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苦手な方はご注意ください。

冒険者(女)と主夫

冒険者(女)と主夫 その後の顛末

作者: やよい

エリスとクリスとドラゴンの日常。

『冒険者(女)と主夫』の続きです。さくっとどうぞ。




「はーい、朝ご飯が出来ましたよ」

 

 クリスが出来たてのパンと湯気の立つ鍋を食卓に持ってきてくれた。エプロン姿がよく似合っている。

 朝からパンまで焼いてしまうとは、どれだけ女子力が高いのだクリス。

 ぬいぐるみサイズのドラゴンが小さな手を伸ばしてパンを取り、テーブルの上でエリスを待ち構えている。今日もエリスに食べさせようとしているらしい。

 エリスもカトラリーを並べ、みんなが席に着く。

 途端に始まる一人と一匹の攻防。


─────さあ、エリス。わたしがパンを食べさせてやろう。


「毎日懲りない人ですね。迷惑なので給餌行動は慎んで下さい」


 クリスがむんず、とドラゴンの頭を鷲掴みにしていた。


(アレ結構討伐に苦労したのに、どうしてクリスは平気で持てるんだ?)


 エリスは横目で二人を見ながら、むしゃむしゃと食事を続けた。今日も大変美味しい。


─────おまえは毎度毎度、なぜ邪魔をする!はっ、そうか恋敵というものだな?


「今頃気付いたんですか?案外アタマが足りませんね」


─────エリスっ、さぁ食べるのだ!


「・・・ドラゴンの求愛行動は全力で阻止します」


─────な、なぜ知っている!


「あなたのやりそうな姑息な手段はほぼ想定済です。狡賢い邪悪なドラゴンが相手なのですから対策は取っておくべきでしょう。むしろ無策でいるはずがない」


 その無策なドラゴンは打ちひしがれた。たったヒトクチでいいのに、とエリスを恨めしそうに見ている。


「ま、諦めて?」


 食事を終えたエリスがドラゴンに追い打ちをかける。


─────すきありぃっ!!


 ドラゴンがエリスの口元めがけて小さな手を突き出してきた。パンのかけらを握っている。

 すっ、と後ろにのけぞったエリスの目の前で、フライパンがドラゴンを床に叩き落とした。


「まったく、油断も隙もありませんね。求愛にふさわしい情緒までないとは・・・」


 クリスがため息をついた。

 

─────このわたしに何という無礼をはたらくのだ。


 床に沈んだドラゴンだったが、ゆっくりと起き上がり口から炎を吐き出した。目が異様にギラついている。


─────おのれの愚かさを後悔せよ。


 しゅっ、と空気がクリスに向かった。

 エリスにも何が起きたのかわからない一瞬の間に、クリスが血まみれになった。


「クリス!!」


 クリスが声もなく床にくずおれた。

 エリスが止血しようと近寄ると、クリスが小さな声で罵った。


「あのばかドラゴンが。・・・すみませんが、棚から軟膏を持ってきて下さい」


 エリスは言われるまま、小さな薬缶に入った軟膏を出した。

 ドラゴン討伐に持って行ったものとは色が違って匂いもひどいものだった。


「これ・・・?」


「そうです、塗っていただけますか?僕、動けそうにないので」


 後ろでドラゴンが喚いているがそれどころじゃない。ドラゴンには後でお仕置きだ。


─────エリス、やめろ!そんな男にさわるな!


「ちょっと黙ってなさい!!」


 エリスに怒鳴られ睨まれ、目に見えてドラゴンがしゅぅぅぅんと落ち込んだ。

 一番ひどい傷は右腕だった。そっと、塗っていく。クリスが小さく喘いでいる。苦しいのだろう。


「この匂いさえなかったら合格点もらえると思うんですよねぇ」


 軟膏を塗ったところから煙があがり、傷が次々に閉じていく。

 ぎょっとするエリスの手から軟膏を掬い取り、クリスも自分であちこちに塗り広げていく。

 やがて煙が収まり、傷がすべて閉じた。


「クリス、この薬は・・・」


 言いかけたエリスの唇に、クリスのひとさし指が添えられた。


「これは内緒の薬です。僕が作りました。師匠には死人まで生き返る薬など作っても混乱を招くだけだと、これを破棄するよう命じられています」


 こてっ、と首を傾げるクリスは血まみれだが今日も可愛らしい。


「ただ、あなたがいつ大けがをするかと心配で捨てられないでいました。もしもの時は使うつもりで」


 エリスは何も言わず、クリスを抱きしめた。



※ ※ ※



 さて、おしおきの時間です。


「わかってる?これだけのものを片付けるのが、どれだけ大変なことか」


 部屋の惨状は推して知るべし。

 クリスは湯を浴び、着替えに行っている。

 ドラゴンを胸元に抱え、お説教中のエリス。

 しおしおと項垂れてはいるものの、エリスのふくよかな胸元を堪能している。


「それに、クリスにもしものことがあったら」


 エリスは怖い顔でドラゴンを覗き込んだ。


「私たちは、住むところも食事も満足にならなくなるのよ!」


─────・・・ならばわたしがエリスの面倒をみるぞ!


「私はクリスの作る食事でないとイヤ!」


 

ドラゴン  おい、料理を教えろ!

クリス   ・・・

ドラゴン  おい、聞いているのか!わたしに

クリス   僕になにか言うことは?

ドラゴン  お、おまえに何を言えというのだ。

クリス   人間の常識を教えてあげるね。

ドラゴン  ・・・?

クリス   悪いことをしたら謝る。これ、常識です。子供でも知っていますよ。

ドラゴン  わたしは子供ではない!

クリス   へぇ、大人なのに謝れないんですか。彼女の相手としては不相応ですね。

ドラゴン  ごめんなさい!!

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