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カレンデュラ(旧版)  作者: 芳多 響
序章
15/23

1-15 推察

 長く降り続いた豪雨も、その強かった勢いは収まり、ぽつぽつとした小雨になる頃には、俺も落ち着いていた。


 雨上がりのひんやりとした空気の中、俺とイリナは、エティオの運転するミゼリターに乗って、住民達に色々と報告するために役場を目指していた。


「結局、ここには二十八匹の化物が襲来したってことになるのか?」


「あなたと私の数え間違いが無ければね」


 その言葉に俺は驚愕する。


「たった二人でそんな数倒したのか?.......凄いな、俺なんて三匹倒すのがやっとなのに.......」


「え、三匹!?」


「うっそまじで!?」


 今度はイリナとエティオが驚愕する番だった。


「まだエニアグラムに正式加入してないのに、初めての戦闘で戦果を挙げるのはすごく難しいことよ?ましてや、今回みたいなのじゃ尚更よ」


「エニアグラムでも、最初の内は誰だって役立たずだったなぁ。そんな中一匹でも倒せりゃ御の字だと思ってたんだけど、三匹もやるなんて、これはイリナが仲間に欲しがる理由も頷けるね」


「加えて料理の腕も相当よ?」


「おっ、そいつはいいな!俺達の中にまともに料理できるやつ少なかったからなー。これから上手い飯にありつけるのかー。やべぇ、楽しみだな!.......って、結局は食いモンかよ」


「あら、エティオも相当乗り気だったじゃない?」


「ちげーよ、お前らは飯が作れなさすぎるんだよ!」


「作れないんじゃないわ、作らないのよ。作ってる暇がないの」


「はいはい」


 自分についての話題が発展してしまい、なんだか聞いては不味かった様なことを聞いてしまった気がする。


 そんな話をしているうちに、いつの間にか役場の近くまで来ていた。ミゼリターを停めると、エティオとイリナはすぐに下車し、役場の方へスタスタと歩いていく。俺も遅れて二人について行った。


 役場の中は、外での化物の騒ぎが聞こえなくなったのを不思議に思った住民が何人か出てきて、外を警戒していたが、役場に入ってきた俺達の姿を認めるなり、俺達の周りに駆け寄り、口々に何かを話し始めた。


 イリナとエティオが、同じく住民達の言語で事情を説明していき、二人は頭を同時に下げた。会話の雰囲気からして、街や住民達を守りきれなかったことを謝罪したのだ、ということがなんとなく分かった俺は、二人と同じように頭を下げた。


 目を見開いたまま固まった者、唇を噛み締めて俯く者、その場に崩れて泣き出す者、頭を抱えて喚き出す者と、住民達の反応は様々だった。


 辛く、重苦しい雰囲気の中、昨日来た時に見た、少し老けた男性が俺達の元へ歩み寄り、何か言葉を発した後、その白髪まじりの頭を深々と下げた。それと同じように、何人かの住民も頭を下げた。


 俺達は互いに頭を上げた後、住民達は老けた男性を中心に、俺達は三人で固まって話を始めた。


「合計で約三十匹近い化物が、この街に突如現れ、大きな被害を振り回したわけだけど、その三十匹全てがこの街の南側で暴れていたみたいね」


「ああ、何か南側に目的があるかの様だったな」


「だとすると、分からないわね。化物はいったい何に惹かれたのかしら」


「南に何かあるのか?」


 俺は二人の会話に疑問を感じ、尋ねてみた。


「いーや、特にめぼしいものが無いんだな、これが。民家ぐらいしか」


「せめて、化物が惹かれた物の正体さえ分かれば良いんだけど.......」


「.......化物は、どうやってこの街に現れたんだ?あれだけ大きな体なんだ。それが三十匹も。この街は見たところ、平原に位置しているから、化物が近づいてきたのなら、すぐにわかると思うんだけど.......」


