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カレンデュラ(旧版)  作者: 芳多 響
序章
17/23

1-17 暁

「それじゃあ、これからどうする?」


 俺がエニアグラムの勧誘を受け入れた暫くした後、エティオが尋ねてきた。


「俺は少し寄るところがあるから拠点には帰らないが」


「拠点なんてものがあるのか?」


「少数精鋭の義勇軍だからな、王国からは好待遇なんだ。と言っても、ここからは少し遠いけど」


 言われてみればそれは当たり前の話だった。ジルカ王国に籍を置くエニアグラムは少数精鋭の義勇軍。つまりは、王国の強力な切り札の一枚である者達を丁重に扱うのは想像に難くない。


「いいえ、綾人がエニアグラムに正式に加入する以上、もう少し説明しておくことがあるから、私は一度綾人の世界へ戻るわ。もう少しお邪魔する事になるけど、いいかしら?」


 エニアグラムについての詳細。加入する以上、聞いておかなくてはならないのだろう。


「ああ、また聞きたいことも増えた事だし、残ってもらえると有難い」


「決まりだな。それじゃあ綾人、近いうちにまた会うことになるだろうけど、そんときゃまた、よろしくな!」


 そう言いながら、エティオはミゼリターに乗り込み街の北門から去っていった。


 小さくなってゆく黒い車体を見つめながら、俺はふと、空を仰ぐ。


 暗かった夜は東側が白み、もうすぐ夜明けが来ることを告げていた。


「それじゃ、動力源を発電所に戻して、私達も帰りましょう.......おっと」


 イリナは球体を持ち上げるも少しよろける。重いのだろうか。


「それくらいは俺が持つよ」


「あらそう?じゃあお願いしようかな」


 両手で渡された動力源はその大きさからは想像出来ないくらいに重かったが、なんとかよろけずに済んだ。


 ボーリング玉よりも重いんじゃないだろうか?これ。


 そんなことを考えながら俺達は発電所を目指して歩いた。


 途中で、例の老けた男性を筆頭に数人の住民達が駆けつけてきたが、イリナが事は既に解決した事を伝えると、住民達は安堵し感謝していた。


 イリナと住民達が話し込んでいる間、俺はずっと街の様子を眺めていた。


 発電所を中心とした街の北は綺麗な街並みがそのまま残っているため被害はほぼゼロに等しいが、南側は惨状である。民家の敷地や街道に所構わず散らばった無数の瓦礫、その下に埋まった遺体の数々、更に酷く傾いた時計塔と、拡大した被害の範囲とその質は復興するのに軽く一年はかかるのだろう。


 半壊した民家の瓦礫の隙間から覗いていた、(しお)れかけの一輪の花を見ながら、俺はそんなことをぼんやりと考えていた。


「今日は本当にお疲れ様。そろそろ戻ろうか」


 いつの間にか話を終えていたイリナは俺にそう声を掛けた。


「ああ、そうだな。戻ろう」


「うん」


 俺の返事を聞いたイリナは相槌を打つと、見慣れた所作で指を鳴らした。





 ***





 北門をくぐり抜けたエティオは、そのまま真っ直ぐ去りはしなかった。夜明けの太陽に向かってハンドルを切り、街の東門を目指す。


 山頂から覗き込む白く眩しい太陽に目を薄めながら、東門付近に辿り着いた。


 エティオはそこでミゼリターを停めて下車し、すぐ側に建つ、三階建ての無人の建物の中に足を踏み入れ、そのまま屋上を目指す。


 階段を登りきり、少し高い所から見る朝日は綺麗なものだった。山頂からその球体の半分以上を出現させ、夜の陰りを白く照らし、かき消してゆく。


 そんな屋上から見える綺麗な景色の反対側に、それはいた。


 薄茶色のフード付きトレンチコートをしっかりと羽織り、背丈はエティオよりもかなり小さい。トレンチコートの裾から覗く膝下は、白くか細い脚、そして痛々しく小さい裸足がつま先を揃えてちょこんと並んでいる。肝心の顔は、フードを目深に被っているせいで、口元と顎先しか見えない。


 エティオは外見では男か女かも分からない者に声を掛けた。


「まさかお前がここにいるとはな。しかも綾人を中心とした時間停止をかけたな?計測器に反応が出てきた時はびっくりしたぞ」


「.......」


「自分にならまだしも、他人中心に展開させたのなら、今あまり魔力は残ってないんだろう?これでも飲んで回復しとけよ」


 そう言ってエティオは懐から小さな瓶を取り出し、目の前の者に投げ渡す。そいつは、受け取りはしたものの、そのまま腕を下ろした。


「.......」


「沈黙、か。相変わらずだねー。まあ、それがお前なんだというのは分かっているんだけど。誰から綾人を守るよう言われたんだ?っても、こんな事言うのはゼノン、なんだろ?」


 フードがこくり、と小さく縦に揺れた。


「ふぁー。やっぱしあいつは全部見通してんだなー。怖い怖い」


「.......」


「お前のことだ。どうせこれからまた別の場所へ行くんだろ?何なら近くまで送ってやってもいいけど?」


 ふるふると今度は横に小さく揺れる。


「そっか。じゃ気をつけてな、と言っても、お前なら心配ないか。じゃあな」


 言いながらエティオは階段を降りて、ミゼリターへ向かう。その後には、朝日がこうこうと屋上を白く染めるだけで、もう誰もいなかった。


一先ず第一章はここで一区切りです。思いつきのまま書いた為、物語冒頭からかなりの急展開でしたが、これからも長らく続いていく(多分)のでどうかのんびり気楽にお付き合い下さると嬉しいです。

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