第4話 「コイツは人殺しよ!!」
結局、私は学校に泊まる事にした。
人が殺されたこの学校で……
――とか考えてたら朝になってしまった。
「亜希ちゃん、おはよう」
美世が私を心配してか、一番にこの教室に来た。時間はまだ7時20分。
私は昨日のこともあって、自分の席に座り、上半身をうつ伏せになっていた。
でも、ちっとも眠れた気がしない。
「……おはよ……」
「昨日大丈夫だった?」
「大丈夫と言えば大丈夫だったような……そうじゃないと言えばそうじゃない気が……」
美世が来たことで安心したのだろうか?
それっきり私はまた寝てしまった。
「亜希ちゃん? 亜希ちゃん!?」
気が付いたときは、既に4時間目は終わりごろに差し掛かっていた。
私は上半身を起こすと、辺りを見回した。
今までまったく気にならなかった存在を探す。みんな授業を受けていた。
そして美世と目が合う。すかさず彼女は私に笑みを向けた。私も微笑み返す。
次に有希が目に入る。しばらくすると私の視線に気付いたのかこっちを向いた。
しかし、すぐさまそっぽを向く。まだ昨日の事怒ってるのかなぁ。まぁ、いいけど。
そして……とうとう見つけた。私の席とは遠く離れた窓側の前から2番目の席でそいつは何食わぬ顔して授業を受けていた。
澄川正宗。クラスでもまったく目立たない存在。
言い換えれば空気のような存在。必要不可欠という意味ではなく、そこにいるのにいない存在という意味での空気。
“コイツは人殺しよ!!”
そう叫びたい。
でも、それができない。
昨日、真田に私が言ったところで無駄だと言われたせいもあるけど……
実は、本当の事を言えば……
昨日、一瞬でも澄川の殺人現場に“見惚れた自分”がいたから。
そう考えている間に授業は終ってしまった。後で美世にノート写させてもらおう。
以心伝心ではないと思うが、しばらくして美代が私のところへ来た。
「亜衣ちゃん、一緒にお昼しよう。有希ちゃんも一緒に」
あぁ、4時間目が終ったからお昼休みか。
パン買ってこなくちゃ。
でも……
「美世、ゴメン。チョット用事があるから先食べてて」
やっぱりハッキリさせなくちゃ。
私は席を立つと教室から出ようとした澄川の後を追った。
そして廊下に出たところで呼び止める。
「澄川」
私の声に澄川は立ち止まり、ゆっくりとした動作で振り向いた。
「……」
こっちを向いたもののコイツは何も言わない。
しかし、それに構わず私は話を続けた。
「アナタに話しがあるの。屋上について来て。昨日の事って言えば判るでしょ?」
すると、澄川は少し驚いた表情をしたあと、頷いて私についてきた。
屋上に出ると、気持ちの良い風が私を包んだ。
でも、素直に気持ちいいとは思えない。
さらに屋上の奥の方まで来ると私と澄川は向かい合った。
そのまま澄川を睨んだが、全く効果が無く、無表情なまま俯き加減で私を上目遣いで見ている。
……うぅっ、キモっ。
「とりあえず、警察に言うのは止めてあげる」
「……」
澄川は私を見たきり何も言わない。
「昨日の元気はどうしたの? 何か言ったらどう? 人殺し!!」
「っ……」
違う!! なんなの? この歯ごたえのなさは!?
でも、私が言いたいのはこんな事じゃない!!
落ち着こう。心の中で深呼吸をして自分の気持ちを落ち着かせた。
「なんで昨日、私を殺さなかったの?」
「……」
さっきから澄川はずっと黙ったままだ。
ずっと黙って時間切れを決め込むつもりだな。
私はイライラしてきた。
「答えなさい!!」
すると、澄川はポツリと言った。
「……から……」
「え?良く聞こえない。もっと大きな声で言って」
すると澄川は俯き加減だった顔を真っ直ぐ私に向け、ハッキリとした口調で言った。
「君の事を好きじゃないからだと思う」
は? 『好きじゃない』?
しかも、『からだと思う』?
頭の中は混乱の極みに達していた。
「ちょっと、どういうことなのか説明しなさい」
「『刹那』は……僕が好きになった人しか……殺さないから」
「はぁ?」
何言ってんのコイツ。
しばらく、私と澄川は睨み合った。
そして私の視線に耐えられなくなったのか澄川は俯いた。
と思った矢先、再び澄川は私のほうを向いた。
「要領悪いなぁ」
その顔は何だかいつもの澄川という感じではなかった。
ニヤついているのだ……というよりニコニコしてる感じ?
「もう!! ここまで言っても判らないのかよぉ〜。説明するの面倒くせっ! 面倒くせっ!!」
「な、なんなの? 急に性格が変わっ――」
「僕達……じゃなかった。澄川正宗は多重人格者なんだよねぇ〜」
「っ!?」
突然のことに私はそのまま動けなくなってしまった。