「.......言われりゃ確かにそうだ。おかしいぞ?奴らどうやって出てきたんだ?」


「しかもその全てが街の南側.......引っかかるわね」


「ああ、どうも嫌な臭いがするな」


「私は昨日初めてあの化物と戦ってみて、ほかの動物とは明らかに違う雰囲気を感じたわ」


「というと?」


「普通、ほとんどの生き物は急所を二箇所以上持つものよ。それなのに、あの化物は口の中の鈍く輝く核だけだった。あれだけ妙に目立っていたもの。胴体や足は、攻撃が通らなかった訳じゃないけれど、いくら斬りつけても生命力が衰えた感じは無かったわ」


 俺とエティオは顔を見合わせ、次のイリナの言葉を待つ。


「それに、絶命した瞬間に霧散する動物なんていないわ」


「そう考えると、どうも今回の化物、魔物にカテゴライズされそうだな」


「加えて出現方法不明、ね」


「「「.......」」」


 俺たち三人は化物に対しての考察に行き詰まりかけた。


「逆に、この街の北には何があるんだ?」


「きた?北か、北は...確か発電所があったはずだな。この街の動力源が安置されてたはずだが.......」


 エティオがそう言った時だった。


 バツン、と何かが切断されるような音がしたのと同時に、辺りが暗闇に包まれた。


 住民達の、主に女性の悲鳴が役場の中に鋭く谺響(こだま)する。


「なんだ?停電か?」


 エティオが疑問の声を上げる。イリナがすぐさま老人のもとへ駆け寄り、ただならぬ雰囲気で話を始める。


 老人との確認を終え、イリナはこちらへ戻ってくるなりこう言った。


「この街は過去一度も停電なんて無かったらしいわ。それが停電したということはつまり、この街の動力源に何かあったってことよ。町長さんの話では、恐らく動力源が設置台から落ちたんじゃないかって」


「設置台から落ちた、ねぇ」


「そう、問題はそこよ。今まで停電がなかったのなら、こんな豪雨でたまたま今回停電した、なんてことは考え難いわ。それに、化物が襲撃してきたとはいえ、動力源があるのは南ではなくて北」


「タイミングが良すぎるな」


「え、じゃあこれって、この騒動って.......」




「化物は囮。南で騒動を起こしている間に北で動力源を奪取するという陽動作戦、人為的な物である可能性が高いわね」




 背筋が凍りついた。こんな事を企んだ人間がいるのか、と。


 同時に怒りもこみ上げてきた。その人間のせいで、家族が、母娘が死んだのか、と。


「そうすると目的が分からないわ。何故動力源を奪うのかしら」


「街一つ動かす動力源というものは相当強力なもの故、扱いが難しい。だけどな、」


 一呼吸入れてからエティオは喋り出す。


「街の生命線でもある動力源だ。その内包エネルギーはかなり莫大なもの。つまり、なにか大きな機械や兵器の動力にあてるのにもってこいの代物なんだ」


「なるほど、この街の動力を資材に見たって訳ね」


「まだ百パーそうだ、と決まったわけじゃない。でも、その可能性は否定出来ない。となれば.......」


「行くしかないわね。アヤト、あなたはどうする?」


 イリナがこちらに首を向けて尋ねてくる。


 昔から、人より少し正義感と責任感の強かった俺にとって、先の悲劇は深く心に刻みつけられ、そう簡単に忘れることは不可能だろう。それは俺に力が、勇気が、覚悟が無かったからだ、と自責を信じて疑わない。


 だが、この騒動が人為的、人の手によって企てられたものだと言うのなら、当然、そいつらには報いを受けてもらわなければならない。


 ぶっちゃけてしまえば、俺が何も知らない異世界の一つの街の住民のために命を賭す理由など本来は無いはずなのだが、ここまで悲惨な情景を見てしまった以上、守りたいと思っていた家族の命が絶たれてしまった以上、今更他人事になんてできなかった。


「ああ、.......行くさ」


 だから俺はイリナの問いにしかと答える。


「決まりだな。すぐにミゼリターへ戻れ。急いで街の北方へ向かうぞ」


 俺は、俺達はすぐに真っ暗な役場を出て、月明かりの寂しい夜の中ミゼリターに乗り込む、と同時に心地よいエンジン音を響かせ、エティオは愛車を発進させた。




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