmガトリングガンが弾幕を張って瞬く間に残った13発のミサイルを撃墜してしまった。


「ミサイル全弾、目標の手前で撃墜されました!」


 焦燥感の漂う報告にケイン空軍基地地下の作戦指揮所の空気が重苦しいものとなった。反対に、空中艦隊の方では唯一、迎撃に加わらなかった最後尾に位置する護衛の全翼機が機体下部から2基のレールガンを展開してイージス駆逐艦『エドガー』を狙っていた。

 また、ミサイルの迎撃を終えた3機の全翼機は使用兵装を長射程の『S-300FM』SAMへと変更して『F-15C』戦闘機と『F-16CM』戦闘機の両編隊にレーダーを照射している。

 さらに、空中空母である巨大全翼機の前方半分がトンネル状になった飛行甲板では『Su-33』戦闘機の1番機がEMALS(電磁式カタパルト)上で発艦許可を待ち、空中艦隊所属の全艦が攻撃に転ずる機会を窺っていた。

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