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カレンデュラ(旧版)  作者: 芳多 響
序章
2/23

1ー2 邂逅

「だから俺は嫌だって言ったんだ!!どうするんだよこれ!」


 そう言って柿田は俺に数学の追加課題を見せつけてきた。


 教室を出て職員室の前に立ち、山岡先生を呼び出して課題を忘れたことを正直に伝えた。しかめっ面をしながらも明日の朝に提出、ということで話はまとまった。そこまではよかったのだ。


 だが.......


「なんで俺だけ追加課題出されてんだよぉ!」


 そう、柿田だけはしっかりと怒られて追加課題というプレゼントを強制的に受け取らされていた。


 なんでも、岡山先生曰く、


「泉は初犯だからまだいいが、お前は何度目だ?授業中の態度は良くもなければ成績が言い訳でもない。ただでさえ評価する点がないと言うのに提出物までろくに出さないとか、巫山戯ているのか?そんな生活を続けていたら後々自分が後悔.......」


 だとかなんとか。そこから先は覚えていない。


 あんな鬼ヅラした岡山先生初めて見たからびっくりびっくり。


 いやー、隣で友人が叱られている時の気まずさといったらないわ、あれ。


「何度もやらかしているんじゃ仕方ないね。」


「なあおい、俺とお前の仲だろ?折角一緒に怒られたんだから、課題手伝ってくれよ!」


「別にいいけどよ、俺なんかよりも賢吾や鈴奈を頼った方が良いんじゃないのか?」


 あいつらの方が成績は上だし。


「お、確かにそれもそうだな。まだ教室残ってっかなー?」


 柿田が教室へ走り出したかと思うと、走りながら器用に首だけこちらに回し、


「どーせお前この後ゲーセン行くんだろ?とりあえず、二人と話がついたら場所の連絡するぜー!まぁいつもの通り、大蔵ん家になると思うがなー!」


 俺は大抵、学校帰りに通学路脇のそこそこ大きなゲームセンターに足を運ぶ。その事を分かっているからこその、この柿田の言葉である。持つべきものは何とやら。


「へいへーい!っと.......あ」


 柿田の姿が一瞬で消えた。と思うとその後すぐに


 ゴン!


 という鈍い音が階段の下から聞こえた。


 俺が持ったのは友でなくバカだったのか。


 よそ見しながら走るからだよまったく。




 ***




 大した怪我は無かった柿田を高崎と大蔵に任せ、俺はイヤホンを耳に突っ刺して市内のゲームセンターに向かう。


 ネットで見つけたダブステップを再生し、今日のゲームのプレイスタイルの計画を練りながら、ゲームセンターの自動ドアを目指す。


 泉にとってこの時間が一日の中で一番楽しいと感じる時間だった。


 ピロン♪


 と、着信音がイヤホンから音楽を遮って聞こえたので携帯を確認すると、


『差出人:柿田 純也

 件名:変更!!

 賢吾ん所、親父さんが帰ってきてるから代わりにすずん家になったぜ!後でお菓子でも作るってよ!早く来ねえと全部食っちまうぞ!』


 鈴奈の手作りお菓子。


 高校に入ってからはめっきり作らなくなったが、中学の時、鈴奈はお菓子作りに一度どハマりして、毎日大量のお菓子を俺達に配っていた。


 あの時は流石にウンザリしていたが、久々に食べたいと思う。


 鈴奈のお菓子は中学時代で相当腕を上げ、売り物に出せるくらいに美味なのだ。これは何としても口にしたい。


 今日のゲームは2プレイで切り上げだな、とか考えているうちに、見慣れた自動ドアがすぐ目の前に見えていた。


 くぐった瞬間に様々なゲームのけたたましい音楽と子供の笑い声が俺を包み込む。といっても、イヤホンをしているため、そこまで不快には感じない。


 俺は他のゲームには目もくれずに、真っ直ぐに一つの筐体に向かい、筐体の前に設置された椅子の横に荷物を置き、右ポケットから百円玉を取り出して、投入口に転がす。


 小気味よい効果音が流れ、画面が変化し、起動を確認したところでデータカードをかざし、椅子に深く腰掛ける。


 すると、画面に自分のデータが映し出される。


 レベルはカンストした99、ラスボスキャラのアイコンに、メイン装備の両手光線銃『RO-17B』の文字が、ユーザー名『LAKE』の周りに記載されている。


 その上の銅色の王冠マークに、3という数字が輝いている。


 これは全国ランキングの順位を示したもので、俺が今触っているこの筐体、『Bullet of RAINFALL』通称BRは、ユーザー総数200万を超えるFPSゲームである。


 拳銃型コントローラー独特の、クセの強い操作方法と、実在するものから架空のものまで取り揃えた豊富な武器やアイテム。個人戦やチーム戦も可能で、何より大画面でプレイ出来ることから、実際に自分がゲーム内の世界で戦っていると錯覚してしまう程だ。


 そんなゲームを楽しむ約200万人の中のひとりである俺は、稼動開始時からの愛好家であり、ランキングも常に上位にくい込ませていた。


 ここ半年ほどは、5位を下回ったことはないし、1位に輝くことも少なくない。


 頂点まで登り詰めたのなら、もうやる必要はないんじゃないか、と賢吾や鈴奈に散々言われたが、FPSは一度虜になると抜け出せなくなる謎の中毒性があり、俺はもうどっぷり浸りきってしまった、ある意味手遅れ感満載のハードプレイヤーなのである。


 今日もまた、長い時間を掛けて築き上げた力を身につけ、適当にバトルしているグループを選んでゲリラ参戦し、圧倒的な戦果を挙げていく。


 「今日の対戦相手、判断力と行動力は悪くなかったが、武器に恵まれ無かったな。第四マップのボスからドロップする武器を持たせたら格段に戦闘力アップするだろうなぁ」


 と、この場で言っても仕方の無いアドバイスもとい、敵の分析をブツクサと呟きながら、次のステージを選んでいるその時だった。


 不意に後ろから視線を感じ、チラリと振り返ってみると、そこには燃えるような紅蓮の長髪を後ろで軽く結わえた少女がこちらを凝視していた。


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