舞踏会は危険な予感
宵が更けてくると、城から賑やかな音楽が街に溢れてきた。
きらびやかなドレスとジュエリーを体中に纏い、女性たちは皆の注目を集めようと必死にアピールしている。
男性は正装でありながらも、そのような女性を物色するような目で品定めしている。
舞踏会とは、そういう場所でもある。
会場全体を見渡せる、2階席にいるエリック王子とクリス。
大きなダンスホールには、ざっと100人くらいはいるだろうか。
その中には、勿論捜せぞミディア王女は居ない。
「嫁ぐ前にお会い出来まして嬉しいですわ」
エリック王子の隣で、可愛らしく微笑むのはマーガレット王女。
ふわりとした砂糖で出来ているような白く艶やかな肌。
大きなブルーの瞳とふっくらした紅い唇。ほっそりとした鼻立ち。
煌めいている亜麻色。
微笑みは最上級品。
確かに、絶世の美女である。
両肩を出した、ピンク色のドレスがよく似合う。
この会場でピンク色のドレスを着ているのは、マーガレット王女しか居ないことに気付く。
どうやらこの国では、ピンク色はマーガレット王女の専用色らしい。
それ程迄に、マーガレット王女には力があるということだ。
正確には、王夫妻らに愛されているということなのだが。
王妃が産んだ唯一の王女。いや、王妃はマーガレット王女しか産んでいない。それ故、寵愛が深い。
「嫁ぎましたら、ノートリアの国中を周りたいです。美しい景色を見たいのです」
瞳をキラキラさせながら力説するマーガレット王女に、クリスは内心苦笑いをした。
マーガレット王女は確かに美しく、エリック王子の隣にいると1枚の絵画のように映る。
しかし、ノートリア国の未来の王妃としては、不安が渦巻く。
あまりにも無邪気で、綺麗なものばかりを見るばかりではいけないというのに。
それをエリック王子もクリスも思っていた。
「マーガレット王女、ノートリア国では王と王妃は同等の力を持ちます。それは片方が暴走することを防ぐ為。貴女は暴走する私を止めることが出来ますか?」
この国に来て初めて、公式用のエリック王子の顔になる。
やはり王太子。マーガレット王女を試している。
すると、きょとんとした顔で、愛らしく見せる為か首を傾げた。
その仕草は可愛いと、他の男性ならば思うであろう。
しかし、大国であるノートリア国の王太子と未来の宰相は、そのようなものは一切惑わされない。
寧ろ、誤魔化しているとしか思えない。
「私は政には一切口出し致しません。ただエリック様を癒やして差し上げるだけです」
つまり何も出来無いと言っている。
それはそうであろう。
姉姫である、ミディア王女を見向きもしないのだから。
二人に血縁関係があるかどうかは問題ではなく、ミディア王女を見捨てる形で成り立っている王家に、疑問は持たないのだろうか。
いや、心を痛むことはないのだろうか。例え、血縁が無くとも、同じ国民が犠牲になることは、やはり上に立つ者にとっては、避けるべきこと。
「そうですか」
「それよりも、折角ですので、一緒に踊りましょうよ」
ここで断る訳にはいかない。
断れば、お互いの面子が潰れてしまう。
国と国の利益を考えれば、拒むことは出来ない。
「喜んで」
渋々という気持ちをひた隠し、いつものように女性が気持ち良くさせる笑顔でマーガレット王女の手を取った。
自然とホールの中心へ誘われる。
そして、妙齢の美男美女が曲に合わせて踊れば、自然と注目を集める。
実際に、マーガレット王女のステップは軽やかに、慣れているようであった為、エリック王子がダンスに気を使うことは無かった。
寧ろ、リードされているようにさえ思える程。
やがて、曲が終わると、周りから何処からともなく、拍手が湧き起こった。
その一連の様子を端で観ていたクリスは、姿に似合わないマーガレット王女の強かさを感じていた。
これで、マーガレット王女との仲が公認となったということになった。このような状況で、破局は益々難しくなった。
「皆の者、改めて紹介しよう。我が娘、マーガレットが嫁ぐノートリア国の王太子、エリック王子だ」
高らかにホールの前中央から宣言する王。
いつの間にやらホールに入ってきた王と王妃は、満足そうに、若い二人に祝福の拍手を送っている。
その様子を見ながら、クリスはちょっとした余興を思い付いた。
最悪、幽閉されるかもしれないが、それでも良い。