表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『蜘蛛の糸』のお話、一番悪いのはお釈迦さまですよね。

作者: パン大好き

「『蜘蛛の糸』のお話、一番悪いのはお釈迦さまですよね」


 仕事中に突如、悪戯っぽく彼女が問い掛けてきた。少し間を空けその真意を探るように返す。


「芥川龍之介の?」


「そう。龍之介の。普通はカンダタの浅ましさがダメだっていう」


 そう言われてしまえば、彼女への答えはもはや一つしかない。


 柔らかく前髪が揺れるその奥に、薄灰色の瞳がしっとりとこちらを捉えている。幾分か心が吸い込まれたのを感じながら、表面的には仕方なさそう答えた。


たわむれれに糸を垂らしたお釈迦さまの、その心のありようが『悪』ってことかな」


「カンダタが抱いた希望もその先の失敗も分かっていたの、きっと。だから相当の悪だと思うのよね」


 彼女は目を伏せ、手元の書類をトントンと机に叩いて整えた。


「いや、むしろ『心』自体がなかったのかも」


「どういうことかな?」


「ただ純粋に『蜘蛛を助けた』報いとして『糸』を垂らしただけ。それで彼がどうなるのかまでは、まったく考えの外だったのかも知れない」


 しばしの沈黙の後、紙切れを知らせるコピー機の警告音が二人の間に割り込む。


「私にとってはお釈迦さまの『糸』だったんですけど、ね……」


 そう言い残した数日後、彼女は退職してしまった。


 銀色だったはずの糸は少し赤みを帯びたまま、オフィスの中空に揺れていた。


 

書く時間が全くないのですが、一カ月にわたり何も書かないのは寂しいのでなんとか投稿いたしました。拙作をお読みいただき、ありがとうございました。パン大好き

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんでしょう。 私は、「蜘蛛の糸」を言い始めた彼女の心が気になります。蜘蛛の糸は確かにテーマだけど。大切なのは、そんな救いようのない話を何気ない風を装って切り出した彼女の心境じゃないのかな?…
[一言] 解釈にひとしきり悩みました。 男が戯れに垂らした糸に女がすがる。けれども予定調和のように切れてしまう。切れる糸なら最初から垂らさないで欲しかったと言い残して女は去る。だけれども、残された…
[一言] 拝読いたしました。 蜘蛛の糸の新しい見解、面白かったです。
2018/06/01 08:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