1-3 勧誘
「.............」
「.............」
じっとこちらとスクリーンとを交互に凝視する、ブルゾンコートの下に白いブラウスを身につけ、赤いスカートを茶色のベルトで固定し、黒いスニーカーを履いている彼女を見て、ああ、またか、と思う。
全国5位以内のプレイともなれば、人の目を集めてしまうのも当然といえば当然であった。
最初の内は、観られている事を余計に意識しすぎて、自分のプレイが出来ずに恥ずかしい思いをしていたが、過去に何度も自分の後ろに観客を作ってしまった経験がある俺は、今では慣れてしまい、自信を持って自分のプレイを見せてやろうと、いつものように特に気にかけることもなくプレイを続行しようとした。
が、何故か続ける気にならなかった。
何となく、画面を見ている赤髪の少女は違うと感じた。
違和感の正体はなんだろうと考えていると、答えはすぐに判った。
少女の視線から読み取れる感情だ。
多くの観客は、殆どがこのBRのプレイヤーであり、俺のプレイに尊敬や憧れ、あるいは嫉妬などの感情を込めた視線で画面を見つめるのだ。
しかし、この少女の視線からはそういった感情が一切見えない。
俺の一挙手一投足を余さず見ようと、画面に集中している。
まるでどこぞの面接官のように。
だから俺は、勇気を少し振り絞って訪ねた。
「あの、どうかしましたか?」
「ううん、何でもない。続けて」
画面から目を離さずに即答されてしまった。
「はぁ...」
曖昧な返事を返す。
どうやらゲームを妨害する様な雰囲気は全然感じられないので、不思議に思いながらもプレイを続行する。
暫くすると後ろから、「この世界にも戦闘の概念はあるのね.......」だの「やっぱりこんな武器見たことも聞いたこともないわ.......」だの「戦況の判断力はなかなかね.......」だのなんだの、よく訳のわからないことをブツブツ呟いている。
何なんだこの人は。頭が少しおかしいのか?この年にもなって銃を知らない?いやいや、流石に学校とかで聞いたことくらいあるでしょ。
とか考えているうちに、リザルトが表示され、予定していた2プレイが終わったことを告げられる。
そこには、ランクが上がり、銀色の王冠に2と書かれたマークがあった。
いつもならついついもう1回、と思って100円玉を財布から取り出すのだが、奇妙な観客と鈴奈のお菓子のため、荷物をまとめて椅子から立ち上がったその時だった。
「ねぇ君。君はその武器をどれくらい扱っているの?」
帰ろうかと向きを変えた時に少女と目が合い、何やら尋ねられた。
「武器?.......えと、このゲームのことですか?そうですね、稼動開始時からやってますから、中学の時からなので.......。4、5年位ですかね...」
「成程、それなりに経験も長い、と.......」
確認するように小さな声でそう言ったあと、少女は微笑みを浮かべて少年に告げる。
「うん、君ならピッタリね。ねぇ君、その腕前を人助けに活かしてみない?」
新手の会社の勧誘だろうか。自分と同い年くらいの少女が?
「もう少し言うとね、君のその得意な武器を使って、この世界じゃない、別の世界の人達を私達と一緒に助けて欲しいの。」
何を言っているのだろう。このBRで培ったものが人助けになるとは、全く想像がつかない。それに別の世界って何なんだ?
日常で殆ど耳にすることのない勧誘を受け、返答に困っていると、
「まぁ言われてみるより、実際に体験してみた方が早いわね」
そう言った少女は辺りを見渡して、誰もこちらを見ていないことを確かめると、笑顔を見せて、
「酔っちゃたらゴメンなさいね」
と言うやいなや、指をパチンと鳴らした。