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good vibration  作者: リープ
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第8話 「おやすみ」

 今のうちに食事でもしようと思い、私は近くのファーストフード店へ入った。

 適当な商品を頼み、適当な席に座る。

「今日こそ帰ろうかなぁ……」

 なぜ、これほど帰宅することに悩んでいるのか。

 両親とケンカしてるから?

 そんなわけがない。だって両親は死んでもう居ないから。

 じゃあ、両親がいない貧乏な家を助けるために家出している?

 ……残念でした。

 遺産は結構あって六つ離れた姉と私で半分に割った。

 ちなみに私は未成年なのでお金は姉が管理している事に建前はなっている。

 しかし、実際は私専用の姉の口座からいつでも好きなだけお金が引き出せるようになっている。だからお金には困ってない。

 ……って私は誰と話しているんだか。


 そして現在、姉夫婦と暮らしている。一ヶ月ぐらい帰ってないけど。

 帰れば姉夫婦が温かく迎えてくれるだろうけど。

 でも……

「やっぱり今日も学校に泊まるか」

 私は適当に時間を潰し、予備校の授業が終る頃合を確認したので店を出る事にした。


 予備校に着くと出入り口から次々と生徒が出てきた。その一人一人を確認する。

 しかし、澄川は出てこなかった。

 三十分程すると、皆帰っていったのか誰も出てこなくなった。

 もしかして、見逃したのかなぁ……と言う不安が過ぎったのもつかの間、見覚えのある二人組が出入り口から出てきた。

 澄川とさっきの男性講師だった。

 男性講師は外へ出るなり左右をキョロキョロと探り出した。

 そして私の居る方向をむくと手を振り出した。

「いいっ! 何なの? あの講師」

 私は仕方なく物陰からしぶしぶ二人の前に出た。

「さぁ、今からメシ食いに行こう!! メシ!!」

 元気よく男性講師が叫ぶ。


「はぁ……」

 私は返事する元気も無かった。せっかくの尾行がアッサリ見つかったのだから。

 澄川は澄川で私のほうを凝視して動かない。

 というか睨まれてる……私は彼のほうを見る事が出来なかった。

 それを見て男性講師は私たちを交互に見てニヤニヤしている。

「澄川!! そんなに見つめたら彼女が照れるだろ?」

「私は別に照れてませんっ!!」

 先生の言葉を聞いた澄川はすぐに柔らかい表情に変わった。

「そうだねっ!! ボク、物珍しいもの見ちゃうと凝視しちゃうんですよ」

「分かるっ!! 分かるぞぉー!! 先生も昔はそうだった。若い時ってついついかわいい子を目で追っちゃうんだよなぁー」

「先生ー、腹減ったよぉ」

「よしきたっ!! ファミレスへ直行だ!!」

「ふう……」

 何も言わなくても私は数に入っているらしい。


 ということで私たちは近くのファミレスへ行った。

「そういや言い忘れてたけど、僕の名前は黒木っていうんだ、ヨロシク」

「はぁ。よろしくお願いします」

 私はそれなりの挨拶はしたつもりだった。

 しかし、黒木さんと言う男性講師には不満だったようで

「なんか硬いなぁ。緊張するのは無理ないけど、ここファミレスだし気楽に行こうよ」

「はい、ドリンクバーから皆の飲み物もって来たよ!!」

「おっ、澄川は気が利くなぁ」

 私の前にも飲み物が置かれる。

 とりあえず落ち着く為に一口飲む。甘ーいジュースだった。


 ただ、甘いものは頭の働きを良くしたようだ。

 気持ちが落ち着いた私はこの二人の関係が気になった。

「あの、失礼ですが澄川君とはいつから仲がいいんですか?」

「えっ? いつだろ? 多分3ヶ月前ぐらいだよな。澄川がウチの予備校に入ってきて」

「うん!!」

「『うん』じゃなくて『はい』だろ、ホント子供だなぁ。コイツこんな感じで人懐っこいだろ? 僕もそういう人間は嫌いじゃないから、すぐ仲良くなったよなぁ」

「うん!! ボク、先生のこと大好きだよ!!」

「はっきりいうなよ。照れるだろ」

 黒木さんは澄川の頭の頭をクシャクシャとなでる。ほんとに照れているようだった。

 それにしても、ここまで澄川が垢抜けてる訳も無い。

 おそらく澄川の言う所の「光彦」という人格が担当しているのだろう。

 あいつの話を間に受ければの話だけど。


 ただ、傍目から見ている分には仲のいい講師と生徒といった関係にしか見えない。

「なんだかいい関係ですね」

「おいおい、君までそんな事言うなよ。なんかホントに恥ずかしくなってきたよ……トイレ行ってくる」

 黒木さんは席から立ち上がり、去り際に私へ振り向く。

「後は若い二人のお楽しみ。なーんちゃって」

「なっ……」

 この人完全に誤解してる。

 先生が居なくなって、二人っきりになると途端に沈黙が二人を包んだ。

 しかし、いつまでもこんな状態では間が持たないので私が話す事にした。

「怒ってる? 尾行したこと」

 しかし、澄川は何も答えない。再び、沈黙。

 沈黙=怒ってるってことね、OK。

 そしてしばらくこの状態が続くと、ようやく澄川が口を開いた。

「お前には感謝してる」

「は?」

「こんなに早く俺にチャンスが巡ってくるとはな……」

「っ!?」


 その口調はさっきまでモノとは明らかに違っていた。

 一人称が僕じゃなくて俺になっている。

 まさか……

「アンタは昨日の……」

「だったらどうなんだ?」

 答えは1つだった。

 昨日の澄川と言えば……殺しの人格「刹那」。

 そしてこの後の展開を考えると……

 私は慎重に尋ねた。

「あの人を殺すの?」

「あぁ、俺という人格が出てきた以上、もう止められない」

「何故? あんなにいい先生じゃない。殺す理由がない」

「理由は簡単。正宗が好きになったからだ」

「それとどう関係があるの!!」

 私は興奮してテーブルをたたきつけた。

「うるさいぞ。ここは公共の場だ」

「コイツ……」

「ふん。俺は正宗が好きになった相手を殺すためだけに出てくる」

 私は一瞬言葉を失った。

 その反応を見て、刹那は嗜虐性を帯びたような笑みを浮かべる。

「俺は今、外へ出てこれた。それが理由にならないか?」

 やっぱり昼休みに聞いたことは本当だったんだ。

 『好きになった人を殺す』――なんだって言うの!?

 ――そんなことさせない!!

「殺すのは無理よ……」

「なぜ?」

「私に殺す事を喋ったから!!」

「ふん、俺がただ無駄に喋ったとでも? お前に喋ったのは『絶対に殺す』という自信からくる俺の自己顕示欲からだ」

 その瞬間、私の体が少しだけ平衡感覚を失う。

 どうしたっていうの?

「その証拠に……」

「くっ」

 さらに意識が朦朧としてきた。

 頭の中に霧のようなものが取り巻く感覚。体が重い。

 これってまさか……

「朝までぐっすりおやすみ……」

「あっ……」

 私の意識は無くなった。

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